第4話
デウスが目にしたもの。『神器』
部屋の中央に円柱状の台があり、そこに神器はあった。
それは剣の形をしてして、ところどころに錆があった。宝石もいつくかはめ込まれていたが汚れていた。決して輝かしくは見えないが、何か引き込まれる感覚がある。それは魅了されているのか、神器自体がデウスを引き寄せようとしているのか。
デウスは神器に近づいていく。近づこうとするればするほどにたじろいてしまう。神器以外のものがないからか、一際その存在感が伝わってくる。
デウスはやっとの思いで神器の目の前に着いた頃には冷や汗をかいていた。神器の存在は知られているが、実際にみたものは指折で数えれるほどだ。その1人になれた優越感に浸っていた。
デウスが触ろってみようと神器に触れた途端、神器から眩い光が辺りを包み込む。デウスは目を閉じていたが、徐々に慣れて目を開いてみる。デウスが目にしたもの。映像が走馬灯みたいに現れては消えていく。
“何かに存在がもう一つの存在と世界を作っている”
“この二つの存在ががそれぞれの世界を管理している”
“勇者が先ほどの存在とはとは違う別の存在からこの神器を授かっている”
”勇者が最初の存在の一つを神器で撃ち倒している“
他にも背中から一対二枚の羽が生えた存在たちが戯れているいたり、最初の存在にかしづいていたりした。
デウスは気づいたら頃にはすっかり珀い世界はなく、再び薄暗い場所に神器が中央に置かれていた。先ほどまでのことを思い出す。考えられることはこの神器の持つ記憶なのだろう。つまり、この神器を作ったのはあの走馬灯のような映像の一部にいたはずだ。
そんなことを考えていると、奥の方からドタドタと急足で駆けてくる音がした。たぶん、上の地下二階の聖騎士がデウスを捕まえにきたのだろう。学園としてはとても大事な代物であり、権威を示す存在でもある。盗まれただの壊れただの最悪のケースを未然に防ぎ、首謀者を捕え失態を闇に葬り去るためだろう。
デウスはここからの脱出方法を考える。さすがに神器を盗みにきたわけではないので、これ以上ここでやることはない。あとは無事に生きて帰れるかが問題である。
この部屋に前方の扉以外に出入りできるところはない。壁を打ち破りたいが、ここは地中深く。壁が壊れたとしても見えるのは地肌だけである。前提として、壁を破壊している間に聖騎士が到着してジ・エンドとなるのが必然である。
つまりデウスに唯一残された選択肢は、聖騎士と戦い、聖騎士たちが通ってきた順路で帰る。これしかない。だが先ほどは簡単な拘束を目的としていたが、今回はそうもいかない可能性がある。相手は完全拘束、もしくは生死を問わない決断をしているのかもしれない。そうとなればデウスも相応の覚悟が必要となる。強行突破とはそういうことだ。柴犬がシロクマに立ち向かうのと同じこと。
デウスに戦う術があること、一度のみではあるが聖騎士と対峙したという実績、これはこの状況での僥倖である。
デウスは何を考えたのか、両開きだった扉を閉める。そして十分な距離を確保し、構えの姿勢をとる。
(さっきよりも体の感覚が冴えている。指の先までしっかりと神気を認識できる)
「ここにいるのはわかっているんだ!下手な真似はしないで大人しく降伏しろ!」
扉の向こう側からなのやら聖騎士の荒い声が聞こえる。やはり先の逃走の件も考慮して慎重にデウスの出方を伺っているのだろう。
「さすが、聖騎士様ってところだな。でもよ、俺は神器を奪うつもりなんてさらさらねぇぞ!」
「信用できるか!後3つ数える。それまでに降伏の意思が見られないのならこちらは強行手段をとる!」
「お好きに!」
卓球のラリーのようにポンポンと言葉がぶつかる。
「3、2、1、突入!」
焦っているのか聖騎士のカウントダウンの速度が少し速かった。
バンッ
扉が蹴破られる。扉の先にいたのは上の6人に加えて3人増えて計9人になっていた。その中にはギルフォードもいた。
「お前…最重要所蔵庫に侵入したものがいるから来てみれば、デウスじゃないか!何をしてい…」
『神闘技 一式 足鎚・横振り』
ギルフォードの声掛けを無視してデウスは地を蹴ってすでに先頭の聖騎士の眼前に足を振っていた。
だが、
『天技 千重防壁』
デウスの足蹴りを受けたのは聖騎士の凹んだ顔ではなく、ゴツゴツとしたいくつもの岩肌が重なった壁だった
「お前のその技は一度見ている。何回も同じものを見てるだけではないのだ!」
天技を展開した聖騎士が高らかに豪語した。デウスの『足鎚』では踵で打撃を当てなければならない。この壁は垂直になっているために攻撃は当てられない。かといって『鉄塊拳』で直接打撃で打ち破れるかはこの壁の厚さが計り知れない。
『天技 モード:業火 サラマンダー』
岩壁に穴が空き、そこに展開されていた魔法陣から、全身真紅一色の体をした燃え盛るトカゲ、サラマンダーが現れる。そしてトカゲ固有の素早さでデウスに近づいてくる。
『神闘技 一式 鉄塊拳』
攻撃の構えを取りつつ、後ろへ下がっていく。講義通りだと、この天技は壁と違って神気そのものだから触れれないし、サラマンダーは対象に触れた途端、形を失い一本の火柱へと変貌し対象を飲み込み焼き殺す。
「これならどうだ!貴様は対人の格闘技が得意らしいな。天技をうってもコソコソと逃げ回り、隙をついて倒す。だが今回は違う。普通の格闘技が神気そのものを使った天技に攻撃をすることも、防御もできない。ただやれれるだけだ!」
(んなことわかってるよ、だからって引くに引けないんだよ)
デウスは内心でぼやいていた。
だがデウスには拳が当たると思った。確証はないが当たる気がするのだ。
デウスの拳とサラマンダーが接触する。その瞬間火柱が立つ。聖騎士にほとんどは勝ちを確信していた。ギルフォードもまたデウスの戦闘センスを認めているものの、戦闘不能を確信していた。
だが火柱の余韻を残すような白煙の中でみた影は人影であった。
「残念ー!まだ生きてます!」
デウスは所々黒い煤がついてはいるが、火傷どころか焦げすらなかった。
『天技 加速・二重』
デウスは床から足を離すと凄まじい速度端からで岩の壁のある出口方向へと走っていく。
「全体!防御隊形!私を中心に円形に!防御天技も使え!」
ギルフォードが咄嗟で指示を出す。元聖騎士団長を務めていただけあって的確な判断を出す。しかし周りは動揺していた。
「なぜあいつ生きているんだ?」
「奴は天技は直接的なものは扱えないはず…そうですよね?ギルフォード殿!」
「私もわからない、だが私の指示通りにしろ!さもないと死ぬぞ!デウスはそういう奴だ!」
ギルフォード自身も驚いているがそれどころではない。一般生徒相手に聖騎士がに殺されたなんてことがあっては国にとっては大損失だ。
『天技 陣展開・九重』
前方に幾何学的模様が九枚展開される。どれも即席の防御手段だ。だがデウスは拳を出した。
『加速』の勢いのまま突っ込んでいく。
パリンと1枚、また1枚といとも容易く割れていく。先ほど空いた穴に体を通し、デウスは岩壁を突破した。
聖騎士は剣を守りの構えにしていた。だがデウスは頭上を通り過ぎる。
「さよなら!俺はあんまり殺生は好まないからさ。感謝しなよ!」
走り去っていくデウスの背中を見てたらギルフォードは踏ん切りをつけた顔して、伝えた。
「ここの聖騎士全員に伝える。このことはしっかりと報告をしろ。私はこれから学園長のところに行ってデウスの指名手配を掛け合っておく。いいな」
「わかりました!ギルフォード殿」
聖騎士たちが部屋を後にする。そこに残っていたのは、先ほどまでの戦いを1人の観測者かのようにみていた、神器だけであった。




