5話
「そういえば、ゾフィさん」
「なんだい、リンツ」
いつものようにメカニック……主にロボのメンテナンスを中心に習っている時、私はずっと疑問に思っていたことを切り出した。
「ロボってば、敵船が来たりして政府の巨大ロボが出動すると、警報音が鳴り止むまで意味の分からないコードを投影し続けているの。これって政府に相談したほうがいいのかなぁ」
ゾフィさんは、私を見て、ロボを見て、問い掛けた。
「リンツはロボが好きか?」
「当然よ!私の家族なんだから!」
「……そうか。それなら、ロボの存在は政府には秘密にしておいたほうがいい。そのことも、誰にも言うな。いいな?」
いつになく真剣な表情でゾフィさんが念を押してくる。
私は、あまりの迫力に小さく頷くしか出来なかった。
「分かったわ、ゾフィさん。ロボのことはゾフィさんにしか相談しない」
「そうだ。それでいい」
またわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「もう!ゾフィさん!レディの髪の毛をくしゃくしゃにするのはやめてって言っているでしょう!」
一生懸命髪の毛を整える。
「そいつはすまなかったな」
なんて、悪いなんて思っていない顔をして笑っているゾフィさん。
まったくもう!
「そろそろ昼にするか」
「材料を買いに行くなら私が行くわ」
私が提案すると、ゾフィさんが途端に心配そうになった。
「一人で大丈夫か?」
「もう!また子供扱い!」
私がむくれると、ゾフィさんはお財布からお札を数枚私に持たせると、夕飯の分まで買ってくるように告げた。
過保護なのか人使いが荒いのか分からないわ。
「それじゃあ、行ってきます!」
メンテナンスの実習から解放されて再起動したロボを腕に抱えて、鞄と買い物袋を持ってゾフィさんの家を出る。
今日のお昼はパスタの気分!
夕飯はなんにしようかしら。
そう思って歩いてあると、見知った顔に出くわした。
この街に来て、私に絡んできた悪漢だ。
恰幅のいい男性と貧相な男性の二人組。
私を人買いに売ろうとして、ゾフィさんにナイフを投げつけられた。
「こんにちは!」
「よう、リンツ。お使いか?」
最初の頃は怖かったけれど、今ではちゃんとお話し出来る仲になっている。
「そうよ、そちらは?」
「荷出しの仕事の最中だよ」
「リンツは昼飯の材料を買いに行くところか?」
「そう!私、今日のお昼はパスタの気分なの」
恰幅のいい男が笑う。
「そんなお上品なもの食ってたら貧相な体が貧相なままだぞ。肉を食え、肉を」
「お肉も好きだけれど、それでおじさんみたいにお腹が出たら嫌だわ」
そう言うと、余計に笑われた。
「おい、サボってるなよ」
「へい!それじゃあな、リンツ」
「ええ、またね!」
軽く会釈をして別れて、自分の体を見る。
貧相……。
決めた!今晩はお肉料理ね!
「ロボ、お肉料理なら何がいい?」
「タベラレナイノニキカレテモコマル」
「それもそうね」
ゾフィさんがロボを見てから、ロボは語彙が増えた。
賢くなったと言えばいいのかしら?
それがいいことか、どういうことかは分からないけれど、ロボとのお喋りは楽しくて好き。
だから今のロボも好き。
でも、昔のロボも好き。
結局ロボなら私は好きなの。
「ロボ、今晩はハンバーグはどうかしら?」
「オコサマ」
生意気なのが難点ね。
ゾフィさんに似たのかしら……。
でも、ハンバーグって思ったらハンバーグの気分になってきたわ!
今日のお昼はパスタで夕ご飯はハンバーグ!
決定ね!
「そうと決まったら、早く買い物を済ませてゾフィさんの家に戻りましょう!」
「ソウダネ、リンツ」
これだけは変わらない。
私は嬉しくて、腕の中の球体を頬擦りして一人で微笑んだ。
すると、政府の警笛が鳴り響いて、またロボが意味不明なコードを投影する。
私は慌てて路地裏に隠れて、ロボが投影するコードを必死に隠した。
「ロボ、ロボ……。やめてよ。私のロボに戻ってよ」
祈りに似た感情だ。
やがて、警笛が鳴り止むとロボはけろりとした表情……は、よく分からないけれど、投影されていた光が途切れた。
球体を器用に回転させて抱き締めていた私により抱き締められにくる。
「ダイジョウブ。ロボ、リンツ、マモル」
「ロボ……」
私は、擬似的な空を眺めて、巨大なロボットが政府の機関に戻る姿を目に焼き付けた。




