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ロボとリンツ  作者: 千子


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10/12

10話

貧民街に一歩踏み入れると、先程までの活発さが嘘のようにシンと静まり返っていた。

「自己紹介が遅れたわね。私はリンツ。こっちはロボ!私の家族よ」

ロボを差し出して紹介する。

「ヨロシク」

「旧式ロボットが家族なんて、お前変わっているな。……俺はシエル」

シエルはまたため息を吐いた。

幸せ逃げちゃうぞー!

「シエル!よろしくね!」

握手を求めて手を差し出しても無視して歩き出すから私は慌ててその後を追った。

「シエル、私のお財布を盗った人、知らない?」

「知らない。ここに入れたんだから自分で探せ」

シエルはすたすた歩いて行く。

「そんなこと言われても困るわ!私、ここのこと何も知らないの。案内してくれない?」

置いていかれないように小走りでシエルを追いかけると、シエルが急に立ち止まった。

「あのな、見知らぬ人間が誰でも自分を助けてくれると思うなよ」

くるりと振り返って指をさされる。

人に指をさすなんて失礼だわ!

「旧式でもロボットはロボットだろう?この街のデータでもダウンロードして自分で探せ」

「それって犯人も載っているの?」

「犯罪者は大体載ってる」

私は瞼をぱちくりしてシエルを見た。

「すごいわ!この街は個人管理がしっかりしているのね!」

「民間人が見れるのは犯罪者だけだけどな」

「それでも、誰にでも開示されているなんて凄いわね。首都くらいだと思ってたわ」

今度はシエルが驚いた。

「お前、首都にいたことあるのかよ」

「生まれがね。両親が亡くなってしばらくしてからこのバイクでロボと旅に出たわ」

「お前、お嬢様だったのかよ」

「昔はね」

私は胸を張る。

そう、昔は大きなお屋敷に住んで下働きのアンドロイドもいて、何不自由なく暮らしていた。

今は従兄弟一家が暮らしている。

なんでかっていうのを話すと長いけれど、全部物知らずな私が騙されたのが悪かったの。

だから世間を、世界を知りたくて旅に出た。

でも、これがすっごく楽しかったの!

「お前も苦労してるんだな」

シエルに同情したように言われても笑顔で返せられる。

「まぁね!でも、楽しい旅よ」

このバイクとロボがいてくれたら、どこでも行ける。

そんな気がするの。

「ふぅん……」

シエルが気遣わし気に相槌を打つ。

やっぱりシエルは優しい子だと思うの。

それから何気ないやりとりをして、少し親しくなれたと思うとまた突然止まるシエル。

「この街のデータを読み込むなら端末はここにある」

そう言ってシエルは一軒の小屋に案内してくれた。

「ありがとう!シエル!」

「もう金なんて戻らねぇとは思うけど、一応な。じゃあな」

「うん、またね!」

シエルが肩を竦めた。

「またってなんだよ。この貧民街でまた会う時なんて死んだ時ぐらいだぜ」

「でも、シエルとはまた会える気がするの」

「そうかよ」

男の人って少しぶっきらぼうなところがあるのかしら?

ゾフィさんも最初はそうだったわね。

でも、お父様は優しい方だったわ。

私が懐かしいことを思い出していると、小屋の扉が開いた。

中から扉より大きな人が出てきて言う。

「お嬢さん。中から話は聞いていたが、この街の端末を読み込みたいんだろう?やるなら早くやりな」

「わ、分かったわ」

自分の倍ぐらいありそうな大男に見下されて、私は少し怖かった。

でも、お金がないって言うと無償で端末からダウンロードさせてくれたの。

「ロボ、覚えた?」

「モチロンダヨ、リンツ!」

私はおじさんにお礼を言った。

「ありがとう、おじさん!スリを捕まえたら必ず支払うから!」

「ああ。期待しないで待ってるぜ」

そう言って、椅子に座って煙草をふかす。

煙草の煙が煙たくてけほこほと咳をしたら消してくれたわ。

「……俺にもお前くらいの娘がいるんだがよ。つい辞めたはずの煙草を吸っちまう。煙草の匂いはやだって言われているんだがよぉ」

語尾が少し小さくなる。

「お前さんは少し娘に似ているから、これはサービスな」

なんだ、やっぱり貧民街って言ってもいい人が多いのね!

「じゃあ、おじさん。スリを捕まえたら絶対お金を支払いにくるから!」

おじさんは手をひらひら振って別れの合図をした。

さて、スリ探しの始まりよ!

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