第15話
「バルタザール様。とりあえずアルトから手を離してください」
「んぁ?」
ルシエルに言われてようやくバルタザールはアルトの身体から手を離した。
「なんだよぉ。ちょーっと触っただけじゃねぇか。」
「何が"ちょっと触っただけ"ですか!! うら若き乙女の身体を触るものではありません!!」
「んだよルシエル。そんな固ぇこと言ってっからいつまで経っても童貞なんだよ」
「~~!!」
......仮にも教皇であろうに信じられない言動である。
そう思いながら、アルトはベッドの端まで逃げるように身を寄せ、警戒した目でバルタザールを見つめる。
――この人、本当に教皇様なのだろうか。
教皇様というと、教会の頂点に立つ偉い人――というのがあるとの認識だ。
しかし、目の前にいる人物はどうであろう。
伸び放題の髭。
酒と煙草の匂い。
おまけに朝っぱらから少女のベッドに勝手に入り込む。
「......ルシエル様」
「はい?」
「この方が本当に教皇様なのですか?」
「......残念ながら、本物です」
「残念って言ったぞ、おい」
バルタザールは不服そうに眉を顰める。
「......聞いてた通りだ」
「え?」
「セドリック......友達に聞いていたんです。"中央教会の教皇は酒に煙草に賭け事とだらしがない"と。」
「あぁ」
ルシエルは頭痛がするのか頭を抱えた。
「それは......まぁ、事実です」
「やっぱり......」
アルトの表情が引きつる。
そんな様子にもお構いなしに、バルタザールは豪快に笑った。
「ガハハハハ!! まぁ、いいじゃねぇか! 教皇だからって聖人君子でいろって決まりはねぇだろ?」
「あ・り・ま・す!! 少なくとも朝っぱらから女性の寝床に忍び込む決まりはありません!!」
「細けぇことは気にすんなって!」
「細かくありません!! 貴方様はもう少し......いや、もっと教皇としての自覚を持つべきです!!」
二人のやり取りを見ながら、アルトは思った。
――ルシエル様、大変そうだな。
「......あの」
アルトは邪魔をしてはいけないと思いつつ、恐る恐る手を上げた。
「僕、そろそろ着替えたいんですが......」
「あぁ、そうでしたね。ほら、行きますよバルタザール様」
「うおい!! 引っ張るなって!! いいじゃねぇか。ちょっとくらい覗いたって」
「ダメに決まっているでしょう!! バカですか?! 貴方様はバカなのですか?!」
ルシエルはバルタザールを罵倒しながら襟首を掴みズルズルと引きずってアルトの部屋を後にした。
「......朝から疲れた」
そして着替え部屋を出る。
すると、そこには腕を組んだバルタザールとルシエルの姿があった。
「おぅ。着替えたか、アルト」
「......はい」
「まぁまぁ、そう警戒しなさんなって」
「......警戒するきっかけを作ったのは貴方様ですけどね」
ルシエルが鋭くツッコむ。
「悪かったって。さぁ、アルト。朝飯でも食いながらお前についていろいろと話を聞こうじゃねぇか」
「......僕のこと?」
「あぁ。まぁ、まずは飯だ。食堂へ行くぞ」
そうして三人は食堂へと足を向けた。




