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マギオン  作者: 雷然
8/12

南国なんていいもんじゃないべ、だって暑いし虫も多いしよ、良いことは笑顔の人が多いことと女の子が薄着なことぐらい。

 タカヒロ・ベガ・サロマなるお調子者は実のところ平凡な少年である。19歳という年齢は人によっては青年と呼称するのに十分ではあるが、彼の精神性は日本でいえば小学生ほどで魔力子の社会的意義や運用法、ましてや学問として云々など彼にとってはどうでも良かった。彼の国には不幸な歴史もあったが彼の家族や大切な人々は皆善良で明るく、彼自身も大きく何かに(つまず)いたり、ましてや誰かを恨んだり憎むことなどありはしなかった。

 負の感情。それが大人になるために必要な通過儀礼ということではないのだが、少なくとも彼にとってはそれが大人になるために必要なことであり、仮に彼の人生が過酷で苛烈であれば彼は否応なく大人になっていただろう。そして彼は幸運にも少年であった。太陽のように笑い、誰をもを笑顔にしたいと思う少年であった。


 タカヒロの実家は代々黒魔術の家系で祖母から基本的なまじないの手ほどきを受けていた。彼は筋が良かった。呪うまじないも、癒すまじないも共に得意であり、祖母から免許皆伝を与えられてからは民間療法士としてアルバイトをすることもあった。もちろんそれは魔力子とはなんら関係ない民間療法で、科学的な根拠など何もありはしないが、彼の明るい人柄と土地の人々の信心深さが彼のまじないを成立させていた。また彼の風貌(かお)が精神性と乖離してやたら大人びていたため熟練の祈祷師だと勘違いされることもあった。タカヒロはそういうとき大抵、普段以上に愛想を発揮し陽気につとめた。


 QORAの覚醒と魔力子(マギオン)の発見。それは、彼にとって祈祷が本物になったという認識ではなく、元々本物だったものに偽物(メッキ)が付与されたようなものだった。いや偽物でも本物でも彼にとってはそこにある、というだけで本物だった。だから彼は自分が天然のマギオン使いになった時、まるで生まれたときからそうであったかのように自然と受け入れた。そういうものだと。


 彼の異変に気付いたのは末の妹。どうも近頃兄が(さと)いのだ。

 勉強ができるようになったわけでも近所の友達(わるがき)と遊ばなくなったわけでもないが、妙に気が利くのである。

 こちらが用を足しているときに扉を開けることがなくなったし、私や兄弟たちの私物を勝手に持ち出すこともなくなった。ちょっと嫌なことがあってムカついているときは自然と静かにしてくれているし、食事どきなどこっちが何も言わずともほしい調味料を渡してくれることもあった。

 最初はついにお兄にも恋人ができたのかと、勘の良さないし気配りに理由をあてていたがどうにも違うようである。兄の変化、その理由が最近ニュースで話題となっているマギオンにあるのではと思いついた妹、プリシアは、自分の思い付きの真偽を確かめることにした。


「お兄、マギオン使えるの?」

「まぎオん? なんだそれ」


 よその国の学者さんたちが大騒ぎしているマギオンも当然兄の耳には入っていない、ニュースも新聞も見ない、学校の授業もまともに聞きやしない(授業風景なんてみなくたってわかる!)そんな兄にダメ元で聞いてみたがやはり知らないそうだ。プリシアは実験をすることにした。


「お兄、今プリが考えてることを当ててみて!」

「なんじゃそれ、そんなのわかるわけないべ」

 んー前提条件が違うのか、それともそういう“形”じゃないのか。

「お兄、プリが今思い浮かべている数字を当ててみて」

「数字? オレぁ算数は嫌いだぁありゃ悪魔の学問だべ」

「いいから早く!」

「めんどくせ、はーどうせ10だろ10、いつだったか10進数の素晴らしさについて熱く語ってたもんな」

 プリは少し嬉しくなった。しかしクイズは外れだ。

 どうしてだろうか。

「お兄ぃ! 大事なことなの、もっと本気でやってほしいの」

「ほんき、ほんきねぇ、その遊びがプリシアにとってなにか大切なことなのか?」

 兄の両手をとって握りしめる。硬く細い手、父とも上の兄とも下の兄とも違う密度がぎゅっとしている手だ。

「大事、大事よ。もしかしたら私が思っているよりずっと大事なことかもしれないの」

 タカヒロがプリシアの指を握り返す、両手とも恋人つなぎの形。

「お兄の手、冷たいわ」

「お前のはあったかいな……それで? 数字を当てればいいのか?」

「んーそうね、数字4桁、今ちょっと考えるから待って、ええっとぉ4桁の数字と色をつけるわ、色までお願い」

「わかった。まかせろ」

 まじないの時に見せる兄の真剣な表情。修業時代と違ってアルバイトについていくことはないから、今じゃ見る機会もない顔。

「0・9・4・2、色は最初が白、9は赤で4は緑、2が黒か、あと背景って言っていいのか数字のあっちがわは銀色か。むちゃくちゃだなお前」


 サロマ家の末っ子プリシア・ベガ・サロマ14歳。彼女が兄の協力を得て知ったこととニュースとネットの知識、それらを合わせて仮説と学びたいことを妄想込みでノートに書き記した。

 そのノートをもって大学受験に向かわされるタカヒロ、大学なんぞ行く気もなかったが授業免除の特待生で合格し、さらに大学教授の勧めで本を出版できる運びとなった。

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