魔道の王の城
……舐めてた。
私は推しを舐めてた。魔導の王ゆーてもお城まで魔法尽くしじゃないでしょぉ? と。
最初は到着後すぐ。廊下を歩いていたときだった。
なにか鳴ってないか聞いたが、誰も首を傾げるばかりだった。気の所為というには大きい音量で、不思議に思ったがそれ以上言うことはやめた。
私の到着を待っていた議会の者へ挨拶だけをして滞在先に案内されることになった。
ここで役人とデルタ氏と別れることになった。この先はローデル卿が先導してくれるらしい。二人ともにまたねと言ったが、役人は肩をすくめて返答はなく、デルタはそのうちにと濁した回答だった。
案内された部屋は続き間があるものだった。寝室と居間、衣装部屋と使用人部屋で一つの部屋となっているらしい。前世感覚で言うと10畳の寝室、6畳の居間、ウオークインクローゼット、4畳部屋くらい。
手狭なところで申し訳ない、新しい家は用意する予定だと言われるが、ちょうどいいくらいだ。
ブランは部屋をふんふんと調べていたようだが、ソファの上を自分の居場所と定めたらしくぽすっと乗っていた。かなりの高さあるのに器用だな。そのまま眠いといいたげに丸まっていた。
その時点でまた後ほどとローデル卿が外に出た。その後姿を見ると黒いモヤがまとわりついていた。まだ、接触はしていない。
私以外にも中々恨まれているようだ。守りが薄い今、いつまでもつだろうか。無様ねぇと嗤う日は遠くなさそうである。
さて、それはさておき。改めて部屋を見回すと少々、少女趣味なのが気にならないでもないけど、相手からのイメージがわかって助かった。つまり、この部屋に似合うような少女のフリがいいということだろう。
まずはお召し替えをと青のドレスを出されてきた。言われるままにお人形をすることにした。
大人しい扱いやすいお人好しの小娘。時々頑固、程度がここで自由に振る舞いやすい。最初から大暴れするわけにもいかないし。
着替えの最中も部屋のどこからか音が聞こえてくる。
なにか聞こえない? と着替えを手伝ってくれる推定メイドさんに聞くと聞こえないという。あのあたりと指さして、近寄ってもらったがやはり聞こえないという。
それならいいけどと濁したが、それがいけなかったのかメイドさんが青ざめてそれ以降は沈黙した。
そして、議会の面々ともう一度会うことになった。晩餐会のようなもの、らしい。
最初に着替えればよかったんじゃない? とおもったが、なんか意味があるんだろう。たぶん。ブランはお留守番である。呼べばすぐに来るからそれでも問題はない。
歯の浮くような賛美を私は微笑んで聞き流しながら、この世界で初めての高級料理を堪能した。
前菜、パスタ、肉、チーズと来たのでここらへんはイタリアンぽい。最後にデザートを苦いコーヒーで流し込みおいしーと耽溺する。
しかし、この世界でパスタ、食べたことないな。高級料理なのか。チーズの流通もあまりなかったし。庶民、じゃがいもと豆とパン、麦粥系で生きておりましたな。うっすい麦粥ときたらもう……。伝説の塩スープも中々。そういう生活からすると夢のようではある。
……さて、一段落ついたところで、なんだか妙に見られていることに気がついた。いや、気がついてたけど気にしてたら食べにくかったので気の所為で片してた。
「なにか?」
目があったと思われる一人にそう尋ねるとびくっとされた。
「い、いえ、お美しいのでつい」
「ありがとうございます」
私は身の程はわきまえている。持ち上げていい気分にしてやろうという魂胆だろう。本来は値踏みされていたに違いない。
会食だけで終わってほしかったが、そのあと別室に用事があった。
魔力測定である。
そんなの測れるの!? といったところだが、これは前文明の遺産と言われるものの一つ、らしい。あったのそんな設定。ついでにこの地はここの地下とか言われると表情が引きつった。
もし、シリーズが続いていたら出てきた設定なんだろうか。なんだか、嫌な地下迷宮にぶっこまれる未来が見えた気がした。
……まあ、それは棚上げしておこう。一生棚卸しはしたくない。
さて、魔力を測定、測定機振り切るぎりぎり。壊れるかもしれないのでと止められたくらいだ。
それだけなら良かったのだが、カラー診断で属性も測ったら、無色だった。魔導の王と同じように。
魔力というのは光の三原色と同じで、すべて混ぜると白になる。魔力の属性も赤、緑、青の3種類が基本とし、すべてを作り出せるという考えだ。
赤は生物、緑は地、青は空を表すらしい。
攻撃系(広域攻撃魔法等)、防御(バフ・デバフ等)系、治癒(解毒・回復等)系の分類だと思ってた。ゲームシステム的にあんまり難しいこと言われたことないので知らなかった。
思い出してみれば適性やら育ち方が色々有った気がしないでもない。いや、私、力押しのなんでも斧で解決系だったので。
この事実に周囲はみなびびった。何も知らん小娘一人、いくらでもだまくらかせると思っていたら、爆弾持ちだった、みたいな。
その後、私だけが部屋に戻るように促される。お疲れでしょうからおやすみくだいというのは、そういう意味だろう。
議長と名乗った男性が、丁重に私を部屋に送っていってくれた。その途中にやたらと腕を上げていた。彼の袖口から包帯が見える。
「怪我をされたんですか?」
あまりにも露骨過ぎて無視し難く聞くことにした。
「少しばかり血が出てましてな。お嬢さんを驚かせないようにしていたのですが」
「まあ、それは大変。
すぐに良くなりますように」
ちょいと治癒をかけておいた。もう手慣れたものだ。場数を踏むとそれなりに上達するし。
おおっと驚かれたが、大げさすぎて少し笑いそうになった。そのまま足取り軽く帰っていった。
「どうぞ、お気をつけて」
呪いはそのままに傷だけを治したんだから。
なんかそーゆー拷問あったなぁと思ったり。いやいや、私は善意の癒し手。呪いなど知らないし。
そして、戻った部屋で、今度ははっきりと音を聞いたのである。
「わぅ」
ここ、こことアピールする子犬。かわいい。
いや、そうではなく、その場所に行くとたしかに音がした。触れると音声が聞こえた。
『魔力が不足しています』
機械的音声に聞き覚えがある。システムオペレーション、あるいはナレーターである。言われるままに魔力を指先に集中と考えたら、光が生まれた。そのまま壁に吸い込まれる。
「なんなの?」
困惑しているうちに空気の流れがあることに気がつく。窓も開けてないのにカーテンが揺れていた。
ちょっとかび臭いような気がしていたのに、それもない。
まさかの空調!?
これは快適と思ったあたりまでは良かった。
この城は主不在の上、現状維持する人も、管理する人も、修繕する人もいなかったのである。
「ちょ、アラームってどこ!?」
保守管理することになってしまった。
何の気なしにお城の廊下を歩いていていても謎のアラームが鳴り響く。うるさくはないが微妙に気になる音量がする。
ああ、それなのに、他の誰も気がついてない。だから言うわけにもいかず、しかし、気になるので深夜に徘徊してはアラームを消して回っている。
ほんと絶妙に嫌な音量だ。わざとに違いない。ほんとおちゃめなんだからと白目をむく。嫌がらせとは、いいたくないが、いいたくないがっ!
この不調のアラームは大体は、城内の結界とか、空気の清浄化及び温度管理、灯りの調整、水の浄化機能など。種類は多岐にわたるがほぼライフラインの保守ばかり。
そう思って安心していると10回に1回くらい本物のトラップがある。そいつは魔法で物理的にものを動かす魔法使い殺しだ。
い、意味がわからんと頭を抱えたが、たぶん、アレだ。魔導の王と同質の魔力を持っているので管理者として誤認されたに違いない。
それ故に、保守管理者として認識され城の整備に追われている。しかし、完全一致ではないために極稀に対魔法使い用の迎撃システムが反応する。
何故に聖女も魔女もここに手を出さなかったのかわかった気がした。こんなとこ安全じゃない。それなら普通の人に取ってきてもらったほうがいい。
最初に教えてくれよと呻きたくなる。
あの人のいた形跡はものすっごいわかった。わからせられた、けど、もっとこう素敵なのがいい。感動とかない。
それでも城を直すのは痕跡をたどるようなものだから。全部直したら、なにかわかるかもしれない。そうでも思ってないとやってらんない。
コントロールルームみたいなところがあるようなんだけど、そこに至る道も壊れちゃってるし……。ああもう!
こんな城中、魔法で管理するシステム構築しなくてもいいじゃないっ! なんなのフェチなの!? そういうやつ!?
「私、修理屋じゃないんですけど!」
付き合う子犬がわふと尻尾を下げた。




