役割
スピーカーはもう何も言い返してこない。その先でがなり立てていたドクター・ミリとドクター・オドは、もう逃げ出しているという事だ。
敵は二体の《アウター》アロガント、《アウター》を組み込み、機械制御されたアロガントだ。エイトとゼロの《ブレイクドロウ》は、その脇をすり抜けてドクター二人を確保しようと試みる。
緑と光の《シールディア》はその意図を察してか、三基のサテライトシールドと共に前衛に出ていた。相手がアロガントであれば、二体であっても抑え込む事は不可能ではない。
しかし、予想に反して《アウター》アロガントは後退、ドクターの居場所に続いているであろうゲートを防衛した。
ならばと、《ブレイクドロウ》は詰め寄って跳び蹴りを放つ。ジェット噴射を伴った重い一撃はしかし、呆気なく防がれてしまった。
「存外に、やるな」
《ブレイクドロウ》は飛び退き、お返しとばかりに振るわれた拳を避ける。
「上方修正して撃破します!」
《シールディア》がストライクソードを構えて突撃する。三基のサテライトシールドがストライクソードの片刃に装着され、巨大なレリクトの刃を形成した。
小手先の技術は必要ない。《シールディア》は巨大なレリクトブレードを上段に構え、それを思い切り振り下ろした。《アウター》アロガントは両腕を交差させてその刃を受ける。
強引に断ち切ろうと力を込めるも、《アウター》アロガントの両腕は突如として爆発した。爆圧に押しやられる形で、《シールディア》は刃を引いてしまう。
「な……はい?」
緑は、《シールディア》は目の前の光景が理解出来ずに呆然とするしかない。腕が爆発した《アウター》アロガントは、新たな腕を形成しようとしていた。そこまではいい。だが、爆発した腕からは、何本もの機械の腕が突き出ていた。アロガントの元あった腕を突き破るようにして、機械の腕ががちゃがちゃと蠢いている。
新しく生え揃った腕と合わせ、四本腕となった《アウター》アロガントが四肢を広げるようにして構える。
「気持ち悪い……」
率直な感想を口に出しながらも、《シールディア》は再度詰め寄って巨大なレリクトの刃を叩き込む。
《アウター》レリクスの腕が切断され、機械の腕もそこかしこに散らばる。しかし残る腕と機械の腕は、生物とは思えない動きでストライクソードを絡め取ろうと動き回っていた。サテライトシールドのレリクト残量の低下も相俟って、《シールディア》は飛び退くように後退する。
《アウター》アロガントは動かない。切断された腕、その箇所に二叉の腕が生え揃い、機械の腕は内部から肉を引き裂いて何かを掴もうと空に手を伸ばす。腕塗れのおぞましい姿となって尚、《アウター》アロガントはゲートの防衛に徹していた。
《ブレイクドロウ》の方も似たような有様だ。何度も蹴りの応酬を受け、《アウター》アロガントは膝を付いてはいたが。一本また一本と腕が生え、ゲートを守るように四本以上の四肢を広げていた。
「選択を誤った。俺のミスか」
「いえ……私も呑まれました」
《ブレイクドロウ》と《シールディア》は短く会話を交わし、現状を把握する。
『Turn,rise』
《ブレイクドロウ》は左義手のボルトハンドルを引き絞り、それを叩き戻す。
『......《Armordraw》Relics』
《ブレイクドロウ》は《アーマードロウ》へと姿を変え、左義手のボルトハンドルをスライドする。
《シールディア》は充填の済んだサテライトシールドを解き放ち、しゃがみ込んでから右足の脛にあるチャージングハンドルをスライドする。
《アーマードロウ》は左義手を後方に引き、左手を目一杯に開く。左義手が小刻みに震え、そこに込められた破壊の奔流を一点に集約する。
《シールディア》は三基のサテライトシールドを合体させ、一基の巨大な光輪を作り出す。頭上で高速回転するそれに右手を添え、右義足から伝わってくるレリクトの奔流を直接充填する。
《アーマードロウ》が先に動く。重装を物ともしない速度で踏み込み、地面を砕きながら《アウター》アロガントの目前に滑り込んだ。
《シールディア》が巨大な光輪を投擲したのと、《アーマードロウ》が掌底を叩き込むのは同時だった。掌と光輪はそれぞれ眼前にいる《アウター》アロガントを穿ち、再生も抵抗すらさせないままに葬る。
『devastate』
レリクトが炸裂する。《アウター》アロガントもその背後にあったゲートも、一切合切が吹き飛んでいく。
爆発が過ぎ去り、後に残るのは二騎のレリクスのみ。
「逃げる時間を稼ぐだけならば、そもそも戦闘能力は皆無でも構わない。行動ルーチンを防衛のみに傾け、ひたすら再生能力と自己増殖で凌ぐ。俺なら見抜けた筈だ」
エイトが、《アーマードロウ》が掌底を引きながら悔しげに言う。
「初手でこれが出来ていれば、間に合ったかも知れませんが。本当に、侮るべきではない相手ですね」
緑が、《シールディア》がサテライトシールドを膝に戻しながらそう返す。
これがドクター・ミリとドクター・オドの狙いだったかどうかは知る由もない。だが雰囲気の呑まれ、初手で最大出力解放を撃たなかったのは事実だ。
「唯なら撃っていたかも知れんな」
「……ですね」
二騎は手遅れと分かっていてもゲートの先、最奥の目的地へと急ぐ。
当然、そこには誰もいない。あらゆる記録やメモが破棄されている中で、殴り書きされた罵詈雑言だけが唯一残されていた。




