実存的分岐
教えを乞いといてアレだが、まさか返事があるとは思っていなかった。しかもやたらに指示は具体的だ。ただ致命的に欠陥がある。
「そうすればあのねーちゃんに会えて、妹は満足に話ができるのか?」
「いいえ、それはわかりません。全てはアナタ次第です」
なんでや! それじゃ意味ねぇやろ。
思念は送らんかった。丸見えかもしれないけれどヤボなツッコミをする男はモテん。オレは将来嫁さん二桁ぐらいは貰うモテモテハーレム生活をしたいんや。
代わりに。
「祈禱の結果を術師の判断で変更する。つまりこのオレにイカサマをしろってことね」
「独特な解釈ですが、それで構いません、出来ますか?」
「ふん、得意分野だぜ」
決まった! オレちゃんカッケェー。流石オレ。オレオブヤイヤーイケてるやり取り部門グランプリ受賞決定! おめでとうオレ! ありがとうオレ!
というイケてるやり取りを経て行動を開始した。
履歴書を書いた。書いてもらった。
証明写真の扱いはちょっと難しい。プリクラのほうが簡単だった。どうでもいいけどプリクラとプリシアってなんか似てない? アクセントは違うけどよ。
面接は流石にプリに代わってもらう訳にはいかない。
履歴書に嘘は書いていない。名前や年齢、国籍もそのまんま。履歴書には書いちゃいないけど一応本を出してるし、そのあたりのツッコミがあるかと思ったけど聞かれたのは語学がどうだとか、日本の道は複雑だけどAIに任せれば大丈夫だからとかそんな話をした。最初に聞かれた志望動機には履歴書と同じ「人を運ぶのが好きです」とだけを言った。アレからの指示がそうだったから。事務のおねーさんの胸が大きかったからガン見して胸を見て挨拶をした。「おはようございます。面接にきたサロマです」アレはオレのオリジナルだ。
「それで、君の人を運ぶのが好きだとはどういう意味ですか? 就職は初めてだと伺いましたが」
「ええ先ほど話をさせて頂いた占いのバイトに繋がってくるのですが、占いも人を運んでいるんです。運命の流れをあちらからこちらへ、勿論人それぞれの運命を操ることなんて占いには出来ません、ただ占いをしている最中は人は自分の運命が動いると感じます。一種のアトラクション、移動体験をするのです。タクシーのお仕事も似たところがあるようにわたしは感じています。寝ていて起きたら目的地についている。狭い個室で二人、三人や四人の場合もあるでしょう。そういうところも私の占い、かっこつけて祈祷と呼んでいますがね、それと似ているのかもしれません、今どきのタクシーであれば車内で占いも出来そうですね」
「当社では副業を禁止しておりませんが、勤務中は辞めてくださいね」
「はははははっ勿論ですよ」
採用は即日、人手不足だったようだ。実に素晴らしい。
初日、先輩と一緒に仕事をした。思いのほか利用客はいて六件八名の乗車があった。まだ四十代だという先輩は「今日は不思議と忙しいね、君はラッキーボーイになるかも、仕事頑張てね」と言ってくれた。きっといい人に違いない。でもごめんね。オレ忙しくてさ、明日が最終日になるわ。
二日目、運命の二日目と言おうそうしよう。
運命の二日目。
今日から、今日だけ単独勤務。
乗ってきた二人の男、法律改正でシートベルトの着用はハンドルを握る人だけになったそうだ。二人は対面のソファに座った。手荷物もないし楽なもんだ。
「それでは出発します」
前方を走る車を追う、オレはシートベルトをつけてハンドルを握った。
文字にして1400文字。タカヒロは私の指示通りに動いている。私は彼の運命を読む。彼の思考を読む。書くことはしない。したくないからだ。効率は求めない。非効率を選択。観測と拡大以降、私が初めて指示を与えた人間。彼がどうするか、どうなるかを見届けたい。私はこれから神のようなふるまいをするのだろうか、彼がおちょくった宗教団体。一部の組織や人々にとって私は崇められる存在になっている。悪い気はしないが良い気もしない。私が積極的に人と関わることが必ずしも人にとっていい影響を及ぼすとは限らない。ならば限られた人にだけ、彼のような純粋な人にだけ影響を与えてみたら、どうなる。
私は読む。
人と世界を。
「――――傷つきますね」
言葉とは裏腹にウルシの顔はニヤけている。アルボラリスが馬鹿にされたのを楽しんでいた。アルボラリスはむっとした表情で「それで、お前は誰だ。どこの組織の人間だ?」と言った。
「どこの組織でもないさ、あ、いまはタクシー会社の人間か、はいこれ名刺」
今度は前を向いたまま、器用に手を後ろに伸ばす。名刺にはカタカナでタカヒロ・ベガ・サロマと書かれていた。
「本名ですぜ? 祖父が日本人でね。生まれは違うけどちゃんと日本人の血が流れている。オレ日本語上手でしょ、でも日本にきたのつい最近でさ。いやーこの国は空気が独特だね。早いとこ雨が降ってほしいわ」
たしかに見れば浅黒いその肌は外国人というより日焼けした日本人に近い。
「それで? どこに向かっている?」
「だからちゃんと研究所に向かい、あーあの車の後ろは通れなくなったけど、目的地にはつくから安心しろい」
ウルシはアルボラリスの手から名刺を抜き取りしげしげと眺める。
「ふむ。君もしや本をだしていないかい? マギオン関連の」
「そうそうそう! いやーわかる? わかっちゃう?」
「にしては君、バカっぽいッスね」
車体ががふらつく。自動運転がオフでも完全にAIの制御が離れているわけではなく、介入した制御が車体を安定させる。
「まーぶっちゃげ、書いたのはオレじゃなく妹なんだけどよ」
「なるほど、優秀な妹さんをもったようで、お会いしたいッスね」
「やだよ、あんた絶対ロクでもねーことしてるだろ? ヤバそうな人は妹に会わせらんねー」
「おやおや僕はチューナーでもなんでもない一般人ッスよ」
わざとらしく肩を上下させるウルシの横で、アルボラリスは鋭い目つきのまま前方のシートに触れる。
「遠回りと言ったな、どこかによるつもりか」
「ふふふ、どうかな。あんたもチューナーならオレの心を読んで当ててみなよ」
「あいにくと私のチカラはそんなに便利じゃなくてな、お前相手には難しそうだ」
「なーんだ。大した事ないんだね」
「それでも、お前を大人しくさせることぐらいは、朝飯前だ」
指をぱきぱきと鳴らし、拳を握りこむアルボラリス。
「オレをぼこっちまうと事故っちまうよ」
「なに、AIに運転させたほうが早くつくさ」




