新しき風 吹き抜ける世界(47) ~ 三界発現
「まだ生きてたの?みんな、死んだんだよ。あんた一人じゃ何もできないでしょ?」
「私は一人じゃない!みんなの意志、力を持って、ここに立っている!!」
「何いってんの!?そこにいるのはあんた一人だけでしょ!!――えっ!?」
思わず、サン・ラジェイドは息を飲んだ。風切あやかの背後に自分が倒してきたモノを見たのだった。
それはサキであったり、ナオキであったり……佐渡せきだった。
なにかの魔力の作用だろうか!?炎の魔力を駆使すれば背後に幻影を生み出すことは十分に可能である。
しかし……!幻影を生み出すための魔力は一切感知できていない!!
これは魔力によるものではないのだ!!それならば一体なんだというのだろう。
「ふ、ふん!そんなものを見せたところで、アンタを倒しちゃえば同じなんだよ!!」
水の剣……その波動を大きく作り上げた。水の剣の刃を成している水は刀身を描くように急速に回転した。速度と力を有した水は触れるものを真っ二つに切り裂き、そして破砕していく。
その先に風切あやかの身体があった。
どうだ!!とサン・ラジェイドが笑ったものの、その水の剣は風切あやかを引き裂いてはいなかった。
「どうして!?」
再度、水の剣に魔力を与えて、破壊力を持たせたものの、水の剣は風切あやかを引き裂く前に弾けて消えてしまうのだった。
(さっきよりも魔力を多く込めたのに……どうして!?)
1度目は確かに侮っていたのかもしれない。しかし2度目は本気で殺すつもりでやったのだ。
佐渡せきがやってくるまえの風切あやかならば、これで十分すぎるほどに即死しているほどの威力である。
そんな魔力を持った水の剣がどうして効かないのだろうか!?
「お前の剣は『水』の魔力によるものだけだろう?」
「それがどうしたっていうの?私は水霊の姫だ!当たり前のこと……!!」
「私の魔力は『炎』と『風』だ!『風』の魔力が『炎』を強くし、お前の『水』を弾いているんだ!!」
「そんなこと……!!」
炎の魔力程度ならサン・ラジェイドだって扱うことはできる。火紗を通して炎の魔力をその身に宿しているからだ。
しかし――
彼女は炎の魔力を扱うことはできなかったのだ。
『災厄邪炎獣 ズィー・ガーネアス』
強力な魔力を持つ邪炎獣を呼び出すのに、火紗は大半の炎の魔力を使ってしまっていたのだった。
そんな火紗をその身に封じたからには、サン・ラジェイドの持つ炎の魔力は然程に大きなものではない。
先ほどまでの圧倒的な力はその残った魔力によるものだが、それまでだったのだ。
「フン!水の魔力が通じなくったって、私には力がある!!」
水の剣を手放すと、さん・ラジェイドは右手を握り殴りかかってきた。前述のとおり、炎の魔力の残りが僅かとはいえ身体能力は飛躍的に強化されている。
速く、そして破壊力を秘めた一撃である。
風切あやかもまた構えを取った。向かい来るサン・ラジェイドを迎え撃つ構えである。
その手には……蒼く輝く二本の短刀翡翠刀が握られている。
(あれは……)
とサン・ラジェイドは思わなかった。流 あさひであった頃は愛用していた刀であったが、今となっては取るに足らない不要な物である。
風切あやかは捨てられたこの刀を手に取っていた。
翡翠刀には流 あさひが使っていた頃の水の魔力が込められており、水の魔力は邪悪な炎の魔力で強化されたサン・ラジェイドの腕を吹き飛ばした。
「ぐうっ……でも、いくらやっても無駄さ!何度だって再生できるんだから!同じことの繰り返し、私を倒すことはできない!!」
「その繰り返しも、もう終わりだよ」
「なにっ……!?」
風切あやかから突風が巻き起こった。全方位に巻き起こる風は、まさに嵐というべきだろうか。
空を覆う黒い雨雲も、そこから落ちる雨粒も……まるで台風が来たかのように荒れ狂うと、たちまちのうちに、かき消されてしまったではないか!!
「そ、そんな……!!」
「お前の再生能力、あれはあの雲と雨によるものなんだろ?せきとの戦いで意識を飛ばしても再生しているのを見て、ウェンシアとクァーシアが教えてくれたんだ」
「アイツ、逃げたんじゃなかったのか……!!」
「私の力は皆の力だ……風の魔力も皆の力が合わさって発現した」
サキやナオキ、佐渡せき、彼等の犠牲をもって、風切あやかの風の魔力……退魔の力は再び芽を出した。
それだけではない。今、彼女の手に握られている『翡翠刀』、それには流 ヒスイの思いも込められている。
『どうか、あさひを止めて欲しい。もう休ませてやって欲しい』と……。
もう彼女を護っている雨雲はない。再生能力も失い、吹き飛ばされた右腕もそのままとなっている。
これで最後だ。と風切あやかは思った。
宿している全ての魔力を開放して、今、全てを終わらせる時であると――。
風切あやかが宿している風の魔力、地底の魔力である炎の魔力、そして翡翠刀に込められた水の魔力。
3つの世界の3つの魔力が合わさり、一つの大きな魔力となった。
三界発現『ギアカ・ホーオル・イオーガ』
風切あやかから発せられた巨大な炎――風をまとい増大し、そして水の導きをもって前へと進む。
「くっ……うっ……そんなことが!?この私が……!?!?」
サン・ラジェイドは炎に包まれた。聖なる炎の熱はたちまちのうちに彼女の身体を蒸発させていった。
バラバラに分解されていくうちに、彼女の精神もまたいくつかに分かれた。
(お姉さま、そこにいるの?)
消え行く意識の中で、流 あさひは流 ヒスイを見つけたようだった。
手を伸ばしてみた。もはや彼女には腕はない。意識だけ、腕を伸ばして求めているのだ。
届かない?実体がないから?いくら求めてもそれを掴むことはできなかった。
もう無理なんだろう。流 あさひは諦めた……諦めようとしたところで、
(あっ……)
伸ばした腕を、その手を握る感触を感じ、彼女は顔を上げた。
(お姉さま……私……)
流 あさひは最期に流 ヒスイの顔を見たのだった。その顔は優しく微笑んでいたのだった。




