このくにでいちばんのたからもの
約束の日は1週間後だった。さすがに即日は都合がつかなかった。警備とか言われるとね。
その間に少しずつ荷物をまとめ、ブランに背負わせる訓練をした。子犬となっていたが、大きくもなれる。そうすれば色々持ってこれるだろう。魔導書とか、いい感じの服とか……。
さすがに布は織れても仕立ては習ってないので服は自給自足することはできない。悪いが強奪していく。あの荒い目の服にもどれはしないのだ。
ちょいワル魔導に乗っていた数をごまかす魔法をかけて数が足りないのは気が付かれないようにした。
そのためかブランはおつかれモードだ。役人が心配そうに病気か? 人の医者が犬を見てくれるだろうかとマジな顔で言っていた。犬バカになっている。おやつでいいんじゃない? という私のほうが人でなしのように見られる……。
今日もブランの相手をしに来た役人は少し疲れているようだった。
「あなたもお疲れのようなので、祝福でも一発きめます?」
「いらないよ。
怪我も病気もないのだから、他のものからするべきだろう」
鉄壁の防御で断られた。ちっ。今、護衛をしてくれているデルタ氏もヘクター氏、さらには宰相閣下も断ってくる。
都合の悪い相手ばかりが正論で断る。受けてくれよ、私の優しさだよと思いつつ不審に思われたくもなく……。
「若い頃のようだという奴らにイラッとするから追加はやめたほうがいいんじゃないのか?」
「頑張っていただきたいですし?」
「調子に乗らせているの間違いでは」
鋭いなぁと思いつつよくわからないなという表情をしておいた。胡散臭げに見られたので失敗したっぽい。
「明日、だね」
「ええ、明日ですね。金銀財宝が楽しみです。呪いの巨大な宝石があるとか聞いたんですけど、ほんとですか?」
「座ると死ぬ椅子はある。本当か知らんが、人はみな死ぬと決まっている」
ブラックジョークが効いている。
「大丈夫です。余計なものには触りません」
「どうだか。ブランもご主人をちゃんと守るんだぞ。どうにも危なかっかしい」
「わぅぅ」
「そうか、難しいか。そうだよな」
「わう!」
「そこ! なんで! わかりあってんです!?」
私、飼い主! 一人と一匹は同じタイミングでこっちを見た。
「仲良しだからだが」
「わん!」
くっ。
一人と一匹はそのままお散歩に行ってしまった。なんということでしょう。
「私もついてく!」
かくして飼い主が飼い犬の散歩に着いていくことになったのである。散歩というには人の少ないとか裏路地的なところを通ったりした。人が多いところだと歩くより抱っこされることが増えて散歩にならないらしい。
なにげなく聖女様より人気な気がしてきた。敗北感がある。
そんなドタバタの翌日に宝物庫を見に行くことになった。
議長から偉い順にと言わんばかりの10人ほどと警護の兵士たちに囲まれて私は移動した。何気なく役人が混ざっていたが、体調の悪い宰相の代わりに見届けにきたらしい。
いなくていいのに。
宝物庫の重々しい扉を開けて、中にはいると自動的に明かりがついた。人感センサーと思ったが、皆は驚いているようだった。
今までは明かりがつくことなかったらしい。私の修理の結果、ここまで直ったようだった。
皆が今まで見たことのない宝に目を奪われている中、私は探し物をする。
「あった」
この国で一番の宝物。
一段、高い場所に置かれた箱。誘われるように足を向ける。一抱えもあるようだが、まあ、なんとかなるだろう。
今のうちに。
「これは、だめだ」
目の前に立つ役人を思わず睨みつけた。
「もう後戻りできなくなる。
それを望めば普通に暮らすことを捨てることになる」
今なら、なにもなかったことにして、暮らせるとでも思っているような言い方だ。
そして、コレがなにかを彼は知っている。
「最初からなかったものですよ。そんな普通なんて。そこをどいてください。
私は、私の王に戻ってもらわねばならないんです」
こんなところで、死んでも働かせるなんてどうかしてる。
皆がいらないと追い落としたなら、自分たちでどうにかすればいいのだ。
「どうしても?」
「2度はいいません」
役人はため息を付いた。
「わかった」
その頃には他のものも異変に気がついてこちらを見た。
「それはいけません。この国の至宝なのです」
議長が焦ったように近づいてくる。口々にそれは渡せないと他の宝物を勧める。
「そんなの全部いらない」
いい切ったときには、外に待っていたはずの兵たちがなだれ込んできた。意図的ななにかを感じるが、どうでも良かった。
「祝福は地に落ち、呪いとして罪を贖え」
この世の祝福は呪いと表裏一体。祝福の一部を変えるだけで呪いとなる。また逆も然り。
今までの私の祝福は、呪いへと変じる。呪いの強度は大したものではないが、今までの調子の良さからの落差はかなりのものだろう。
皆が動きを止めるが、役人はそのままそこにいた。私が魔法を練るよりも前に彼は宝箱を手にして、私に押し付けた。
大きさのわりに軽いそれを受け取ったが、意味がわからなかった。
「行くぞ」
そのまま手を繋がれ、外へと引きずられる。
「ど、どうして!?」
「ほんっとに君には呆れたよっ! 馬鹿らしい忠誠心で何もかも捨てるっていうのがさっ!
仕方ないから付き合ってやるよ!」
ヤケのように宣言された。
戸惑う中で、外に出るとデルタ氏がいた。身構える私に彼は変わらずにかっとわらって、右で左だと言う。
「上でヘクターが待ってる。餞別は受け取れ」
「うまくやれよ」
「当たり前だ。聖女様も、どうか、息災で」
え、ええ!? 説明して! という間もなく、ぐいぐいと引っ張られていく、ちょ、まって!
「あなたにも良きことが起きますように!」
祈りでもなく、ただの言葉でしかない。今はきっとそれが一番いい。私たちが右に曲がったあとに、別のほうへ行ったという声が聞こえた。
「遠回りさせるだけだから、急ぐよ」
止まりそうな私はやはり引っ張られる。に、逃げるけどさっ!
上階では言われていた通りにヘクター氏がいた。背負い袋一つ分を役人に投げ渡す。
「上でお待ちだ。
聖女様には礼を言わなければいけない」
「な、なに?」
「この大騒ぎの中で鳥かごにいる大事な人をさらいに行くことにした。
せいぜい、騒ぎ立ててくれ」
「はあ!?」
なんだそれ。役人も初めて聞いたようで愕然としているが、背中を追い立てられて先に進む。この上は屋上だ。
「わが主君をお連れいただきありがとうございます」
最後にいたのは宰相閣下だった。
今は包帯はなく、昔のようにとはいかないまでも年相応に見えた。
「警戒しないでください、とは、無理でしょう。
渡せとはいいません。
どうか、王を解放してあげてください。私には、その決断ができなかった」
彼が言う罪はいるとわかっていながら、そのままにしたことなのかもしれない。
主君が守りたかった国を損なうこともできなかった。
「言われずとも」
階下はまだ静かだが、早く立ち去るに限るだろう。
「また、会いましょう」
そうとだけ告げて、私はブランを呼ぶ。
空に白いものが広がり、大きな形で収束した。
白き竜。
魔導の王の使い魔の真の姿だ。
乗りやすいように近寄ってきた竜は、私を咥えてぽいっと背中に放った。ぽよんとして、なにかに包まれる。騎乗というより中に保護されたに近い。
「わぅ」
それから、役人も! 満足げにワンと鳴いて、ためらいなく飛び立っていくブラン。
「ちょ、置いてきなさいっ!」
「あれで戻れると思ってるのかい!? 言い逃れもできない反逆者だよ!」
た、確かに。議会でもアレがなにか知ってて利用して、それがないとまずいのも知っていた。その宝箱を持ち出したのは役人だ。私に押し付けたにしても、持ち出してる!
その責任を押し付けるにはもってこいだ。
そして、聖女をさらった件も追加だ。
「あーあ、何もかもなくなった」
「それは、自業自得では」
「君がね……。いや、いい。僕も承服しかねることだったから」
そう言って役人は黙った。
予想外のツレもできたまま、お家に帰ることになってしまった。




