第18話
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日々は過ぎ、いよいよ入寮の前日となった。
教会に来てから、毎日の剣術の鍛錬を怠らずに続けてきたし、お世話になっているお礼と称して教会の雑務もこなしてきた。
学院に入れば一般教養なども学ぶことになっている。
それがアルトにとっての楽しみの一つであった。
――今まで勇者伝記しか読んでいなかったから、今からドキドキのワクワクである。
今日はルシエルについてきてもらって、明日の準備の買い出しに出ていた。
......服は男装がいいと言ったのにも関わらず、バルタザールの要望により、ひらひらのワンピースを身に纏っていた。
「アルト。疲れてませんか?」
「......疲れてはいませんが......視線が痛いです。やっぱり変、ですよね?」
「んんっ!! 変だなんてとんでもない!! 華麗で可愛らしいですよ?」
ルシエルは顔を赤らめながら、アルトを見た。
今まで教会でも女の格好はしていなかったため、ルシエルにとっても新鮮だ。
――なんて愛らしい。
ルシエルは思わずそんな感想を抱いてしまった。
「アルト。すみませんが、少しこちらで待っていてくださいますか? 買い忘れがあったようで......」
「それなら僕が」
「いえ。少しですから。アルトは休んでいて下さい。足、痛いんでしょう?」
「!!」
ルシエルは目ざとい。
アルトが足を痛めていることに気がついていた。
......どうしてこんなに紳士な人がモテないのだろう?
アルトはバルタザールの"童貞"発言をしっかりと覚えていた。
シスター達にもモテそうなのにみんな興味なさそうだったしなぁ。
そんなことを考えながら、ベンチに座っていると、目の前で黒ずくめの男性が蹲った。
「だ、大丈夫ですか?!」
「あ、あぁ。すまない。普段、こんな明るい日の下を歩かないものでな......」
アルトはなんだか、その黒ずくめの男に懐かしさを覚えた。
――「......にしてね?」
これは......記憶の断片?
「ありがとう。もう大丈夫、だ......」
「あ、えっと......違ったらすみません。どこかで会ったことはありませんか?!」
「......いや、初対面だ」
「......そう、ですか。すみません!! 足を止めさせてしまって!!」
アルトはそう言うと、男の進路を開ける。
男はアルトの姿を見ると、フッと笑った。
「謝ることはない。手間をかけさせて悪かったな」
男はアルトの頭をポンと撫でた。
その掌は温かいようで......どこか冷たかった。
「......できることなら、また会おう。――アルト」
「え?」
アルトが顔を上げると男の姿はもうなかった。
――まるで夢でも見ていたようなものであった。
今、男は自分の名前を呼んだ。
気のせいではない。
「アルト!! すみません。遅くなりました」
「い、いえ!! 大丈夫ですよ? さ! 帰りましょう」
アルトは男のことを記憶の片隅に留めた。
――忘れてはいけない、そんな気がして。
***
「アルト......あんなに美しく育って......」
黒ずくめの男――クロヴィスは遠ざかっていくアルトの背中を見つめていた。
「決して誰にも渡さぬ。お前が言ったのだぞ? 『お嫁さんにして』と......」
その口元に、僅かな笑みが浮かぶ。
「......しかし、久しぶりの人間界はキツイものがあるな」
クロヴィスは小さく息を吐く。
どうやら、目的は果たしたらしい。
「――魔界に帰るとするか」




