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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十七話 -天才の玩具箱-
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地獄の入り口


 業務用エレベーターが下っていく。プラトーの用いる搬入口の一つだが、そこに積載されているのはコンテナや物資ではなかった。

 左腕のない金髪の青年、エイトはふむと呟きながらエレベーター内を歩き回っている。

「直近で使用された跡がある。その割には警備が手薄だったが」

 金髪の少女、ゼロは早々に床へ座り込んでおり、大型犬よろしく嗅ぎ回っているパートナーをじろと一瞥した。

「はいはい、どうせ罠でしょ? これ、ドクター・フェイスから持ち込まれた案件だって聞いた。あたし気が乗らない」

「いつも通り頑張ると解釈させて貰う」

「はあ?」

 そんな金色コンビのやり取りを横目に、車椅子に座っている鈴城(すずしろ)(みどり)は眼鏡を外してレンズを拭う。

「緑(ねえ)はどう思う?」

 車椅子の後ろからひょこりと顔を出した狗月(いぬつき)(ひかる)が、そう問い掛ける。

「罠、或いは陽動や囮。それは確かだと思う。無視出来ない情報を与えて動くようにけしかけて、自分のやりたいように場を調整する。ドクター・フェイスの常套手段だよね」

 そんな緑の返答に、ゼロがぴっと指を差す。

「あたしが言いたいのはそういうこと。嫌なら無視すればいいの。頭良い奴って、あれこれ考えて結局最悪な道を選ぶ」

「それはすまないな」

「エイトには言ってないよ。あんたバカだから」

 濃度高めの毒をぶつけられながらも、緑は苦笑し眼鏡を掛け直す。

「プラトーの施設、それもドクター・ミリとドクター・オドの潜伏先という情報。ゼロさんの言う事も分かりますが、無視出来る情報じゃないです」

「呼び捨てでいいよ、緑。そっちのチビにも言ってるけど、下手に‘ちゃん’とか‘さん’とか付けられるとむかつく」

「上手な‘ちゃん’や‘さん’の付け方が存在するのか?」

「うるさいバカ」

 緑と光は顔を見合わせて苦笑するも、説明義務を感じたのか緑は咳払いをした。

「この二人のドクターは、あまりに危険過ぎます。プラトーは非人道的な手段を平気で選びますが、意味のない虐殺や破壊はしません。する必要がない事はしない。でも、ドクター・ミリとドクター・オドは違う」

「俺達じゃなく一般人を殺そうとしたり、ミサイルを撃ったり。鉄槌なんていう破壊兵器も使った。訳が分からないよ」

 緑の説明に、光も所感を添える。

 黙って聞いていたエイトも、小さく頷いて口を開く。

「同感だな。そもそも、俺達に選択肢はない。プラトーは巨大な組織であり、ドクター・フェイスはそんなプラトーすら手を焼く天才だ。対して、俺達はたった三騎のレリクスであり、天才でもない。だが、足りない要素を並べていても仕方がない。利点は活かすべきだ」

「利点? あんたの顔? 黙ってればそれなりだもんねあんたは」

「君は発言の有無に関わらず綺麗だが」

「はあ?」

 ドスの利いた声で早速牽制し出したゼロを制するように、エイトは言葉を続ける。

「俺の言う利点とは容姿ではない」

 そう言うと、エイトは緑をちらと見る。緑は頷いて肯定を返す。

「レリクスであるという点と、フットワークです。現行戦備でレリクスに勝つのは困難です。つまり、私達を止める事は事実上不可能となります」

「加えて、人数が少ないが故に速い。罠を承知で飛び込み、提示された以上の情報を勝ち取る。可能なら二人のドクター、ミリとオドを確保し凶行を止めさせる。俺に異論はない。これが最善だろう」

 緑やエイトの説明を受けても尚、ゼロは気乗りしないといった様子で床に寝転んだ。

「背中汚れるよ、ゼロ」

 控え目に光が声を掛ける。ゼロは鼻で笑い、光をじろと見る。

「あんたは頭良くないから、あたしの言ってる事も分かるんじゃない?」

「まあ……否定は出来ないかな」

 光の苦笑顔を見て溜飲が下がったのか、ゼロは寝転がりながら続ける。

「これはあたしの勘だけど」

 ゼロの目が、エレベーターの天板に向けられる。無機質な、白い天井だ。

「ドクター・ミリとドクター・オドを、あんまり軽視しない方がいいよ。腐ってもドクターだからね。むしろ、腐ってるから何をしでかすか分かんない。昔、ゴミ溜めで似たような子を相手したから分かる」

 単なる我が儘とは違う声色と様子に、緑と光は黙るしかない。

 しかし、エイトは寝転がるゼロに近付くとその顔を覗き込んだ。

「問題ない。今は俺がいる」

 笑顔の一つも浮かべずに、ただ事実だけを述べるようにエイトはそう言った。

「……あっそ」

 ゼロはそれだけ答え、そっぽを向いてしまった。

 そんな二人の様子を見ながら、緑と光は顔を近付けて小声で話す。

「やばいね光。あれ、もう立ち居振る舞いが王子様だよ……!」

「うんうん……! 自然とやるんだから凄いよエイト(にい)……!」

 きゃっきゃと騒いでいた二人だったが、どちらからともなく気を引き締めた。エレベーターが減速を始めたのだ。

 エイトはゲートの方を見据え、ゼロも立ち上がった。

 そして指定された階層に、プラトーの施設へと辿り着いたエレベーターは地獄への扉を開いた。

 エイトは目を細め、ゼロは舌打ちをする。緑の顔は強ばり、光が歯を食いしばる。

 目の前に広がるスペースは、物資の搬入口だけあって広かった。

 食い散らかされた物資に機材、何らかの肉片……広い空間のそこかしこで、アロガント達は食事をしている。

「事故、ではないですよね」

 緑の、絞り出したような問いが響く。

「プラトーはそこまで柔ではない」

 エイトがいつも通り……否、僅かに怒気を孕ませてそう答えた。

 緑が息を吐き、眼鏡の奥の目が戦意を帯びる。

「ドクター・ミリとドクター・オドを確保し、ツケを払わせます」

「異論はない」

 緑はレッグドネイターを、エイトはアームドレイターを構える。

 新たな食事の登場を、アロガント達は大口を開けて歓迎した。

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