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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十七話 -天才の玩具箱-
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玩具箱の隅


 アロガントの群れに賑やかしのトラップ、爆弾を腹に抱えた機械の兵士……悪趣味極まった地獄の玩具箱で、二騎のレリクスは前進を続ける。

 エイトとゼロの《アーマードロウ》レリクスが、騎槍を振り回してアロガントを吹き飛ばす。その背に隠れるようにして、緑と光の《シールディア》レリクスが充填の終わったサテライトシールドを射出する。

 三基のサテライトシールドはそれぞれ光輪と化し、背後から迫る機械の兵士、《アウター》レリクスを正確に撃ち抜く。《アウター》の胴体に組み込まれた透明なシリンダーが揺らめき、空間を揺さ振る爆発を引き起こす。《アウター》の自爆は連鎖的に続き、後方の通用路を崩壊させた。

 振動は断続的に続く。いくらプラトーの施設といえども、内部で大規模なレリクト爆発が続けば保たないのは当然だ。

『てかマジで! レリクスって頑丈なんだねー。一騎ぐらい、それこそ眼鏡ちゃんとか運動苦手そうだし? 巻き込まれて死ぬかなって見てたんだけどさ。生きてるし! ウケる!』

『ミリ、あ、《アウター》のそう、総数。そろそろ遊び、遊べなくなる、かも』

 ドクター・ミリはこちらをモニターしているのか、適宜生きているスピーカーから話し掛けてきている。時折ドクター・オドの声も入っており、二人が近くにいるだろう事を示していた。

 邪魔者を蹴散らした《アーマードロウ》と《シールディア》は、施設の奥へと走り出す。ドクター・ミリとドクター・オドは、まだこの施設に残っている。

 壁面や天井が開き、ボールベアリング弾をそこかしこにぶちまけていく。《アーマードロウ》はそもそも気にも留めず、《シールディア》は増速し回避する。

「実際、侮れないな」

 エイトは、《アーマードロウ》はそう呟く。

「コストの面で考えれば愚策ですが、事実私達は抑え込まれています。増産可能なユニットでの波状攻撃。厄介ですね」

 エイトの思考を汲み取り緑は、《シールディア》はそう返す。

 プラトーの施設全体をレリクトで汚染し、アロガントを大量に作り出す。防衛設備としてトラップを要所に仕掛け、大量生産が容易な《アウター》レリクスを自爆機として運用する。局地的ではあるものの、レリクスという戦力を凌いでいるのは確かだった。

 あまりにも非人道的な手段を前に、エイトも緑も怒りを感じている。それはそれとして、目の前の状況を冷静に精査してもいる。二人の強み、或いは特性の為せる技だ。

『そろそろ打ち止めって奴? じゃあ派手にいかないとね!』

 エイトと緑、《アーマードロウ》と《シールディア》が息を呑む。

 正面にわらわらと、爆弾付きの《アウター》レリクスが集結し始めたからだ。

 二騎のレリクスは立ち止まり、互いに顔を見合わせる。

「言葉とは裏腹に地味な嫌がらせだな。進路を物理的に塞ぐつもりだ」

「ですね。サテライトシールドはいつでもいけます」

 正面から愚直に自爆機をぶつけても、レリクスには勝てない。むしろ迎撃させ、爆発によって通路を崩落させようとしているのだろう。

 見え透いた手だが故に厄介、しかし見え透いている以上二人には効かない。

 《アーマードロウ》は騎槍を片手で握り直し、それを《アウター》目掛けて投擲した。

 そして投擲した瞬間、《アーマードロウ》は左義手のボルトハンドルを二段階引き絞り、それを叩き戻す。

Turn(ターン),rise(ライズ)

 《アーマードロウ》の白い重装、そこに刻まれた黄金のラインが浮かび上がる。重装は弾け飛ぶようにして周囲を打ち据え、黄金のラインが白の軽装に刻まれていく。

『......《Breakdraw(ブレイクドロウ)Relics(レリクス)

 《アーマードロウ》が《ブレイクドロウ》へと姿を変えた時、同時に《シールディア》は三基のサテライトシールドと共に前方に跳躍していた。

 そして、最初に投擲された騎槍が《アウター》の胴に突き刺さる。

「行くぞ」

「はい!」

 レリクトが集約する。一方は《アウター》、その胴に込められた爆発物が、全てを打ち砕かんと(いなな)く為の一呼吸だ。

 もう一方は《ブレイクドロウ》、四肢に刻まれた裂傷から、黄金の光が漏れ出す。

 爆発とほぼ同時、いやそれよりも僅かに速く。《ブレイクドロウ》は四肢のジェット噴射を用いて前方に突っ込んだ。

 黄金の閃光が瞬き、次いで爆発が連鎖する。先行して跳躍した《シールディア》を左義手で掻っ攫いながら、《ブレイクドロウ》は《アウター》の群れを、爆発の間をすり抜けていく。

 それは一瞬の攻防に過ぎない。端から見る者がいれば、《ブレイクドロウ》がただ直進し、通り抜けたようにしか見えないだろう。爆発の衝撃波を避け、それも不可能なら受け流し、それでも足りないならを《シールディア》のサテライトシールドで防ぐ。

 《アウター》の群れを抜け、二騎は離れる。《ブレイクドロウ》は地面を滑りながら減速し、《シールディア》はその横に舞い降りる。その膝に三基のサテライトシールドが帰還し、二騎の背後で一際大きな爆発が生じた。

 《ブレイクドロウ》と《シールディア》は背後を一瞥する。《アウター》達の爆発により、道は瓦礫で塞がれていた。

『……はあ、あれ抜けちゃうんだ。思っていたよりやるじゃん』

『一時、的に。光の速度、で、出てる。おも、面白いよ』

 ドクター・ミリとドクター・オドの声色が僅かに陰る。

 エイトとゼロの《ブレイクドロウ》と、緑と光の《シールディア》は警戒しながらも前進を続ける。廃墟さながらに崩れかけた通用路を抜け、不意に視界が開けた。

 それなりに広い場所だ。机に椅子、自販機だっただろう残骸に折れた観葉植物……休憩用のスペースだろうか。

「思っていたよりやる、か。同感だな。ドクター・セシルやドクター・フェイス程ではないが、天才という肩書きに偽りはないらしい」

「ちょっとあんた!」

 エイトが、《ブレイクドロウ》が何の気もなしに呟き、ゼロが慌てた様子で制止する。

『……はあ』

『……ふへ』

 しっかり聞こえていたのだろう。ドクター・ミリとドクター・オドの声色が、明確に暗闇を帯びる。

 空気の違いとゼロの発言を受け、エイトはふむと頷く。

「どうした? 事実を言ったまでだ。気にしなくていいし礼も不要だ。俺は敵であろうと褒める時は褒める」

「はあ……あたし知らない。緑に任せる」

 ゼロはそれだけ言い、我関せずといった様子で黙ってしまった。

 緑は、《シールディア》は唖然とした後に短く笑う。

「……これがドクター・ディエゴだったら、半分の消費で私達を抑えてたかも知れませんね!」

「違いない」

「緑(ねえ)? 何で一緒になって煽ったの!」

 やけくそ気味に緑はそう叫び、エイトはこくこくと頷く。光は素っ頓狂な声を上げるものの、スピーカーはそれ以上に素っ頓狂な……ヒステリックな笑い声を発した。

 ドクター・ミリの、狂ったような笑い声だ。

『セシルの置き土産に鈴城(すずしろ)(たくみ)のダッチワイフがッ! あーしを馬鹿に出来ると思うなよ!』

 隔壁が開き、肉塊が蠢く。

 二体の肉塊が、よろよろと這い出てきた。

 明らかに敵意を剥き出しにする肉塊を見据えながら緑は、《シールディア》はちらと《ブレイクドロウ》を見る。

「……エイトさん、ダッチワイフって何ですか?」

 緑は小声で問う。

「疑似的な性行為を目的とした等身大の人形だ」

「はい?」

「男が自分のナニを満足させる為に使う人形だよ」

「えっと?」

 エイトとゼロの返答を受け数秒、ようやく文字列が意味を内包したのだろう。緑は、《シールディア》は溜息を吐く。

「凄い悪口言われてる……。父さんそんな人じゃないもん」

「気にしなくていいよ。ビッチの頭の中には、下品な言葉しか詰まってないからね」

 落ち込む緑に対し、ゼロが珍しく慰めるように言葉を掛ける。

『《アウター》レリクスとアロガントの合成怪獣、《アウター》アロガント! 機械制御出来る怪物ってわけ! せいぜいそいつと遊んでなよ! あーし達はその間に逃げちゃうけどね!』

 肉塊が、《アウター》アロガントが立ち上がる。基本は首のない化け物、アロガントと共通の体躯だが、胴体にある筈の口腔はない。代わりに、《アウター》だった物の名残が見て取れる。

「アロガントの機械制御か。ドクター・フェイスの二番煎じとはいえ、なかなかにやる」

『お前ほんとに絶対いつかぶっ殺すからなッ!』

 ミリが叫び、スピーカーの向こうでばたばたと騒音が響く。

 エイトは、《ブレイクドロウ》は溜息を漏らす。

「情緒不安定な奴だ。だが」

 《ブレイクドロウ》は拳を構える。

「逃がすつもりはない。いつかではなく今。お前達は仕留める」

 戦意を込め、エイトはそう宣言した。

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