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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十七話 -天才の玩具箱-
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渦中の進言


 ひとまず、危機は乗り越えたと言えるだろう。鉄槌の破壊に《クロウレイジ》との交戦、危険と危険の板挟みから、とりあえず生存する事は出来た。

「聞くだけ聞いてみるけど」

 そう、片羽(かたは)(ゆい)は切り出した。唯は銀色少女、リンの作業机を覗き込み、二の腕が拉げたアームドレイターを見据える。

「それ、直りそう?」

 壊れたアームドレイターをスパゲッティよろしく配線塗れにし、モニターと睨めっこしてはキーボードを叩いていたリンだが、小さな肩を大仰に竦めて見せた。

「直すのは確定事項だから、そう心配する事はないわ。すぐに直るのかと聞かれたら、答えはノーだけど」

「あー、やっぱり?」

 唯は不満げに顔をしかめるが、リンは手を止めずに言葉を続ける。

「まあマシな方よ。これが左腕だったらどうにも出来なかったから」

 唯は自身の左腕を、左義手に目を落とす。肘から先は機械の腕が装着されているが、生身と変わらずに動かす事が出来る。詳しい事は未だに理解出来ていないが、エルの遺してくれた力、或いは手段だ。戦い、そして生きる為の。

「今後も損傷を覚悟する場合は、積極的に右腕で受けていきたいわね。まあ、今回のは私がやった事だから、貴方に非はないわ」

「リンにも非はないだろ。こうするしかなかった」

 《クロウレイジ》と交戦し、結果として敗北した。死を免れる為に、アームドレイターに装填されたレリクトを起爆したのだ。リンが判断し行ったという認識に違いはないが、それをしなければ死んでいた。

「結果論ね。でも、あの大きな腕がバレルフェイザーだと見抜けていたら、もっと出力を絞って突破出来た」

 唯は溜息を吐き、慣れてきたとはいえ眉をひそめる。

「結果は大事じゃない? それに、終わった事を悔やんでもしょうがないし。というか、あれバレルフェイザーなの?」

 唯は思い付くままに喋っていたが、リンには思う事があったのだろう。修理の手を止め、唯の目を見た。

「……なにさ?」

「別に。終わった事を悔やんでもしょうがない、ね。私もそう思うわ」

 唯は首を傾げるしかない。何となく含みのある言葉であり、唯はその真意を汲み取ろうとリンの目を覗き込む。

「ドクター・フェイスに資料を要求したの。《クロウレイジ》についてのあれやこれを、作った本人に聞くのが一番手っ取り早いでしょ」

 リンは視線を切り、再びアームドレイターの修理を始めた。

「教えてくれるとは思えないけどなあ」

 言わば敵同士だ。はいどうぞと事が運ぶとは思えない。

「送られてきた資料を確認したけど、殆ど分からなかった」

 唯はがくりと肩を落とす。やはり、フェイスの考えている事はよく分からない。

「何で教えてくれるのさ。というか、分からないって?」

 唯の問いを受け、リンはふくれっ面になる。

「言葉通りよ。私には解読出来ない。ドクターは元々、まとめるっていう事をしない人だから。彼が資料と言い張る物の殆どは、雑多な情報の羅列でしかないの」

「その情報の羅列を、わざと送ってきたって事?」

「いいえ。ドクターからすれば、分かって当然って思ってるんじゃないかしら。ドクターらしいでしょ?」

 リンは苦笑を浮かべる。その表情はどこか柔らかく、故に酷く物悲しかった。

 咳払いをし、リンは苦笑と感情を掻き消す。

「でも、断片的にだけど分かった事もある。あの背中から生えている大きな腕、あれはクロニクルハンド。《アーマード》の槍、《アールディア》の大剣、それらと同じバレルフェイザーよ」

「《クロウレイジ》の武器があの腕? バレルフェイザーって何でもありなの?」

「レリクスが自身のシステム上で形成するレリクト兵装。それがバレルフェイザーのざっくりとした定義よ。武器の形をしていた方が、より効果的な筈なんだけど。あの腕はかなり厄介だったわね」

 分かったような分からないような。唯は顔をしかめて思案を重ねるものの、そういうものだと無理矢理納得するしかない。

「なら、《ブランデッド》の特殊能力が効かなかった件は?」

「解読不能、或いは記載すらされていない。本人に直接聞いてみるしかないわね」

 解読出来ないのならともかく、記載すらされていないというのは。資料としてどうなのだろうか。

「こっちから連絡するのは、何か嫌だけどね」

 唯は本心を零すも、リンはくすりと笑う。

「まあそうね。関わらない方が良いのは確かよ。関われば関わるだけ、向こうのペースに引き込まれる」

 違いない、と唯も笑みを浮かべる。しかし、その笑みはすぐにしかめっ面へと変わる。

 リンが深い溜息を吐き、唇に手を当て思考を巡らす。

 リンのモニターには、ドクター・フェイスの名前が表示されている。

 渦中の人からの着信を前に、二人はタイミングが良いとはいえげんなりとした。

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