新しき風 吹き抜ける世界(39) ~ 封印により生まれし者
「一つ、私はバーン・アウトの爆発を食い止めた」
バーンアウトの一件で発現したバーン・アウトの化身『ギラバーン』作中、唯一の性別不明の彼が引き起こした大爆発は、本来ならば地底はもちろん、地上をも火炎地獄と変えるところであったのだが……
それを流 ヒスイは地底での大爆発程度に食い止めたのだった。
しかし、それほどの大きなエネルギーと爆発を食い止めて、流 ヒスイが無事であったはずもなかった。
その身体は炎に焼かれて完全に消滅していたのだ。
しかしそのエネルギーと爆発は広がった後で、またいくつかの形を創りはじめた。
そうして出来上がったのが4人の邪炎霊と邪炎帝であった。
その中の1つに……消滅してしまった流 ヒスイは到達することができたのだ!
これは想定外であり、奇跡といってしまっても良いことだった!!
流 ヒスイの精神が宿った先は邪炎霊の『火紗』であった。何故、彼女であったかといえば、それはただの巡り会わせなのかもしれない。
流 ヒスイと火紗の共通点といえば『姉妹の中で長女』にある。
母である邪炎帝でもなければ、妹達であるリィザやほたる、それにヒィでもなかった。
ただ奇跡に至っただけにその存在は、決して確立されてはいなかった。
流 ヒスイの意識は火紗の中に存在こそしても、表に出ることはなかったのだ。
もしも『あのこと』がなければ、流 ヒスイの意識は永遠に火紗の中から外へ出ることはなかったのかもしれない。
『あのこと』――とは、地底で風切あやか達と戦った時のことである。
風切あやかの足払いにより、火紗の体勢が崩れ、自身が支えていた炎が自分のもとへ落ちてきた。
その強大な魔力は、火紗の意識を吹き飛ばすには十分すぎるほどであった。
それもそうだろう。あの魔力は邪炎帝にリィザにほたる、それにヒィのものも合わさった途方もなく巨大な魔力なのだ。
火紗が魔力の大きさを理解し、そして正しく扱えるようになるには、魔力を奪ってからの時間(期間)が短すぎた。
そうした訳で、あの瞬間から流 ヒスイの意識は表に出られるようになったのだった。
しかし、だからといって火紗の体を自由に動かせるようになった訳ではない。
火紗の意識に作用しながら、僅かに表に出られるようになったに過ぎないのだ。
火紗の願望である『地上の破壊と支配』は、今尚、持ち続けている。火紗の中に流 ヒスイは確かに存在しているものの、その願望、欲望には逆らうことはできないのだ。
出来れば何も知らずに火紗が倒されてしまう方が良かった。
戦う相手が長年、探し続けていた妹の流 あさひであったからこそ、最後の最期に思わず言葉を出してしまったのだ。
「そういうことだ。私は消えるしかない」
「そ、そんな……」
なにか良い方法があるはずだ、と流 あさひは必死に考えた。何かの秘術や呪術を用いれば、火紗と流 ヒスイを分離させることができるかもしれない。
思いを巡らせてみるものの、一向に答えは出なかった。それもそうだろう。
『一人の人間……いや人間ですらない、精霊の類である邪炎霊に宿ったもう一人の精霊の意識を分離させる』
などという秘術や呪術の類はおろか、そんな状況ですら聞いたことがない。
過去に事例がないのだから、それに対する方策が存在している訳がないのだ。
流 あさひは絶望した。これが流 ヒスイが言っていた、
「共に消えること」
なのだろう。
それならばどうしたら良いか?
流 ヒスイの話すとおり、彼女にとどめを刺すべきだろうか。いや、そんなことはできない。
「せっかく会えたお姉さま……消してしまうことなんて……」
もはやそんな気持ちは失せてしまっている。そもそも『とどめを刺す』という選択肢が欠落してしまっているといっていい。
その一方で、一つの方法が流 あさひの頭の中に生まれつつあった。
「とりあえず、お姉さまを消さなくても済む方法――」
先ほどまで考えていた『分離』の逆である。
分離が無理ならば『同化』をしてしまえば良いのではないか……。
一種の封印術である。強力な生物や精霊を封印術を用いて、物質や異次元に封じる方法は大昔から何度も行われている。
あの奈落王ことナオキも、かつては水霊、流 ヒスイの封印術によって封印されていたのだった。
もちろんそうした術は流 あさひも使うことができる。
この流 ヒスイ……もとい火紗を封印術で封じれば、一先ずは、流 ヒスイを消さなくても済むだろう。
そしてその封印する先は――
流 あさひは自分の手を見た。お姉さまを封じるならば、そんじょそこらの物質や異次元であってはならない。
何か特別な、それでいてお姉さまに相応しいものでなくてはならない!
そうしたものが、一体何処にあるのだろうか?いや、そんなものは探すまでもない、もっとも身近にある!!
そうだ、自分自身の身体を使うのだ。
流 あさひの身体に火紗を流 ヒスイを封じれば、愛するお姉さまとずっと一緒にいられるではないか!?
そう思った瞬間、彼女の中からそれ以外の答えは全て抹消された。
もうそれしかない!それが一番の考えなのだ!!
気が付けば流 あさひは封印術を自身に施していた。
倒れている火紗、もとい流 ヒスイはその様子を眺めているだけで抵抗するつもりはないようだ。
勿論、流 ヒスイも流 あさひがやろうとしていることは分かっている。
分かっていながら、それを拒否することもなく、そして止めようともしない。
(それがあさひの考えたことならば……)
一つの答えとしては十分であったのかもしれない。
流 ヒスイの中にも、彼女に対する大きな負い目があったのだった。
彼女の意を汲むことが出来ず、ずっと寂しい思いをさせてしまったことである。
「これであさひの気が済むのなら……」
それが良いのだろう。と流 ヒスイは思っていた。そしてそんな自分が出来ることといえば、火紗が抱えている破壊衝動、破滅への願望を抑えてやることなのだった。
光が溢れると、そこには人影が一つしか残ってはいなかった。
流 あさひの姿がある。しかし、それを彼女と認識できる者は母である水霊さまくらいしかいないだろう。
それほどに今までの彼女とは違ったモノになってしまっていたのである。
「これが私なの……?」
水の力だけでなく炎の力も身につけたのだ。それに魔力量もこれまでの比ではない。
猫が龍に化けたくらいに異なるのだ。
これくらい違ってくれば、今まで出来なかったことができるようになるというものだ。
沸いてくる力、魔力とともに、新たなる野望、自信もまた溢れ出してきたのだった。
「これなら……この力なら八霊山を完全に支配できる!?」
これだ!今までは自分一人ではできなかったことを、今の自分ならば成しえることができる。
八霊山の完全なる支配!!それこそが流 ヒスイ……お姉さまの願いではなかったか!?!?
……実のところ、そんなことはない。
ここまでこの話を読んでくれた読者諸君ならば、流 ヒスイという次代水霊がそんなことを望んでいたとは到底思ってはいないだろう!!
読者でさえ分かることを、流 ヒスイを一番尊敬し、愛している妹である流 あさひが理解できていないのだ。
これはどうしたことか?
今の流 あさひは火がついたように体が熱く燃えていたのだった。
それは火紗が抱いていた破壊衝動であったのかもしれない。自身の体に流 ヒスイを……火紗を封印したことで、そうした要素をも取り込んでしまったのだろう。
次第に気分は高揚していった。
『八霊山の支配』は『完全破壊』へと変化し『完全破壊』は『新世界の創造』へと形を変えた。
それを行うだけの実力を今の流 あさひは得ているのだった。
彼女の目が赤く光を宿している。このような光は、未だかつて放ったことがない。
まるで地獄の業火のような、もしくは血の池のような……なんともいえない赤色を有している。
すぐに……すぐに行動を起こさなければならない。しかし、それでいて彼女は未だそれを実行するだけの魔力を有してはいなかった。
ズィー・ガーネアスの召還である。彼女の召還に火紗は自身の大半の魔力を放出してしまっていた。だから、火紗を封印した流 あさひにも、地上を焼き尽くすだけの魔力は残ってはいない……。
「ただし、今だけ。水と炎の魔力、その二つがぶつかりあえば……」
厳密には『水』の方には工夫が必要である。水の温度を下げることで状態を変化させるのだ。
そんなことは水を操る流 あさひには造作もないことだった。火紗をの炎の魔力を取り込んだところで使えなくなるものでもない。
「ククク……アーハッハ!!」
もうすぐ自分の力で全てを終わらせられると思うと、笑いが止まらなかった。
全てを終わらせ、新しい世界を作ったら、今度こそ自分とお姉さまの世界を作り出す……。
それが今の流 あさひの全てであった。短絡的な考えであるが、絶対的な力を持つ以上は、それ以外のことを考える必要もないのだ。
邪魔するものは誰もいない。そう思っていたところに、
「お前の思う通りにはさせない!!」
不意に叫ぶ声がした。
流 あさひははっとしてその声の方を見た。邪魔するものはいないはずなのに、どうしてそんな声がしてくるのか?
そこには一人の護山家がいた。
チッ、と一つ舌打ちが漏れた。流 あさひの眉が不快そうに動いた。




