新しき風 吹き抜ける世界(45) ~ カスディ魔力結合!フェニックスモード!!
「あやか、その必要はないぜ!!」
さっと一筋の閃光が走った。その閃光はサン・ラジェイドの手へと突き当たり、思わず、風切あやかの首を掴んでいた手が離れた。
「な、なにっ……!?」
見てみるとバラの花である。なんでこんなところに……思わず注意がそちらへ向いた。
その一瞬を突いて、瞬間的に迫ったひとつの影が、サン・ラジェイドへ打撃を食らわせたのだった。
激しい乱打撃がサン・ラジェイドを襲い、決めの一撃が彼女を後方へと吹き飛ばした。
「大丈夫……じゃないな。動けるかあやか?」
影が手を伸ばしてきた。手を取り立ち上がると、風切あやかは驚いた。
あのサン・ラジェイドへ大打撃を与え、後方へ吹き飛ばした乱入者は……
「そうだ。このナオキさま決まってんだろ!!」
「いや違うでしょ!!私だって、私!!」
かくして佐渡せきであった。
意外なことに投げることに関しては上手かったのだ。武術剣術に関してはさっぱりだったのだが……。
「投げるだけに投げ出すことも上手いってこったな」
「そうそう。仕事も中々うまくいかなくってさー……ってそうじゃなーい!!」
「あら、せきちゃん久しぶり。元気してた?」
「……あさひちゃんなの?どうして、そんなことをするのさ!?」
「はは、私だって分かるんだ。結構姿が変わったはずなんだけど」
「その雰囲気は変わってない。どこか寂しげな雰囲気は……」
「そう?自分じゃ分からないよ。それはそれとして質問に答えないとね」
『定めである』と彼女は語った。地上の全てを破滅させることが自分の使命であると言った。
そんなことって……と佐渡せきは言いかけて口をつぐんだ。彼女はもう自分の知っている『流 あさひ』ではないのだろう。
今や地上の全てに害を成す『悪』であるということを佐渡せきは理解した。
「なにをやってるんだ。逃げろ……」
叫ぶような声が響いてきた。風のような細い声で、聞き取るのも難しいほどの声だ。
風切あやかの声である。首を絞められたことで声をあげるのも精一杯となっていた。
(とてもじゃないが、アイツらじゃ敵わない……はやく逃げて……!!)
佐渡せきたちがこの場から離れれば、自分は遠慮なく自爆を決行することができる。もっとも倒せる保証はないが、致命傷や行動不能に追い込むことはできるかもしれない。
この場を切り抜けるにはそれしかない。結果はどうあれやるしかないのだが、佐渡せき達が来てしまった以上は、それを行動に移すことができなくなってしまった。
「おい!!」
小さく呻いている風切あやかにナオキの声が降ってきた。
「あんまり俺達を見くびるもんじゃねぇぜ?」
風切あやかの思いとは裏腹にこんなことを言ってきた。風切あやかは倒れたまま、ナオキの方へ目をやった。
ナオキの赤い目が風切あやかを見下ろしている。
「お前の考えくらい、お見通しなんだよ!!」
「私の力を使って……ですけどね」
「クァーシア、それを言うところじゃないだろ!!……ともかく、お前一人に全てを背負わせる訳にゃいかねぇよな」
だったらどうして……!?と風切あやかは言いたかったが、今は息をするのでさえ精一杯だ。見えるのは、そんな風切あやかの意に反して自信満々なナオキ一行であった。
(なるほど)
ウェンシアの声がした。
(あやか、今のうちに身体の修復を行うよ。ナオキ達は時間を稼いでくれるようだ)
(時間を?)
「せき、さっき話したとおり、フェニックスモード行くぜ!!」
「もっちろん!!」
フェニックスモード!?初めて聞く言葉である。こんな言葉は地上ではまず聞いたことがない。
だが地底ならどうだろうか?地底ではそうした言葉についての文献が残っている。
『フェニックスモード』というのはナオキが考えた造語である。文献に残っている言葉ならば『カスディ魔力結合』といい、魔力を持つものを対象者に従わせ、魔力を増大させるというものである。
『従者』の魔力が高ければ高いほど『主』への魔力増強効果は強く表れる。
この術式の最大のメリットは『主』に当たるものが魔力を持っていなくても、強大な魔力を一時的に得ることが出来るという点にある。
佐渡せきのように戦闘能力が著しく低くても、強大な相手に対等に戦うことができる!!……かもしれないのだ。
ただし、一時的にはとはいえ強大な魔力を得るにもリスクが存在する。
それは『主』が『従者』を通して魔力を得るには身体の一部が接触している必要があるのだ。
この術式が文献でしか残っていない理由がここにある。常時『主』と『従者』が接触していなければならない!!という発動条件を満たすことが困難であったため、誰も使いこなすことができなかったのだ。
そんな『カスディ魔力結合』を佐渡せきを『主』、ナオキとクァーシアを『従者』として行っている。
ナオキとクァーシアが鳥の姿として佐渡せきの肩にとまっている。発動条件を満たしているのだ。
「この姿が、こんな形で役に立つときが来るとは思わなかったぜ」
「もともとは私とウェンシアが連携を行うために研究していた術でしたが……合体術式の開発で不要になってしまったのですわ」
ウェンシアの考えでは、
「多数の地獄烏に分裂してそのうちの数羽が常にウェンシアと接触し続ける」
という連携をとるつもりでいたらしい。分身の地獄烏は視界を共有しており、相手の監視を行うこともできるため、非常に強力であったのだが、分裂した分だけ得られる魔力は少なくなるし、視界の共有ももとよりクァーシアがウェンシアの傍で行っているため、そんな術式はいらなかったのだった。
「強い魔力……この場に乗り込んでくるだけのことはあるね」
サン・ラジェイド……もとい流 あさひは既に見抜いていた。佐渡せきがこの短期間にこれだけの魔力を身につけることは不可能であることに。
それを身につけているということは何らかのカラクリがあるということだ。
そして魔力の源は二つある。
(鳥二匹、バカップルの片割れとボロ雑巾か……)
以前から接していた佐渡せきは魔力を有していなかったし、持ち得る要素もなかった。
「せきちゃん、どう?今なら見逃してあげるから、私と戦うのをやめない?」
「…………!?」
佐渡せきは構えを取ったまま、向かい合っている。
「どういうこと?」
「少しだけ仲良くしたよしみで見逃してあげようかなって。どうせ私が本気でやったら、あっという間に勝負がついちゃうから……」
なるほど、サン・ラジェイドは『カスディ魔力結合』の仕組みを見抜いている!?とクァーシアは悟った。
この術式の弱点は、前述のとおり『主』と『従者』が常時接していなければならない点にあるが『従者』が狙われ、倒されてしまうと結合に参加できず、魔力は得られないという欠点が存在した。
それに気付いた以上は、狙うのは『従者』であるクァーシアとナオキであろう。
クァーシアとナオキはせきに魔力を提供している従者である。2羽分の魔力にせきを媒介としてようやくサン・ラジェイドの足止めが出来る程度の魔力を持つことができているのだ。
クァーシアとナオキ、どちらかが倒されれば、その時点でカスディ魔力結合の効力は半減する!
そうなれば太刀打ちどころではないだろう。それだけは絶対に注意しなければならないのだ!!
「せき、アイツの言うことは聞くことはなねぇ……そう決めて、ここに来たんだろ?」
「うん……もう決めたことだから」
「へぇ、何を決めたの?……あぁ、降参することじゃなさそうね」
勿論、というように佐渡せきが頷いた。
「悪いけど、思うようにはさせないから!フェニックスモード発動!!」
叫ぶや佐渡せきの身体を燃え盛る炎が取り巻き、そこから大きな炎の翼が現われた。
全身も強く熱を持っている。近づくだけで火傷を負いそうなほどの熱気を纏っていて、本来ならば佐渡せきも大火傷を負っているところだが、そこはクァーシアとナオキの力で炎と熱に対して大きく耐性を貰っている。それだけではなく、
(あのバカガラス2匹がいない……!?)
フェニックスモードを発動して、クァーシアとナオキの姿が消えていた。
消えたクァーシアとナオキに対して現われた大きな翼……これが意味していることはただ一つで、
(考えたね。変化術か……)
カスディ魔力結の最大の弱点である『従者』との接触、そして撃破――
この二つの対策として従者との合体を行ったのだ。
これにより『従者』は『主』から離れることなく、そして倒されることもない。
「でも、空は飛べるわけじゃないからな。あくまで分離しないようにするためだ。分かったな?」
訓練をつめば空も飛べるのだが、なんの訓練もしていない佐渡せきが、翼を得たところで飛べるわけではない。
得たものといえば熱気と翼を利用した俊敏さであろうか。
あっという間にサン・ラジェイドとの距離を詰めると、さっと拳を突き出して攻撃を試みた。
武術に関しては得意でない佐渡せきであるが、これは相手に打撃を与えるためのものではない。
(あやかさんから、少しでも引き離さないと……!!)
このことである。
サン・ラジェイドと風切あやかとの距離を空ければあけるほど、彼女は回復に専念できるだろう。
下手な鉄砲も数打てば当たる……一応、フェニックスモードにより佐渡せきの身体能力も飛躍的に向上しているのだ。
殴れば岩でも砕けるし、彼女の纏う熱気も近くにいればタダで済むものではない。
このように一応は佐渡せきでも戦える要素は持っているのだ。
「それにしてもヘタクソだなぁ、せきぃ。一発も当たりゃしねぇじゃねぇか……」
「当たればラッキーくらいに思っといてよ!これでも必死なんだから」
「にしても下手だぜ。おいっ、前!前!!」
いっ!?と小さく声を上げる間もなく、サン・ラジェイドの斬撃が目の前を通り過ぎた。
「せきちゃん、武術がなってないよ。お姉さまから教わったんじゃなかったの?」
「ヒスイのこと……もっと一緒にいたかったよ」
「…………」
佐渡せきの体が宙へと浮いた。
空を飛んでいる訳ではない。サン・ラジェイドに腹を殴られたのだ。
そのまま胸倉を掴まれて、サン・ラジェイドの鋭い目が佐渡せきへと向けられた。
「せきちゃん、私と一緒に来てよ。お姉さまが認めたせきちゃんなら、特別に新しい世界に招待してあげるから……」
声は優しげではあるが、視線は殺気をふんだんに含んでいる。有無を言わせるつもりもないようだった。
「それはできないよ!!」
さっと身体を振るわせた。思いっきり脚を突き出して今度はサン・ラジェイドの腹を蹴った。
服を掴んでいた手が外れると、体勢を立て直し、すぐに顔を殴りに行った。
身体をバラバラにしてもすぐに再生する……ならば、頭を抑えるしかないだろう。
身体の再生も全ては頭部が生きていればこその『再生』なのだ。頭部による意識が途切れれば、
(再生できないハズですわ)
というのがクァーシアの案であった。ちなみにナオキの案は、
(再生しなくなるまで殴り続けりゃいいだろ?お?)
だった。もちろん、クァーシアと佐渡せきに却下された。
グングン頭を殴り続けてやった。佐渡せきにとってはかつての友人である。力を緩めて、説得に当たりたい気持ちは当然持っている。しかし、佐渡せきにはサン・ラジェイド……いや、流 あさひを説得できる自信を持ってはいなかったのだ。
ごめん、ごめん……!!と念じながらに殴りつ続けた。
普通の人間だったら、首が吹っ飛んでいるほどの威力である。それを耐え続けているサン・ラジェイドの頑強さである。
さすがに佐渡せきも殴り疲れてきた、ように感じている。
感じているだけで、あんまり疲れているわけではない。要ははやく殴るのをやめたかったのだ。
「あさひちゃんが謝れば、私、もうやめるよ!?」
しかして返事はなかった。返事がない以上は、やめることはできない。
(おい、コイツにかける情けはねぇぞ!!分かってんのか!?)
(…………)
「黙ってて!!これで最後にするから……あさひちゃん、もうこんなことはやめて。やめるって言って!!」
「…………」
佐渡せきが右手に力を入れた。そこには魔力すら込められている。ナオキが見る限り、その拳には膨大な破壊力を有しているだろう。恐らく、打てば相手のサン・ラジェイドはおろか、殴った佐渡せきも反動で右腕が全て吹き飛ぶほどだろう。周囲もタダでは済まない。
(俺達が吹っ飛ぶのは構わないが、コイツとあやかが吹っ飛ぶのはマズいな。おい、クァーシア)
(あら、優しいですわ。ナオキさまってそんな性格でしたっけ?私達にはいつもツラく当たっていたでしょう?)
(お前らは別。コイツが死ぬのは嫌だから、パワーを抑えるようにしてくれ)
(パワーを抑えたら、水霊の姫が倒せませんわ。水霊の姫を倒すか、せきさんを助けるかのどちらか、ですね)
一向にサン・ラジェイドからの返事はない。もはや気を失っているのだろうか?いや、目は佐渡せきを見据えているし、口元には小さく笑みを浮かべている。どうやら『やめる』つもりはないらしい。そのことはこの場にいる誰が見ても明白であった。
「やめないよ?私がやめなくても、せきちゃんはやめたいんでしょ?それでいいじゃない」
ギリッ、と佐渡せきが歯を噛んだ。これはヤル気だ!?とナオキは悟った。だとしたら、すぐになんとかしなければならない!!
(しょうがねぇ!!逆だ!逆にせきの方を反動に耐えられるようにするっきゃない!!それならどうだ!?)
(うーん、それならパワーは少し削がれますが、この子が死ぬ可能性は低いでしょう。分かりました)
「もうあさひちゃんなんか……知らないっ!!」
佐渡せきが思い切って右腕に込めた力をサン・ラジェイドの頭部へと叩き込んだ。
そのときの彼女は、ナオキやクァーシアの想いとは裏腹に、自分が死ぬかもしれないことは、
(あさひちゃんだけは絶対に倒すんだ!!)
全く考えてはいなかったそうだ。




