8話
「最終兵器?」
私は再三首を傾げて腕の中のロボを見詰める。
「リンツ?」
ロボも少し体を傾ける。
「ゾフィさん、何を言っているの?」
「ロボは単なる旧式ロボじゃない。ロボの正体は、この宇宙船のメインコンピュータのサブ回路だ。メインは政府が持っているけれど、軍事力特化を目指したい政府に反発した先輩……リンツのご両親が、いざという時の抑止力にロボにサブ回路を搭載した。だから、ロボのことは政府には知られちゃいけない。分かったな?」
あまりのことに、私の口はぽかんと開いたままゾフィさんの言葉を聞いていた。
ゾフィさんが何を言っているのか分からない。
分かりたくなかった。
「ロボがこの宇宙船へのサブ回路?何を言っているの?ロボはロボよ」
「そう思いたいお前さんの気持ちはわかる。けどな、これは事実だ。ロボの存在が政府に知られたらどうなるか……」
その言葉にゾッとした。
「ダメよ!ロボは私の家族だもの!誰にも渡さない!」
そう言って、ゾフィさんから離れてロボを抱き締める。
腕の中の冷たい球体。
この大切な家族が、そんなたいそれた存在なんて。
私は、それでもロボを守りたい。
気付いたらずっと我慢していた涙が溢れていた。
ロボがセンサーで感知して私にぽすりと腕の中で抱き付く。
球体なので抱き付くのは私の感覚だけれど、ロボは確かに私を慰めようとしている。
「リンツ、ロボガマモル。ダイジョウブ」
「ロボ〜!」
張り詰めていたものがなくなって、私はロボを抱き締めてわんわん泣いた。
「ロボは、私が守るよ。だって私の家族なんだから」
ゾフィさんは、そんな私たちを見て、キッチンへ行くとホットミルクを二つ持ってきてくれた。
「リンツとロボの分な」
ゾフィさんが、初めてロボにも飲み物をくれた。
ロボットだから飲めないのにね。
お店のおばさんも、ロボに飴をくれるって話したことがあるからかしら?
「ありがとう、ゾフィさん」
「アリガトウ、ゾフィ」
ロボと一緒にお礼を言って、椅子に座ってホットミルクを冷まして飲む。
「……ゼフさんも、お父さんとお母さんの後輩?」
「ああ。そして、政府関係者だ」
私はその言葉にびっくりした。
「ロボを政府から隠せって言ったのはゾフィさんよ!?」
「まあ待て。ゼフは政府勤めだが、レジスタンスの密偵だ」
急な話が次々出てきて、私の頭はプスプスと音を立ててオーバーヒート気味だった。
「レジスタンスって何?」
「政府への反逆者だ」
「……私、ロボに危険なことをさせたくないわ」
また髪をわしゃわしゃ撫でられる。
「大丈夫だ。ゼフは俺以上の心配性だ」
そうは言うけどね、ゾフィさん。
私、そのゼフって人のこと何も知らないの。
「この間、ロボがコードを出しただろう?あれが街のセンサーに引っ掛かったみたいだ。今までは街のドームの外に居たから平気だったんだろうが、街になるとそこかしこに住民を監視するセンサーがある。それに知られちゃおしまいだ。お前さんは早くここを出ていかなきゃいけない」
「それも政府の関係者のゼフさん情報?」
「いいや、この街のメインコンピューターを少し覗かせてもらっている俺の情報だ。政府はロボに勘付いている。早く逃げろ」
そう言って、まだ明るいうちに私を荷造りさせてバイクに乗せる。
「ゾフィさん……」
「大丈夫だ。ロボとリンツなら。なあ、ロボ」
「リンツ、ロボガマモル。ダイジョウブ」
「ほらな」
ゾフィさんがウィンクするから、なんだか私の心も軽くなって、ゼフさんに会いに行ってロボをアップデートしてもらおうって気持ちになれた。
ロボがアップデートしたらどうなるかなんて分からないけれど、ゾフィさんがそう言うんだもん。
おかしいことにはならないよね?
「それじゃあ、ゾフィさん。天才美少女のリンツがいなくても寂しくて泣かないでね!」
「お前もな。リンツ、ロボ」
「マタナ!」
ゾフィさんを見ると、私達を見て後ろを向いて二つ並んだマグカップと広い部屋を見て寂しそうに笑った。
私はまた泣きそうになって吹っ切るように慌ててエンジンをかけて出発した。
数ヶ月暮らした勝手知ったる街は、そうして呆気なく出ていくことになってしまった。
「まったく、本当に先輩たちに似たお嬢さんだったな」
ゾフィさんがそう言って、掃除の時にも触らせなかった机の引き出しから古びた写真を出して語りかけていることなんて、法定速度ギリギリで走っている私には知らないことだった。
ゾフィさん、またね!
そしてゼフさん、待っててね!




