幕間 1
地図を見てたどり着いた家はおもったよりちゃんとしていた。古くはあるが、今にも崩れそうでもなく、汚れもそれほどひどくも見えない。
戸を叩くと出てきたのは女性だった。おそらく、馬車に詰め込んだ子どもの母親だろう。顔立ちが似ているように見えた。
「ご主人はいるかな?」
僕は穏やかにそう聞いた。
慌てたように彼女は奥に引っ込み、あんた! お客! と大声を出していた。
そのあとに玄関先で話すようなことでもないと思ったのか家の中に招き入れられる。
ガタついた椅子に座り、部屋にいた3匹の子どもにじいと見つめられながら暫し待つ。やってきた男性はやや疲れたような表情をしていた。
さらに疲れるような話をせねばならないのは少しだけ気が重かった。
僕が話を始めると子どもは追い出されていった。母親も少し気遣わしげに視線を送ったあと、外に出る。
「あの子を、墓守に?」
突然の話に男は戸惑ったようだった。それも当然かと思う。幼い娘がいきなりいなくなり、お金のために誰もやりたがらぬ役目を負うのだから。
「そうですか。そのほうがいいかもしれませんね」
「反対されないんですか?」
「娘の働き先がなくなったんです。次の勤め先もない。我が家も裕福ではなく、これ以上は養うことも難しい。では、嫁に出すかということですが……」
そこで言葉を切って首を横に振った。
「あの子は賢い。どこに嫁がせても不幸になりましょう。
それならば、家を出てどこかの商家に奉公にいかせようかと探していたところです」
「なるほど」
奉公といえば聞こえはいいが、要は人身売買だ。ある程度の金を先払いし、そのあとは衣食住を賄ってやるからと働かされる。場合により、借金を背負わされどこにも行けないようになる。
近年増えていると聞いてはいたが、実際そんな場面に出くわすとは思わなかった。
「お金はこちらに」
「……こんなにあっさりと渡していいんですか?」
「構いませんよ。私も人買いみたいなものです。
今後一切の係わりを許しませんし、縁を切っていただきます。戻る家は必要ない」
揉め事の起こらないように先に釘を差しておく。騙すような人には見えないが、これまでがひどかった。支度金を渡して逃げられること2度。流石に懲りる。
「それから、お嬢さんからこちらを預かっています。
もし、彼の地でなくなっても戻ることもありませんので形見としてもっていてください」
「お気遣い痛み入ります」
別にそれは僕の気遣いではないが、言うこともないだろう。
髪を結んでいた布をじっと見つめ、彼はため息をついた。
「娘に幸運を祈ると伝えください。
あの子に必要なのは運だけです」
「わかりました。必ず」
それで話は終わりだった。元の馬車まで戻ると中の子どもは座席で丸まっていた。
やせっぽちの小さい子。
その姿に少々の罪悪感を覚えた。しかし、こうしなければいつまで経っても王都には戻れないのだ。この話を僕に押し付けたのは左遷や嫌がらせの類だと知っているが、できませんとするわけにもいかない。
「君は、逃げないでくれよ」
さすがに小さい子を処分するのは気が滅入る。




