7話
「リンツ、お前はもう卒業だな」
その言葉は突然言われた。
「卒業?」
首を傾げてゾフィさんを見る。
「ああ。メカニックもロボのメンテナンスも最低限以上は出来るようになった。何かあっても自分で対処出来るだろう。だから、卒業だ」
「そう」
その時の私は、卒業してもロボとゾフィさんの二人と一つでここで暮らしていけると思っていた。
「だからな、リンツ。お前はここへ行ってザフってやつ会ってこい」
「えっ!?」
「二人旅には慣れているんだろう?」
「そうだけど、そうだけど……!」
そうだけど、それとゾフィさんの家から出ていくのは別物だわ!
今までの近所へのお使いなんかじゃない。
渡されたメモの住所は僻地と言っていいほど遠かった。
この広い宇宙船で、私のバイクで何日かっ飛ばせばいいのか。
不安に狼狽える私を、ゾフィさんがいつものように頭をくしゃくしゃ撫でながら言った。
「もう一人前のレディなんだろう?」
それを言われるとずるいわ。
私は滲む瞳を擦りながら尋ねた。
「なんで、このゼフさんに会わなきゃいけないの?」
「ロボのためだ」
「ロボの?」
再度首を傾げる。
「ああ。ロボのためにも、ロボのデータは必要だ。だからゼフに会ってアップデートしてもらう必要がある」
「それはゾフィさんには出来ないの?」
「ある程度なら出来る。けど、リンツがこれからもロボと一緒にいたいなら、ゼフの技術が必要だ」
ロボのため、これからも一緒にいるため……。
台の上にいるロボを見遣る。
最終メンテナンスを終えて磨かれた銀色のボディは、煌いていた。
「……分かったわ」
「いい子だな、リンツ」
初めてわしゃわしゃと撫でられない、穏やかな撫で方だった。
「ゼフはまぁ、俺に比べたらいいやつだ。安心しろ」
「ゾフィさんもいい人だわ」
ゾフィさんは苦笑した。
「そいつは多分、ロボが繋いだ縁のおかげだ」
「ロボの?やっぱりゾフィさんはロボと知り合いだったの?」
「ずっと昔のな」
そう言ってまた懐かしそうにロボを見るゾフィさん。
こういう時、置いて行かれているような気持ちになる。
ロボもゾフィさんも私の大切なロボットと人なのに、私だけ何も知らないみたい。
「ねぇ、ロボって……」
なんなの?
そう尋ねようとしてゾフィさんに被せられた。
「ロボはお前さんの家族だろう?大丈夫だ。お前さんがそう信じるならロボはリンツの家族だ」
「……うん!」
私は大きく頷いて、台の上のロボを抱えた。
「ロボのためにゼフさんに会う必要があるのね?分かったわ!大丈夫!二人旅は得意よ!」
「そうだな」
今度は分かる。
寂しそうな瞳。
私だって寂しいもの。
また瞳が潤む。
「泣くなよ。今生の別れじゃないんだから」
「それもそうね!」
けろりと私の涙は引っ込んだ。
「……やっぱり、先輩の娘さんだよ。お前は」
ゾフィさんがけらけら笑う。
ゾフィさんの先輩が私の両親?
深く聞きたいけれど、楽しそうなゾフィさんを見ていると、そんなこと些細なことに思えた。
ロボは両親が作ったものだ。
だからゾフィさんも知っているんだろうな。
私は笑うゾフィさんが、いつもより幼く見えてなんだか微笑ましかった。
「ゾフィさん。ゼフさんに会ったらまた会いに来ていい?」
「もちろんだ。お前さんの部屋もそのままにしておくさ」
「ありがとう、ゾフィさん!」
私は嬉しくなってロボを抱えたままゾフィさんに抱き付いた。
ゾフィさんも抱きしめ返してくれた。
温かい。
ロボのオーバーヒートの熱とは違う。
人の温かさ。
「リンツ。お前の旅はこれから自分で思っているより過酷なものになるだろう。でも、お前にはロボも俺もいる。それを忘れるなよ」
「なにそれこわい」
でも、ゾフィさんの腕の中なら怖くはない。
「怖いだろうな。だけど、ロボと一緒にいたいならこれからは頑張らないといけない」
「そうなの?」
「そうなんだ」
ゾフィさんは屈んで私に目線を合わせて告げる。
「ロボは、この世界を救うことも滅ぼすことも出来る、最終兵器だ」




