新しき風 吹き抜ける世界(41) ~ 火焔封印術 ガーソナル・イン
ヤツを倒す方法はないのか?サン・ラジェイドの持つ炎と水の力は圧倒的である。
ただの護山家である風切あやかでは到底太刀打ちできるものではない。
今受けた傷でさえ致命傷に近い……この傷を抱えたまま、戦うことはとてもできないだろう。
「ちっ……」
風切あやかから舌打ちが漏れた。地底での時もそうだった。自分は肝心な時に戦えないではないか。
相手が強大すぎる?いや、自分が弱すぎるだけなのだ。
(こんなことならもっと鍛えておけば良かったな……)
そう思わずには居られなかった。風切あやかの意識が途絶えようとしていたそのときだった――
「おーい!大丈夫か!!今、そっちに行くからな!!」
大きな声が響いてきた。
はっとして風切あやかが目を開くと、遠くに佐渡せきと蒼水れい、それにナオキとサキがいた。
「サキ、俺達はあやかを見るから、お前はあっちのヤツの相手をしろ!……アイツ、相当強いぜ?いけるか!?」
「相手は強いのに限る!でしょう?燃えますって、その方が!!」
「よし。行けっ!!」
さっとサキがサン・ラジェイドへ向かっていった。距離をつめての肉弾戦を仕掛けたのだ。
「れいちゃん、水を……」
分かってる。と蒼水れいが八霊名水を風切あやかに飲ませた。死者さえも甦らせる……というのは、特別な八霊名水の効力である。普段は滋養強壮、元気百倍程度の効力を持っている。
風切あやかを立ち直らせるには前者の効果が必要だ。
そのため、蒼水れいは八霊名水に自身の持つ大半の魔力を注いでいた。
「くしゅん!くしゅん!!あやかちゃん、さっき私の話をしてたろ?」
「なんで知ってるんだよ」
「ホントに行ってたの!?あてずっぽうを当てられたら、傷つくなァ……この借りは後でちゃんと返してもらうからね」
「うわっ!れいちゃん、しおしおになってる!!大丈夫なの!?」
「魔力を注いでるからさ。後で川の水にでも漬けて……半年は放っておけば元に戻る……さ」
「半年か……長いな」
「うそ、1週間」
お前なぁ……こんな時にそんな冗談を言っている場合じゃないだろ。と風切あやかは思ったが、しおしおの蒼水れいを見ているととてもそんなことは言えなかった。
「せっかくれいが治してくれたんだ。無駄にはしないよ……」
とはいったものの、力の差は歴然である。このまま戦えばあっという間に先ほどと同じことになってしまうだろう。それでは蒼水れいの気持ちも無駄になってしまう。そればかりか、しおしおの蒼水れいにはもはや復活の水を作るだけの魔力は残されていない。今度致命傷を貰ったら終わりである。
「なにか良い方法はないか」
風切あやかは周囲を見た。ナオキに佐渡せきにウェンシアがいる。経験豊富な二人ならきっと何かいい案を出してくれるかもしれない。
「今はサキが頑張ってる。しょうがないから、俺ら全員で殴りかかるしかないんじゃないか?」
数で攻めて、誰か一人が隙を付いて致命傷を与えれば良い!というのがナオキの案である。
「終わったら、れいちゃん復活まで結構掛かりそうだね」
佐渡せきがちいさく呟いた。しおしおの蒼水れいはもう眠ってしまったようで目を閉じたまま動かない。
「有効な方法が一つあるよ」
といったのはクァーシアである。ホントか!?と一同の注目を集めた。
今現在、サン・ラジェイドと戦っているサキを含めて、知的な作戦を立てられるのは彼女だけである。
仮にサキに作戦を尋ねたとしても、十中八九、ナオキと同じことを言うだろう。
ついでに佐渡せきも特に良い考えが浮かばないので、同じことを言うだろう。
風切あやかも同様である。
こんな始末だから、一同の目は輝いた。どんな方法があるのか!?と食い入るように鳥の姿を見つめている。
「あやかに火の魔力を与えるんだ。水霊の姫が火の魔力を得たのと同じ方法でね」
「封印術か……でも、あやかはそんな術使えないぜ?魔力すら持っていないんだぞ」
「封印術に関しては僕がやる。それと、あやかは魔力は持っていないが、力は持っている……『風』の力だ」
「風だって?」
クァーシアは風切あやかの一番近くに居ることで、彼女の潜在能力を感じることができていたのだった!
それは『風』の力である。
「そんなこと聞いたことがないぜ!?」
ナオキが言う。誰しもが感じたことだろう。身近に居た佐渡せきや高山はるかですら知らなかった事実である。
しかし……思い出してみてみれば、誰かが覚えている事実がある。
風切あやかの前身である。八霊山の誰しもが、彼女の前身を知らないのだ。
知っていることといえば、彼女が転生術によって山ノ民……護山家として甦ったことくらいである。
風切あやかの持つ『風の力』それは元々彼女に備わっていたもので『死』を挟むことで眠りに付いた力であった。
後々、この力について研究をした山城 暁によると、それは外の世界の話……
『風陣一族』という者達の持つ力であることが分かった。
『風陣一族』はその特殊な力を用いて、人々を助けていたものだったが、それが人々には逆に脅威に映った。
「彼等が風の向きが変わるように考えを変えてしまえば、自分達は彼等に逆らうことができない」
そうした考えが人々の間に広がり、ついには風陣一族の迫害が起こったのだった。
「私は、もう生きるのが嫌になりました。人というものが信じられない……そう、私は弱い」
今の彼女を考えれば、とてもそんなことを言いそうにはないのだが、これは紛れもなく生前……死亡する前の風切あやかの発した言葉なのである。
それだけにその力を発揮するには彼女の意思が必要であった。
「確かにあやかには『風』の力がある。けど、その力は強固に封印されていて……これは僕の力じゃ開放できない」
「なんとかする!もとは私の力なんだろ!?なら使うことはできる!使ってみせる!!」
風切あやかが決意に満ちた目でウェンシアを見た。
「もちろん、僕の方でも手伝うよ。君の中に封印される以上、一心同体になるからね」
「はっ!?そうだな。もう一方の……カンシア……だっけ?」
「クァーシアですわ。お久しぶりですね」
ああ、そうそう。と風切あやかは頷いた。別段、風切あやかとクァーシアの間には面識はない。
ウェンシアとはこうして一緒にいる時間は多かったのだが、別行動をしていたクァーシアとは、今回の話では全く出会っていないのだ。
見ていたとして、前回のバーンアウトの一件でのときくらいのものだが、あの時はあの時でメインで戦っていたのはウェンシアだった。戦った後はそのまま二人で『クァエン・クルルァ』へ合体してしまったため、意識としてはナオキの会話と少しだけ顔を見ることが出来たくらいのものだった。
「あぁ、久しぶり……だな」
気のない返事である。まぁ、そんなことはどうでもいいとして、クァーシアは、
「私もサポートしますわ。貴方の中に封じられているウェンシアとはテレパシーで会話ができます」
そういえばそういう話もあった。ウェンシアとクァーシアは姉妹ではないが、互いに交信することができるのだ。
今回の場合、風切あやかの中のウェンシアを通して、クァーシアが周囲の状況を伝えることができるらしい。
「お、オレも何かやった方がいいか?」
ナオキが前へ出た。今、向こうでは先が戦っている。ウェンシアとクァーシアがサポートに出る。自分は何もしていないのがもどかしいそうだ。
「わ、私も何か……」
続いて佐渡せきが小さく言った。いつもならば怖気づいて前へ出てこない佐渡せきが、こんなときばかりは戦地へ踏み出そうとしている。
お前達……と風切あやかは思った。彼女達の思いは確かに心強い。しかし、彼女達が踏み込んで行っても危険なばかりである。
先ほどの自分がどうであっただろうか?戦う以前の問題であった。
サン・ラジェイドは自分が圧倒的な力を有していることを十分に自覚してしまっている。
そこに佐渡せきやナオキが出て行ったところで、一方的にやられるならまだマシなくらいで、怖いのは遊び半分で痛めつけられることだろう。
そうした気質を先ほどのやりとりで風切あやかは見て取っていた。
「皆には危険な目にあって欲しくない」
そう呟くのみであった。そうか……とひとつ頷いた。
「お前がそういうなら仕方ねぇな。だが、俺もせきも敢えてお前に譲ってんだぜ。お前がやられそうになったら……そんときは俺達がやっちまうからな」
そうだろ?とナオキが佐渡せきの肩を突くと、
「もっちろんだよ!私たちのことを思うなら、思いっきりやってきてよ!!」
どっと風切あやかの胸を叩いたものだった。それが思ったよりも強く、風切あやかは後ろへ倒れそうになったところをなんとか持ちこたえた。
「やったなぁ。お前ぇ……」
佐渡せきが自分をこんなにも強く叩いてきたことは、過去に一度たりともなかったのだった。
どちらかといえば怖い上司の風切あやかであるから、へこへこと腰を低くするばかりで気を強くして小突くなどということは、夢にも思ったことはなかっただろう。
そんな彼女がこうして自分を押し倒すほどに強く当たって来ているということは相当な決意を持ってのことだ。
風切あやかはそれを感じとると、大きく頷いて、
「すぐにアイツを倒して戻ってくるから、少しだけ待っててくれよ」
二人に告げると、戦場へと向かっていった。
「さよならは言わなくていいんだね?」
「お前、そんなつもりはないんだろ?」
「もちろん。あやかがやられそうになったら封印術は解除するよ……といいたいけど、僕も情が移ったみたいでね。最後まで一緒に居てあげるよ」
「ありがとう、な」
「どういたしまして。それじゃ、キミの身体に僕を封印するよ。これで僕の持つ炎の力を使えるはずだ。あとは……あやか自身が、自分の持つ力を見つけるんだ。いいね?」
分かった。と風切あやかが頷くと、ウェンシアが目を閉じて、声をあげた。
『火焔封印術 ガーソナル・イン』
鳥の姿をしたウェンシアの体が突如として燃え上がった。そしてその炎は瞬く間にウェンシアの体を燃やしつくし、彼女の実体を消し去ったのだ!!
残っているのは彼女を焼いた炎だけである。その炎が風切あやかと同化し、吸い込まれるように消えていった。
「お前の身体、燃えてたけど大丈夫なのか?」
「もともと精霊なんて実体なんか持ってないさ。各々が好きな姿をとっているだけだよ」
ちなみにウェンシアがとっていた姿はクァーシアの好みを反映したものであり、クァーシアの姿はウェンシアの好みを反映した姿となっている。
鳥の姿は魔力不足で好きな姿がとれなくなっていた為の仮の姿なのだ。
ともかくウェンシアをその身に封じたお陰で、風切あやかには炎の魔力が宿っていた。
これで炎を操り、炎を使った攻撃に対して耐性ができるのだという。
颯爽と風切あやかは駆け出した。体が流れるように動いている。
「これもお前を封じたことによるものなのか?」
聞いてい見るとウェンシアはそうだと話した。
炎の魔力を放出することで推進力としているらしい。
どうやら風切あやかでも簡単には炎の魔力を使うことができるようだった。
魔力を扱う訓練を行っていないため、魔術を放つことはできないが、魔力を武器に宿す程度のことはできるという。
今から魔力を扱うための訓練を行っている暇はない。しかし、炎の魔力を推進力とする能力に慣れることはできる。
(アイツの攻撃を避けることができれば……)
勝ち目があるかもしれないと風切あやかは思った。




