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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十七話 -天才の玩具箱-
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悪役と悪人


 地上へと向かう緊急脱出用のエレベーターに揺られながら、ドクター・ミリは金切り声を上げた。

「ほんっとにむかつく! あーしが逃げるしか出来ないなんてさ!」

 一方、ドクター・オドは怒りのピークは過ぎ去っていたのか。床に座ってノートパソコンを弄りながら、こくこくと頷いていた。

「あのに、二騎は。む、無駄がなくて、冷静で。でもだから、突破にじか、時間が掛かると思う。にげ、逃げてまた作戦、作戦考えよう」

「はあ……これだけやって無事とか、レリクスやっぱ化け物じゃない? あーしのかわいいキメラちゃんも、結局壁役しか出来なかったし」

 二人は溜息を吐き、激情の後に来る沈黙を呑み込む。

「い、良い事を!」

 その沈黙に抗うよう、ドクター・オドが声を上げる。

「良いこと、良い事をかんが、考えよう。ぼ、僕達は。何でも出来るんだ」

 ドクター・オドはパソコンの画面ではなく、ドクター・ミリを見てそう言った。

 ドクター・ミリはぽかんと呆けていたものの、にやりと笑みを浮かべて力強く頷いた。

「オドは時々良いこと言うよね! あーしはね、やっぱコケにされたの許せないじゃん? セシルのクソ男、エイトだっけ? あいつ顔がいいから首だけ残して植木鉢にして、身体はキメラちゃんに使おう!」

「ぼ、僕はす、鈴城の。あの女を、機械でいた、いたぶりたい。頭の良い子がす、好きだから」

 ミリとオドは二人で顔を見合わせ、にへへと笑い合う。

「全部やれるっしょ! あーし達なら全部!」

「や、やろう。全部」

 エレベーターが減速する。地上が近いのだ。

「とりまセクター4まで行って、落ち着いてから作戦会議って感じ?」

「う、うん。書類はい、今送った」

 エレベーターの扉が開く。ドクター・ミリもドクター・オドも外に出ようとするが、エレベーターに差し込んだ人影を見て身体を強張らせる。

 影の主は、それこそゴミでも見るような目付きで二人のドクターを睥睨していた。

「あんた、黒崎(くろさき)芽依(めい)!」

「フェイスの……!」

 ミリとオドはその少女の顔を見て、すぐにその正体に気付いたが。小首を傾げた芽依は、エレベーターに押し入るようにして侵入、何も言わずにミリの鼻っ柱を殴り付けてへし折った。

「ぎ……!」

 鼻を押さえ蹲ろうとするミリだったが、それよりも速く芽依は右手を伸ばし、ミリの首を掴んで絞め上げる。

「あ、ああ……!」

 腰を抜かしたオドを、芽依は見ようともしなかった。ただ顔面を蹴り上げ、床に倒れ込んだオドの首に足を宛がい、踏み付けるようにして絞める。

「運動」

 芽依が呟く。鼻血を垂れ流したままのミリが、じたばたと藻掻く。

「苦手みたいだな。ドクターだからって座って研究ばっかしてるからこうなる」

 芽依はそう言っているものの、興味なさげな様子は変わらない。何も言わない、否……言えないミリを見て、ああと呟いて右手の力を抜く。

「ぐ、が、お前、この、クソ」

 文字列に意味がないと悟った芽依は、再度右手に力を入れる。ミリの首は更に絞め上げられ、ごぼごぼと声は音になった。

「そうだ、これ」

 芽依は思い出したかのように左手で白いカードを取り出し、それを床に放る。カードは発光し、ドクター・フェイスのホログラムがそこに形成された。

『やあ二人とも、って何やってるの?』

 フェイスは首を傾げ、芽依も首を傾げる。

「無力化して殺すんじゃないの?」

『違う違う! 君の倫理観はどうなってるんだい。殺すだなんて物騒じゃないか』

「本気で言ってるのか?」

『当然だよ。人は死ぬと元には戻らないんだぜ?』

 芽依は呆れたように首を横に振ると、ミリを壁へ突き放すようにして解放し、オドから足を退けた。

 ミリは壁にぶつかり倒れる。自らの首に手を宛がいながら、蹲って咳を繰り返していた。オドはそんなミリの傍に這っていき、壁に背を付けて肩で息をしている。

『さて、ドクター・ミリにドクター・オド。君達なら、何かあればこの脱出ルートを使うと思ってたよ。だから待ち伏せてたんだ。まあ、こんなやり方になっちゃったけど、君達と取引がしたいんだ。多少強引だけど、普通に連絡したって君達は答えてくれないだろ?』

 ミリとオドは黙ったまま、フェイスのホログラムを睨み付けた。

『僕はレリクトによる進化を研究している。邪魔をしないで欲しいんだ。ここにいる黒崎芽依と、進化の体現者である片羽唯の対決を。僕はとても楽しみにしてる。君達のやり口は少しばっかり余計でね。ちょっと大人しくしてくれないかな?』

 両手をぱんと合わせ、笑顔のままドクター・フェイスは言う。しかし、肝心のミリとオドの表情は暗く、ミリに至っては敵意を剥き出しにしている。

「はいそうですかって……あーしが言うと思ってんの? あんたが楽しみにしてるんなら、全部あーしがぶち壊してやるよ」

『じゃあ交換条件とかはどうだい? 何か欲しいものとかある?』

「あんたの命だよ、フェイス」

 ミリはにやと笑い、そう吐き捨てる。しかし、フェイスは笑顔のまま首を傾げる。

『それは僕の持ち得る中で、一番価値がない物だね。ほんとにそんなものが欲しいの? 冗談なら笑える。君は昔から、ユーモアのセンスだけはあるからね』

 フェイスが本心からそう言っているのか、焚き付けているのか分からない。しかし、結果としてミリは歯を食いしばりながら目をぎらつかせている。

 そんなやり取りを脇で見ていた芽依が、深く息を吐く。

「フェイス、お前の交渉は見てられない。俺が、いや私か。私が手本を見せてやる」

 そう芽依は宣言し、ミリを一瞥しながら前を通りすぎる。

「え……え?」

 芽依はオドの前に立ち、彼が手を伸ばそうとしていたノートパソコンを容赦なく踏み抜いた。芽依はウインクをすると、呆然とするオドの髪を掴んで持ち上げた。

「ああッ! やめ、止めて!」

 激痛にもがくオドの顔を、芽依はゆっくりと覗き込む。

「パソコン坊や。利き腕はどっち?」

「み、右! 右で、です!」

 オドの解答と同時に、芽依は髪を掴んでいた手を離す。オドの身体は一瞬だけ自由になったものの、芽依は即座にオドの左腕を掴み、流れるような動作でそれをへし折った。

「あッ! ああ!」

 何が起きたのか理解出来ず、オドは叫んだまま硬直する。見開かれた目が、あり得ない方向に曲がっている左腕を見た瞬間、オドは絶叫した。

 そんなオドが自身の左腕に右手を宛がおうとした瞬間、芽依はその右腕をも掴んで当然のように折った。

「ああああッ!」

 オドはその場にしゃがみ込み、ぶら下がる両腕の痛みに耐えきれず叫ぶ。

「止めろよ黒崎芽依! 何してんだこのクソ女!」

 ミリが怒鳴り立ち上がろうとするも、芽依が一瞥しただけでその動きは止まってしまった。

「あ……」

 オドの声が途切れる。芽依が顔面を蹴り抜いたからだ。

 血と涙と涎を床に垂らしながら、オドは顔を伏せている。押し殺そうとしている嗚咽が、唸り声と共に空間に染み渡っていく。

「ねえパソコン坊や。私の、戦いを、邪魔するな。分かったら指切りして。頭良いんだから知ってるよな?」

 芽依がしゃがみ込み、オドに向かって右手の小指を突き出す。オドは顔を上げ、その小指を見るも。ぼろぼろと涙を流すのみだった。

 溜息を吐き、芽依は左手の拳でオドの顔面を殴り付ける。

「ち、違う! 違う、違うやめ、やめて! 腕、腕動かない、動かないじゃないか!」

 倒れたオドは藻掻き、必死に訴える。しかし、芽依は眉をひそめて右手の小指を突き出す。

「何言ってんだお前?」

 そして、心底不愉快といった表情のまま続ける。

「腕が動かないから指切りげんまん出来ませんなんて。私に通用すると思ってんのか?」

 オドは泣きじゃくり、首をぶんぶんと振っていた。芽依は舌打ちを返し、足下に転がっていたノートパソコンの残骸を、拾い上げる。

 それをオドに向かって振り上げた瞬間、ドクター・ミリが間に割って入った。

 ミリは芽依を睨みながら、右手の小指を突き出す。

 芽依は残骸をミリの顔へと投げ捨てる。拉げたパソコンが顔を裂くも、ミリは右手の小指を下げなかった。それを見届け、芽依はミリの小指と自身の小指を絡ませる。

「約束する……あーし達は、あんたの戦いを邪魔しない」

「うん、約束。破ったら殺す」

 絡んだ小指を離し、芽依はフェイスのホログラムを見る。

「これで解決。満足した?」

 芽依は得意げに言うも、フェイスは滅多に見せない表情をしていた。いつもの張り付いた笑みではなく、悲しげな、悲痛な表情だ。

『結果だけならね。でもこんなやり方は間違ってるよ。これは交渉ではなく脅迫だ』

「本気で言ってるのか?」

『当然だよ。暴力で人を従わせるなんて。僕は好きじゃないな』

「ほざいてろ狂人」

 そう吐き捨て、芽依はカードを踏み潰す。フェイスのホログラムは乱れ、捻れるように消えていった。

 仕事を終えた芽依は、溜息を吐いてエレベーターから出て行こうとする。

「あんた……黒崎芽依」

 名前を呼ばれ、芽依は振り返る。泣きじゃくるドクター・オドを抱き留めたドクター・ミリが、顔いっぱいに血と憎悪を剥き出しにしながら睨み付けていた。

「憶えたからな。あんたの戦いは邪魔しない。でも、それが終わったら。あーし達二人が、あんたの死体で楽しんでやる」

 そんなミリの言葉を、芽依は鼻で嗤った。

「やってみせろよ、ピンク頭」

 そう吐き捨て、芽依は中指を立ててからその場を立ち去った。








 次回予告


 ドクター・フェイスは情報提供という形でレリクスを動かし、結果としてドクター・ミリとドクター・オドに接触、交渉する事に成功した。

 全ては片羽唯と黒崎芽依の対決、これを完璧な状態で観測する為……ドクター・フェイスは暗躍を続ける。

 そんなフェイスに先手を打つべく、エイトとゼロ、そして緑と光は動く。

 しかしそんな二騎を退けるべく、鴉はその腕を振り上げる。


「《クロウ》の時は負け越しだったな。やられた分はやり返してやるよ」


 ブランクアームズ第二十八話

 -揃いつつある盤上-

 お楽しみに!

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