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あなたを見送るための  作者: あかね


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28/29

おまけ こいぬのさんぽ

二話詰め合わせです。

異国にて


「あの子は元気にやっているかしら」


 心配そうに言う女に彼は視線を向けた。

 日は暮れ、子供たちも休んでいる。少し前よりも広い家は、あの国にいたままでは住めなかった。ほかの国へと移住するという決断は間違っていなかった。

 それに心残りがなかったとはいわない。


 移住ができるほどの資金が用意できたのは、娘を売り払った結果だ。本人が望んだと言っても止めるべきであったかと思い返す日もある。


 そんなもの、どうでもいい、戻ってこいと。


 そんな思いに蓋をして彼は興味なさそうに女から視線をそらした。


「ちゃんと食べているかしら。あの人ひどいことを」


「問題ないだろう」


 彼は重ねて心配事を上げる言葉を遮る。


「そうは言っても……」


 女は不満そうな顔をしたが、それ以上はなにも言わない。そのうちに別の部屋の息子の一人が、おっかぁ?と寝ぼけた声をあげたのが聞こえた。

 ため息をついて、今行きますよと女は部屋を出る。


「大丈夫だ。

 うちの娘は、弱くない」


 その背に彼は声をかけた。ぱたりと扉が閉まり、聞こえたかも定かではない。

 残されたのは、男と飲みかけの酒。


 いいものをちょっとやるのがいいと思う。安酒のがぶ飲みは品がない。


 娘はよくそう言っていた。父さんの体が心配ですからねといいつつ冷ややかな目線のままに。この飲んだくれがと言われたことはないが、表情がそう語っていた。

 なんだか気まずくなって酒を変えた。

 確かに良いものを知ると安酒には戻れなかった。しかし、良い酒は高く、多くは買えない。酒量が減ったが、その結果、体調が少し良くなった。


 その礼を言えば、驚いたような顔した後、嬉しそうに笑った。

 あの娘の顔は忘れられるものではないな、と男は思う。


 男は壁に視線を向けた。娘が作った布をそこに飾った。


 ここにいないが、もう家族ではないというわけではない。たとえ、見知らぬものに託された娘でも。


 男はそっと祈りをささげる。ただ、娘が穏やかに過ごせるようにと。

 それから、ゆっくりと酒を飲み干した。息子たちが騒ぐようならガツンと言ってやるのが男親の仕事だ。立ち上がったときに視線をよぎるなにかいた。

 白いと視線を向けると……。


「いぬ?」


「わぅ」


 一声鳴いてそれは姿を消した。



城、執務室にて


 彼は急な来客の対応に頭が痛かった。


「やあ、久しぶり」


 隣国の国王が急にやってきた。普通、国王というのは、気軽に、急に、やってこない。綿密な打ち合わせの末、やってくるものだ。


 この国は隣接する国が5つあるが、ほんのわずか接しているだけのかの国はとても遠い。途中、ズルをするにしても強行軍だ。そこまでするような用事はない。


「ユリウス陛下、お久しぶりです。何しに来たんです?」


「手紙をもらったからね。遺書みたいな手紙だったから、そりゃあ来るよ。

 まあ、元気そうだし、良かったよかった」


 困惑した彼に、少し怒ったようにユリウスはそう言った。どかっと勝手に椅子に座る。


「手紙……?

 ああ、手配していたのを忘れていました。

 すみません。忘れてください」


「二度と出すなよ。あとのことはお願いします? ふざけんな」


 ユリウスの淡々とした口調に怒りが滲んでいる。

 かつて、わがまま放題だった少年の名残がそこにあった。彼は小さく笑う。


「心配させてしまいまして申し訳ございません」


「そう思うなら、長生きしろよ」


「最近、同じことを言われましたので、ちゃんと覚えています」


「魂に刻んでおくんだな。

 ……で?」


「で? とは」


「噂の聖女様はどちらに?」


 ユリウスは今度は好奇心丸出しで聞いてきた。隣国まで届くほどであったらしい。そして、その後の報は彼は知らないらしい。


「さあ? 逃げられてしまいました。国一番の宝を奪っていく悪女ですからね。陛下には会わせられません」


「あ? 逃げられた? ありえん。

 どこにいるんだよ、美人って聞いたぞ」


「興味あるのが顔なら、肖像画がそちらに。

 勝手に置いていかれました」


 本人の許可なく勝手に描かれたので押収したらしいが、処理に困ってここに置いていかれたのだ。美人の絵なら邪魔ではありませんよね? と言って。

 彼としては、今度なにかあったら、来てもらうからな? という脅しではないと思いたいところだ。


「へぇ、確かに美人」


「迷惑をかけに行かぬように」


「場所知ってんじゃねぇかよ」


 そう悪態をついただけで詳細はきかなかった。


「やっとお休みいただけるのです。

 誰も、なにも、邪魔をさせてはいけません。

 我々にはそれはできませんでした」


「……わかってる」


 国と大事な人を天秤にかけて、彼が願ったのだからとそのままにしておいた。それを悔やみながらもなにもせずに。


「わう」


 元気よく鳴く犬の声が聞こえた。


「おう、どこからきたんだ? ちょ、まて」


 元気な子犬は部屋の外へ向かっていく。追いかけたユリウスが、廊下を覗き込んで、青ざめた顔色で帰ってきた。


「どこにもいないんだけど?」

ユリウス→2主人公です。かつての友人がもう一人いなくなるのかっ!?と慌ててやってきたら、平和過ぎて……。

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