第6話
教会の中に入ると、美しいステンドグラスを背にした女神像が神々しく立っていた。
アルトが女神像に見惚れているとルシエルが声をかけて来た。
「美しいでしょう? この国一の女神さまです」
「お名前はあるのですか?」
「聖女神アステリア様です。この地に平和をもたらした素晴らしい女神様ですよ」
アルトはその女神像に心奪われていた。
この世の何よりも美しいと思ったからだ。
そんなアルトの様子を見て、ルシエルは「やはり......」と心の中で呟いた。
――あのお方もそうだった。やはり血は争えない。
「ルシエル様?」
「! すみませんあまりに美しい光景にぼうっとしてしまいました」
そのやり取りを知ってか知らずか、ゼッツが「おい! 茶ぁ!!」と急かす声を上げた。
「まったく。変わりませんね、貴方は」
「町でも有名なわがままじーさんでしたよ」
「おい!! いらん話はすんな!!」
心なしかゼッツの顔は赤くなっていた。
アルトとルシエルは「おやおや」と顔を見合わせながら笑った。
「客人にはいち早く茶を出すのが礼儀ってもんだろう」
「せっかくアルトが女神像に興味を示してくれたんです。そちらの方が優先です」
「......ちっ」
ルシエルは聖茶室へと二人を連れて行くと、お茶と茶菓子を差し出した。
ゼッツは椅子にどっかりと座るとお茶を啜った。
「お前、司祭辞めて茶屋にでもなったらどうだ?昔から茶の淹れ方だけは天下一品だったからな」
「ゼッツ様。それは聖職者に対する侮辱ですよ」
ルシエルは思わずぶすっとしながらゼッツに抗議する。
だがゼッツはそんなことは何のそのだ。
「アルト。そろそろ行ってみますか?」
「え?」
「会わせたい人がいると言ったでしょう?」
そう言うとルシエルはアルトを連れ聖茶室を後にする。
ゼッツは茶を啜りながら手をひらひらを振っていた。
「ここは......?」
アルトが連れてこられたのは教会の地下室。
その一室に入ると、一つの棺が横たわっていた。
「アルト。彼女は先代の聖女様......貴方の母君です」
「......え?」
突然の告白にアルトは唖然とした。
――聖女様が僕の母親?
たしかに母親はアルトを生んだ際亡くなったと、ガルから聞いていた。
まさか、聖女様だったとは思いもよらなかった。
「聖女様は貴方を産んだと同時に息を引き取りました。......かなりの難産でしたからね。貴方の育ての親は、聖女様の弟君です」
「そん、な......」
「ガル様にはいずれここに来たら本当の事を話してほしいと言われておりました。......どうかガル様を責めないで上げてください」
アルトはあまりの情報量の多さに頭がパニックを起こしていた。
思わず下を向くアルトにルシエルはそっと抱きしめた。
ルシエルの肩に冷たいものがしみてくる。
アルトの涙だ。
「父さんが本当の父さんじゃないなんて......」
「アルト。これだけは覚えていてください。貴方の母君は聖女としての義務を全うした、と」
「......聖女としての義務」
ルシエルは一気に話過ぎたかと後悔した。
しかし、アルトはルシエルから離れると、涙を拭った。
「父さんが本当の父親じゃなくても、僕にとってはたった一人の父さんです!」
「アルト......。その言葉、ガル様に聞かせてあげたいです」
「今度自分の言葉で伝えます!」
アルトはニカリと笑うと棺に近づき、母親に語りかけた。
「母さん。産んでくれてありがとう。僕、立派な勇者になるから天国から見守っててね」
その胸に宿った勇者への想いは――。
今以上に、強くなっていた。




