新しき風 吹き抜ける世界(42) ~ サキの戦い
「炎の魔力だけならまだしも、水の魔力まで扱うなんて……」
しかもその強さも並外れている。炎と水の魔力を非常に高いレベルで操っている相手は、サキにとっては初めてだった。
「私を誰だと思っているの?水霊の姫だよ?アンタみたいな地底のゴロツキと一緒にしないでよ」
サン・ラジェイドが水泡を飛ばした。
「くうっ……!!」
サキが水泡に跳ね飛ばされた。水泡でありながら、その塊はまるで岩のように堅い。
堅いものを弾き飛ばすなら、腕力に自信のあるサキにとっては何も難しいことではない……だが、その水泡は腕力では弾き返せない!!
殴ろうとすると表面が崩れるのだ。水面を殴っている感覚に近い。それでいて、その他の部分は圧力を……硬度を持っているのだ。
「なんとかアイツに近づくことができれば……!!」
逃げる隙も与えない。滅多打ちにするのみである。謝っても許さないし止めてもやらない。
水泡は遠距離に発射するタイプの攻撃である。速度は遅く見切るのは難しくはないが、津波となって雪崩れ込んでくる。
こうした場合では逆から衝撃を与えて粉砕するのがベターなのだが、前述のとおりこれは殴れる壁ではない。
むしろ殴らずに対処するべき壁である。
「とはいってもですね……」
正面から壁が押し寄せてくるのでは避けようがない。避けるならば壁よりも高く、上空へ飛んでしまえば良いのかもしれない。
そう思い、サキは小石を拾って上空へ投げ上げた。
黒い点が黒い雲海の広がる空へと飛び上がると、ぱっと弾けて消えた。
やっぱり。とサキが小さく息を吐いた。壁があるなら、乗り越えればいい。と考えるのは自分だけではなかったのだ。
相手もまたそれを見越して高く飛び上がった敵を迎撃しているのだった。
目の前に津波が迫ってきている。その先にも予断を許さない第2第3の波が向かってきている。
(私相手にここまでしてくれるとは……ある種、光栄ね)
容赦ない水攻めである。今のサキはかつての地底の亡霊ではない。なので昔と比べて『水』を弱点とはしていないのだ。
ただし、あくまで昔と比べて、だ。『水』を苦手としていることに間違いはない。
あれだけの攻撃を受ければ、サキは無事では済まないだろう。済まないどころか致命傷になり得る!!
衝撃を加えて粉砕することも上空へ回避することもできない。
「……それならいっそのこと耐えてみましょうか!?」
サキは手元に力を込めた。その瞬間、『水』の力がサキへとぶつかった。
水が大きく弾け飛ぶと、後続の波が繰り返しぶつかり、小さく爆発を起こしたのだった。
「あれだけ魔力を込めた水の力……耐えられっこないでしょ!!私の力、思い知った!?ハハハハハ!!」
サン・ラジェイドの高笑いが響き渡ると、黒い空から雨が振り出した。
「ハハハハ、ハハ……」
はっとして、サン・ラジェイドが後ろを振り返った。しかし、それも間に合わず、
「グアッハ……」
彼女の体が前へと吹き飛んだ。なんで?どうして?彼女の胸が高く鳴っている。
前のめりに倒れたサン・ラジェイドを彼女を殴り飛ばしたままの体勢でサキが見下ろしていた。
「空がダメなら、地底ですわ」
地底……!?そうか地底か!!サキは津波が直撃する瞬間に、手元に込めた力を地面へと振り下ろしたのだった。
地面には大穴が空き、そこに潜りこむことで津波をやり過ごしていたのだ!!
「思い知ったかしら?貴方の力が全てではないことが!!」
油断なくサキが倒れているサン・ラジェイドを睨みながら言い放った。
睨みながら――彼女の身体を見つめているうちにサキは違和感を感じた。
(おかしい?見え方が……光って見えるような?)
そう思った矢先のことだった。
「思い知る?分かってもないのに何を思い知ることができるの?」
サキの背後にサン・ラジェイドが立っていた。
「どうして!?」
彼女は目の前に倒れているはずだ。それは確かに彼女だった。いやしかし――
『水霊鏡 ミラーレイ・ウォーター』
水を利用した分身術!光を屈折させて術者の姿を作り上げる!!
サキが見ていたサン・ラジェイドは水溜りに過ぎなかったのだ。
「いや、たしかに手応えはあったはず!?」
殴ったときには確かに感触はあった。ダメージは与えられているはずだったが……
「そんなことすら分かってない。アンタ、散々タイダルウェイブを殴ってたでしょ?」
「あっ……」
そうか。感触もまた硬度を持たせて再現していたのか。
簡単なことだったが、相手を倒すことに必死になり過ぎていて気付くことができなかった。
気付いたことといえば――ある違和感だけであった。
「ナ、ナオキさま……」
サキは咄嗟にナオキの名前を口にしていた。ナオキならば、この分身術を見抜くことができていたであろう。
「フン、この期に及んで、口にするのがあのボロ雑巾なの?」
吐き捨てるように言うと、サキの胸元で水が弾け散り、サキの身体が宙へと飛んだ。
見たところ魔力により発生した水流がぶつかり合ったことにより、強い衝撃波が発生していたようだ。
衝撃波が空気を揺らしている。その爆音も並大抵のものではない。
地に落ちたサキはもう動かなかった。
あれだけの威力の術を至近距離で受けてしまったからにはタダでは済まないだろう。
「まったく、手間取らせやがって……でも、そのお陰で――」
サン・ラジェイドが水流がぶつかり合うことで発生した霧の中へ目をやった。そこにはうっすらと人影が浮かび上がっている。
「アンタの準備は整ったみたいじゃない。風切あやか」
「流 あさひ……いい加減、お前の好き勝手もここまでにしてもらうよ。八霊山を護るためにね……!!」
サン・ラジェイドとウェンシアを封じて炎の魔力を宿した風切あやかがついに向かい合った!!
辺りは雨が降りしきり、白く煙つつあった。




