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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(9) ~ 最終章 新しき風 吹き抜ける世界
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新しき風 吹き抜ける世界(46) ~ 聞き慣れた声

 黒い雨雲が空に広がっている。

 ぽつぽつと降りしきり雨は、まるで空が泣いているようにも見える。

 佐渡せきが放った一撃は、大地を揺るがし、サン・ラジェイドをバラバラに吹き飛ばしてしまった。

 もはやそこに人型の彼女は存在せず、彼女を形作っていたものが所々に散乱しているのである。

 「やったみたいだな……」

 ナオキが呟いた。

 その傍で、佐渡せきがはぁはぁ……と息を吐いている。どうやら生きてはいるらしい。

 「なんだよ。結構余裕あったじゃねぇか。もう少し威力上げても良かったんじゃないか?」

 「冗談言わないでよ。もう限界、身体中が痛いんだよ?」

 サン・ラジェイドの惨状に対して、佐渡せきは身体はそのままを保っているが、指先ひとつ動かすだけで痛みが走っている。

 魔力で体力の回復を図れば、そのうち動くことが可能になるだろう。しかし、そうなるには早くても半日程度は掛かってしまう。

 しかもそれは歩くだけに限ったことだ。走ったり物を運んだりするにはもっと時間を要してしまう。

 要するに、こうしたところを狙われれば、

 「ひとたまりもない……」

 ということになる。

 少なくともサン・ラジェイドはバラバラに吹き飛ばしたのだから、これ以上の脅威はないと思いたいところだ。

 ――思いたいところだが、現実はそのようにうまくなるものではなかった。

 「フフフフ……」

 何処からともなく笑い声が聞こえたかと思うと、バラバラになっていたサン・ラジェイドの身体が一つに集まり、人の形をつくろうとしているではないか!?

 「なっ!?」「えっ!?」

 思わず二人は声をあげた。あんな状態で生きているなんて、通常ではあり得ないのだ。

 足りない部分は水が集まり、形作ったかと思えば、それが色と質量を持って身体を成した。

 たちまちのうちにサン・ラジェイドが現われた。ただし、服は戻っていない。全裸である。

 「うーん、服までは戻らなかったかー。まぁこんなもんでいいでしょ」

 パチン、と指を鳴らすと、波打つ水の衣が現われた。天露装衣アクア・ローブだ。

 「危ないところだったよ。コレがなかったら死んでたわ……まったく」

 サン・ラジェイドが苦笑を浮かべた。彼女の話に寄れば、『ある条件』を満たせていれば倒せていたことになる。

 (そりゃ一体なんだ!?)

 ナオキは咄嗟に考えていた。魔力のコントロール、術式の発動は術者の『意識』、頭脳による部分が大きいのだ。

 その頭脳を一時的にでも機能停止にしたのならば『再生術式』は発動しないはずなのだ。

 (いや、他に何か『再生術式』を発動させている媒体があるのか?それとも再生自体が別の……)

 考えたところでナオキはサン・ラジェイドに掴まれた。

 グッ……と小さく声が漏れた。前述の『再生術式』同様、フェニックスモードへの変化術も対象者(今回の場合は佐渡せき)の著しい疲労により効果が切れてしまうのだった。

 カスディ魔力結合自体は『主』と『従者』の接触で効果を維持することはできるものの、変化術は『主』の意識と集中力を要するのだ!!

 「変化術、それがあれば弱点である貴方達を隠すことができたけど……せきちゃんが倒れたら、隠れることはできないものね」

 サン・ラジェイドが笑った。メキッと鈍い音を立てて、ナオキは握り潰された。

 生死の確認もせずにサン・ラジェイドはナオキを投げた。もはやそんなことはどうでもいいのだろう。

 「残りは……」

 地底の邪炎霊クァーシアが残っているはずだ。ウェンシアの存在は、風切あやかとの戦闘で分かっている。

 佐渡せきの魔力結合で感知した魔力は2つ……ナオキとクァーシアのものである。

 「逃げた?」

 魔力が感じられない。どうやらナオキに構っている間にどこかに逃げてしまったようだ。

 「まぁ、いいか」

 あんな奴くらい、取り分け重要なものではない。重要なのは邪魔者を殲滅することだった。

 その邪魔者も全て倒した。

 「せきちゃん……」

 サン・ラジェイドが呟いた。きっと彼女なら自分のことを分かってくれると思っていた。しかし、彼女は自分を止めるために立ち向かってきたのだ。

 「分かってる。アイツらに騙されてただけでしょ?せきちゃんは私の友達でお姉さまも認めた存在……選ばれた者なんだから」

  足音が佐渡せきのもとへ近づいてきた。

 「くっ……あさひちゃん」

 小さく目を見開いて、佐渡せきはサン・ラジェイドを見た。そして目が合った。

 泣いている?その目には光るものが浮かんでいる。

 「騙されたんでしょ?あいつらに……そうなんでしょ!?そうだよね!?」

 「それは違うよ。騙されてなんかない。間違ってるのは……あさひちゃんの方だよ」

 「……バカッ!!」

 鮮血が舞った。サン・ラジェイド水の剣が、佐渡せきの胸を大きく切り割ったのだ。

 (あさひちゃん……)

 最後に呼びかけた声は口からは出てこなかった。意識も急激に遠のいていく、まさか自分が死ぬだなんて、考えたこともなかった……と思ったが、実をいうとそういうものでもない。

 意外にもそういう目には結構遭っている。

 (はは、意外と私ってばよくやった方なのかなぁ……)

 自分が倒れたら、あとはどうなるのだろう?誰がサン・ラジェイドを止めるのだろうか?

 (あやかさん……)

 佐渡せきは風切あやかの存在を思い起こした。そういえば、風切あやかの回復のために時間を稼ぐことは出来ただろうか?

 サン・ラジェイドの注意は十分に自分へ向いていた。ナオキでさえ、自分の命を投げ出してまで注意を引いていた。

 (私もまた……)

 1分でも1秒でも、サン・ラジェイドの注意を引いて時間を稼ぐことができたハズだ。

 出来れば彼女を説得して、八霊山の破滅をやめさせてやりたかったが……そうはうまく行かなかった。

 それならば、もうひとつの希望である風切あやかに賭けてやるべきだろう。

 「あやかさん……あとを……」

 意識が途切れる直前に発した声、その返事を佐渡せきはなんとか聞くことができた。

 「せき……よくやったよ。あとは私が決着をつけてやる」

 それは佐渡せきが聞き慣れている彼女の声であった!!

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