第5話
地下二階、
そこにある重要文化財保管庫の入り口付近の壁が音を立てて、右にずれる。
そこから出てきたのは煤を被ったデウスが出てきた。よほど急いで走っていたのか荒い呼吸が口から溢れる。
デウスは神器のあった場所から離れた後、人の走った足跡を辿りながら聖騎士の通った道を逆走していた。そうすればわざわざ脱出口を探さなくても確実に上に出られる。
しばらく螺旋の道を登っていると魔法陣が刻まれた床を見つけた。そこに乗ると魔法陣が光を放ち、光がデウスを包み込む。そして気がつくと淡い灯りの空間に出て、前方の四角に区切られたところから光が漏れていたために力いっぱいに押したり引いたりをしていた。
そして今に至る。
(神器への正しい道のりは入り口付近だったか、まさに灯台下暗しってやつかw)
デウスは自嘲しながらも息を整えると再び走り出した。
向かった先はメーティス図書館、つまり先ほどの場所から地上へ2階分上がっている。
保管庫の間をとった置き方とは違い、本がギッチリと敷き詰められている。
(俺は確実に指名手配される。学園、そこから国に話がいき、完全に権力に包囲されるな。だが、まだその話は挙がってはいない。つまりそれまでに最優先でこなすことをしなければ)
デウスは本棚を舐め回すように見漁っていく。探すのは勇者がいた頃の文献をまとめた本、またはそこ付近の歴史書。とにかく確認したいことがあった。
『歴史全般〜勇者伝説〜』
デウスは一冊の本を手に取った。そしてすごい勢いでページをめくっていく。
パラパラと乾いた音が止まる。そこには『勇者一行は魔王を撃ち倒した後、その功績を神に認められ、褒美として勇者が神器のうち一本を受け取った。勇者一行はその後、天界の平安を長きに渡り揺るがしている邪神ヴェルド・アザエルを神器で打ち滅ぼし、地、天界は永遠に繁栄が続いた。』
間違いなかった。デウスの見た神器の映像には邪神なんてものは見当たらなかった。
しかも勇者が撃ち倒したのは神だ。つまり“神殺し”ということになる。
神殺しは大罪という言葉では収まりきらないほどの前代未聞の大罪だ。
普通は神罰を受け死ぬんでいる。
『勇者は邪神ヴェルド・アザエルを撃ち倒した後、下界に降り神の許可を得て神器をエル・テヴィーナ聖騎士学園に譲った。
それは今も勇者の威光を示している。』
デウスはこの本の最後に書かれていた文を見た。ここにも間違いをあった。神器の映像の中には最も衝撃を受けたものがあった。
“血を流した勇者が横に倒れている“
勇者は死んでいた。しかも事故なんかじゃない。何者かに殺されている。
(勇者が死んでいたのならなぜ神器はこの学園なんかにある?あれが偽物だということは絶対にあり得ない。俺自身がこの目で見ている。つまりなんらかの方法で確実に下界に神器は降りている。それしかわからない。)
デウスが何よりも衝撃を受けたのはこの2つなんかどうでも良くなくなってしまうほどのもだった。
素早く切り替わっていくさまざまの映像の中でも一番印象に残っている。
歴史書の冒頭の部分を見る。
『蒼い空、白い雲、豊かな大地…
上げていくとキリがないこの素晴らしい世界
これは神が作った揺らぎのない永遠の状態である。』
こうしるされているが、映像では
”勇者に神器を渡した存在が好き勝手に天界、混沌が巣食う場所、そして現世をいじくり回している“
”従わない者まるで何も感じてないかのように、神罰を下す“
例えそれが同じ天界のものであろうと。
(この世界は永遠じゃないのか?なんだこの光景は、我々が長年信じてきたものの実態はこれほどまでに腐り切っているのかよ!)
デウスは本を閉じると、早々に図書館を立ち去る。ここにはもう用がない。
デウスは寮に戻り、必要最低限の荷物をまとめる。
肩掛けバッグに短剣、携帯食料、毛布、マッチを詰めて部屋を出ると、ライルの部屋の前で立ち止まる。
時間が惜しいところだが、どうしても言っておきたいことがあるのだ。
「おい!ライル!いるのか?いるなら返事をしてくれ!」
デウスは扉は強く叩く。
「なんだよ、底辺。お前に構っている暇ない。」
「は?お前、何を言って…」
デウスには中庭で話したライルとは全く別の成績下位のものを必要以上にいじめる普段のライルの姿があった。
「お前が神器は図書館にあるとか言ったから俺は図書館に行った。それでなんやかんやあって神器を見ることができた、」
「神器…? あ〜、あのことか。そうか、入っていいぞ」
ライルは急に反応を変えて、デウスに対して交友的に振る舞う。
デウスは怪訝に思いながらもそのことはそっちのけで神器の話をしたく、部屋に上がった。
「それで?神器はあったんだな?」
食い気味にライルがデウスに問いかける。
「そうさっきも言ったろう。あったんだ、あったんだが、ただのお飾りじゃなかったんだ!」
「どういうことだ?」
「その神器には神器が見た記憶が刻まれたんだよ。触れた瞬間、大量の映像が走馬灯のように流れてきたんだ。そして、俺は知ったんだ。この世界は嘘をついている」
デウスとしてはこの言い方でライルに伝わるかはわからなかったが、ライルには伝わると考えた。
「世界が嘘をついている?それってのはつまり神々の作られたこの世界が根本から違うってのか?」
「いや、そう言えばそうなんだが、バカな俺の解釈だと、神はこの世界を作った。それは紛れもない事実なんだけど、永遠の繁栄やら神が作った揺らぎのないとか神は全てのものに慈愛の念を持っているだの、それ以外は全て間違っているんだ」
デウスはこうやって説明しないとこの会話が終わらない気がしてきた。
「なるほどな。わかった。すごく端的だったよ」
「そりゃありがとう。それでな俺には何ができるかな、って考えてたら一個考えができたんだよ。
俺って歴史好きだろ?だからこの学園だけじゃなくて、いろんな所を巡ってこの世界の真実を探しにいくんだ」
「デウス、それお前1人でやるつもりか?」
ライルは少し驚いた様子でデウスを見ていた。
「別に何か問題でも?」
「いや、お前が1人で旅するのはその戦闘センスを含めて問題はないんだが、デウスがそんなことを考えれるなんて思うと…」
「いや、だから別にバカじゃないって言ってるだろ」
デウスは中庭の時と同じ感覚だった。
あまりにも腑抜けたような会話になってしまうのだ。
「それよりもデウス、今すぐ外に出かけようとしてるんだ?いかにも旅をしそうな格好をしてるが、」
「それなんだが、実は神器を見つけてる途中で聖騎士に見つかちゃって、じきにお尋ね者になるから、ちょうどいいし、退学かつお尋ね者っていう立場を利用して外に出ようかなって考えてたんだよ」
デウスの言葉を聞いたライルは何を思ったのか席を立つと、デウスと同じように荷物をまとめると、
『天技 天痕密蔵』
魔法陣が荷物を通過すると、順に荷物が塵程度の大きさになり、ライルの右腕を覆っていく。そしてそれはタテューとして刻まれた。
「おい、なんだよそれ、」
「デウス、しっかりしてくれ。これは天技を利用した収納方法だぜ。講義でやってたろう」
「すっかり忘れてたな。俺はこの鞄で走り回るのか。
っていうか何当たり前のように俺と一緒に行くことになってるの?」
「お前1人だとさ、心配で、提案した俺が罪悪感やらなんやらで眠れなくなっちまうのは勘弁だし、俺も結構気になるしな」
「お、おう」
デウスにはこのライルが気持ち悪いほどに輝いて見えた。
「まずはどうやってここから出るかだな。」
ライルは部屋の窓から見える景色を観察しながら言った。
「多分校舎内を歩いてると、聖騎士どころか生徒にすら怪しまれるな。まぁそれは俺だけだけど。」
デウスは肩にかかった鞄を叩きながら言った。
「まぁこうなりゃ強行突破だ。デウス、お前はどのくらいの高さだったら、自由落下から無事に着地できる?」
「基本的にタイミングが合えば俺の技でなんとかなるけど。技の衝撃で激突のエネルギーを相殺するから」
「なら問題ないな」
ライルは窓に身を乗り出す。
「え?は?ライル、何やてんだ!早まるな!」
デウスは慌てて窓に近づくがライルの姿は消えていた。
デウスも身を乗り出し下を覗くと風を体に纏い、優雅に着地をするライルの姿だった。
(こいつこんなに体張って動きやつだったっけ?何回も同じことを考えたって何にも答えは出ないってのに。俺は何に違和感を感じてる?)
デウスの頭にはハテナが渋滞していたが、そんなことは頭の片隅においておき、覚悟を決めたデウスは足を窓枠に置いて、窓枠を蹴ると、体が少し上がる。
ちょっとした浮遊感の直後、体は急速に落下を始める。
迫り来る地面を見ながらタイミングを計る。
『神闘技 足鎚』
地面に大きな衝撃が走り砂埃が舞う。
「さっすが、実践家だの成績上位者」
「そう、褒めるな気持ちが悪い」
言いすぎたか、と思ったが今のライルの雰囲気に比べたらマシであった。
「ライルさんよぉ、感心するのはいいんだが、まだここは学園の敷地内だぜ。」
「そうだけど、校舎さえ抜ければもう怖いものはない。別に鞄を下げてたって不思議じゃないし、俺たちだったら、あの馬鹿みたいに高い壁も越えれる」
この学園の壁は刑務所にも劣らないほどの高い壁がある。
だが、生徒としてはこの学園に入学できた時点で抜け出したいだなんて思うものは全くいない。
「ライル、お前は天技で飛べばいいよな。でもな、おれは飛ぶなんていう便利なものはないんだよ。」
「別に俺にだって飛行能力があるわけじゃない。天技で少し上昇して、そっからは滑空だ。神じゃないんだから」
ライルのいうことは正しい。今世には人間が半永久的に飛行し続ける術は存在しない。
人と限定しないならば、魔物などを使って移動手段として使うものは存在する。
「とりあえず、俺が先に壁の上まで行って、そこからロープを下ろすから捕まって登ってこい。もちろん速くな」
「そんなことはわかってるよ。お前こそ、壁を登りきれませんでしたとか、ロープを支えきれませんとかやめろよ」
『天技 バースト・ジェット』
ライルの両足の魔法陣から渦巻きが生じ、その体を軽々と持ち上げる。
ライルの姿が見えなくなり、上からロープが降りてくると、デウスは軽くジャンプをする。
『天技 加速・二重』
手でロープを掴み、『加速』の速度を活用し、壁を駆け上がる。
ロープの持つ位置が目まぐるしく変わっていくが、これがでこなければそのまま地面に激突してしまう。
しかし、デウスは持ち前の身体能力で、素早く壁を登り切った。
「おぉやっぱり天技でのぼってきてんじゃねえか」
「俺だって少しは天技を覚えてんだよ」
デウスとライルは壁の端に立った。
「さて、デウス。これからどうする?後一歩踏み出したら学園の外、こっからは俺たちが自分で答えを探していかなくてはならなくなるぜ」
「それを覚悟でここまできたんだ。こんなとこでビビって戻れるか」
「そんなこと言っても俺たちがやったの、高所からの落下と壁登りだけだぜ」
「うるせぇ、とにかくもう行くぞ!」
デウスは足を一歩前に出して、姿を消した。続けてライルも学園から姿を消した。
大変お待たせしました。
ていうかこんなに空いてて、見てくれてる人いるのかなw
投稿頻度改善は今後とも頑張っていきます!!




