チューナー
魔力子波への高い受容感度を者をチューナーと呼ぶようになった。名づけたのは当人もチューナーであるアルボラリス主任だ。彼はチューナーを介することで書き換えられた情報の、元の形やいつどこでマギオンを運用したのかある程度判別する方法を見つけた。将来的にはマギオン波に含まれる固有パターンによって誰の仕業かをまでも特定できるようになるそうで。あらゆる情報を精査することが出来れば再書き換えによって復元することも可能らしい。
とはいえ、アルボラリス主任が言うにはこれでなんでも戻せるわけではなく、チューナーの力量も大事だし、書き換え後の情報の多面性や意志の強さなどによってはどうにもならないこともあるそうだ。
さらに。
「クロダ博士も同様のご懸念があるかもしれないが伝えておきます。情報を何度も書き換えれたり、一か所に複数の意思や情報が集まると何が真実か分からなくなる可能性が高い。変なモノが出来上がるだけならまだいいが、情報同士が対消滅すれば、情報のブラックホールのようなものが発生する可能性すらある。実に恐ろしいことだが留意しておいてほしい」
マジやめろ、いや本当に勘弁してください。こちとら休暇のおかげでやっと為すべきことを見つけて勇往邁進する所存。そっちの問題はそっちでなんとかして下さい。というか? 情報のブラックホールて! 考えただけで恐ろしすぎるんですけど。
アルボラリス主任は休暇から帰ってきたチカが何かやらかすと思ったのだろうか、釘を刺してさっていった。
タンポポは主任の胸に咲き続けている。どうやら枯れることはないらしい。
「さーてやりますか」
チカは本の内容で不足している箇所から洗い出すことにした。間違っている場所の修正は全体像が見えてから。細かいところは最後、その段階までいけばアルボラリス主任や他の人の知恵も必要になるだろう。まずは独力で。
あんな謎な人物がここまでやったのだから私にだってできるはず。
チカの作業は長い時を消費した。
本にあったのはマギオン工学、マギオン治療、マギオン医療。あとは簡単な数式と体系的なマギオンの基礎知識だ。しかしあまりも一面的で浅すぎる基礎知識。浅すぎるゆえに体系的になっているとも言えた。マギオンは情報を伝達する素粒子だ、それはいい。マギオンは意識も情報として伝達することが出来る、よって意識=情報とマギオン理論では仮定する。この時点で心と物質の二元論は崩壊した。科学者が哲学を語るなんてナンセンスも良いところ、しかしマギオンを語る上でこの哲学はさけては通れない。
チカは魔力子を学問にすると決めた。そう決めて基礎理論に哲学的思考を取り入れることにした。体系的である必要はなく矛盾していて構わない。一行目と二行目が反対の事を言っていてもいいのだ。それが魔力子なのだから。量子もつれが起きるように相反する情報が折り重なった状態。観測者の意思が最後の形が断定する――?
「変だ」
タカヒロ・ベガ・サロマから渡された小冊子『魔力学基礎論』。
これを本の形、おそらく何冊にもなるであろう教科書にするため、文章を書き始めたチカは己の思考に引っ掛かりがあるのを感じた。既知。デジャブ。点と点が線になろうとして崩壊する、不足がある。点が足りずに像の形が完全には浮かび上がってこない。いや足りないところは仮定しろ、仮定して仮説となせ! 仮説があればあとは確かめていくだけ。その道筋が遠くとも仮定さえあれば!
瞬時、泡立つイメージを加速させる。仮定A、違う。仮定B違う。C。これか? ならば仮定Cに連なるC2は? C3ならばどうだ? もっと早く、もっと遠くへ。
左手はキーを叩くためホームポジションに置いたまま考える。仮定をいくつも考えてはダメだしを繰り返す。総当たり、というわけではない暗闇の思考の海に灯台の灯りが見える。光に向かって進路をとる。煮えたぎった思考がひとつの解を示した。右手のペンがノートに落ちる。
「QORA、もしかして観測ってこれのこと?」




