アウトブレイク
二人のドクターは壁を背にして座り込んでいた。喧噪をバックコーラスにしながら、二人して白い天井を眺めている。
「ふ、復旧状況。よくな、よくないみたい」
細身の少年、ドクター・オドがそう呟く。
「あーし知らないー。てか施設の一つや二つどうでもよくてさー」
ピンク髪の女性、ドクター・ミリが興味なさげに答える。
「鉄槌じゃん? あれなくなったのが一番堪えるじゃん?」
「うん……どうせならも、もっといっぱい、撃っとけば良かった」
ミリとオドは二人して溜息を吐き、ずるずるとやる気なさげに姿勢を変え、床に寝転んだ。
「てか無理じゃん? 真っ向勝負でフェイスやレリクスとやり合えって無理ゲーじゃん?」
「鉄槌はそ、損失。他の、ほ、他の破壊兵器、兵器類も。フェイスのせい、で動かせない」
現状の把握と理解……二人のドクターはそれらを済ませ、沈黙を重ねる。
「あーし達さ。もうちょっと人の気持ちを考えて行動した方が良くない?」
沈黙を破ったのはミリだ。オドに問う目を向けている。
オドはミリの視線を受け、唸りながら思案を続けた。
「……それぞ、それぞれの行動パ、パターンを構築して、一人ずつや、やる?」
にんまりと笑みを浮かべ、ミリは力強く頷く。
「フェイスは進化がどうとか言ってそれの研究に夢中、三騎のレリクスはプラトーを倒したがってるけどフェイスとは敵対してる。じゃあ次はどうなんのって話じゃん?」
「ぼ、僕達はそもそも、そんなに嫌われるような事、してないし。勝手につぶ、潰しあってくれるかな?」
ミリとオドは互いに顔を見合わせ、にへへと短く笑い合う。
二人同時に上体を起こし、ミリは立ち上がりオドはノートパソコンを開く。
「まあチャンスがあったらぶっ殺されるかもだけど、そうならないよう準備しておけばいいだけだし?」
「この施設、ぼうえ、防衛じゃなくて、迎撃に使っちゃっていいよね? 欲しいドクターと実験体、ミリは何かある?」
「あー。ここは別に思い入れないかなー。全部使っちゃっていいよー」
ミリの返答にオドはこくこくと頷き、口元を緩めながらキーボードをリズミカルに叩く。
ミリは携帯端末を操作すると、にんまり笑みを浮かべる。
「時間は掛かっちゃうかもだけど、最終的にフェイスが死んでいればそれでオッケーじゃん? 時間を掛ければ何とかなるんなら、時間を稼げばいいだけ。ねー?」
「だね。い、いつでも出来るよ。フェイスにシステムをめ、滅茶苦茶にされたから。簡単に侵入出来た」
ミリとオドは視線を絡め、どちらからともなくにへへと笑う。
「善は急げって奴っしょ! やっちゃおやっちゃお!」
「じゃ、じゃあ実行。ポチっと」
ミリとオド、二人がいる部屋の扉がロックされる。
外は相変わらず復旧に向けて喧噪が鳴り響いていたが。
それらはすぐ、悲鳴と慟哭に変わることになるだろう。
ミリは手元の携帯端末に視線を落とし、オドはノートパソコンのウインドウを見据える。二人の目の前に映し出されているのは、この部屋の外……施設のあらゆる場所に備わっているカメラの映像だ。
ドクターに作業員、警備員、そして実験体……雑多な人々が忙しなく職務や趣味や余生を全うしている中、それは突如として起こった。
一人が胸を押さえ、もう一人が頭を抱える。何かに気付いたドクターが壁に駆け寄り、防護服を手に取った所で嘔吐し倒れ込む。
「作っといて良かったっしょ? 無色無臭のレリクト」
「元素としてのせい、性質はだうん、ダウングレードするけど。濃度や散布量でカバー出来る」
ミリとオドは、モニターの向こうで起きている惨状を眺めながら話し合う。
「強化や進化、まあそれも大事ですけど? こういう事にも使えるってのは、忘れちゃいけないよねー」
扉を、窓を叩く音が響く。ミリとオドのいる部屋、その外にいるドクターが、文字通り血眼になって扉や窓を叩いていた。
「ウケる、殆どホラーじゃん」
「ぷ……ふふ」
ミリとオドが笑い合う中、ドクターは床に蹲り、その身体を変質させていった。
モニターの向こうも似たような状況だ。レリクトを過剰に摂取した人間、その末路へと。誰も彼もが突き進んでいく。
咆哮がそこかしこで鳴り響く。首のなくなった人間達は首のない化け物、アロガントへと変態した。
目の前で扉や窓を叩いていたドクターも、既に首はない。胴体に空いた馬鹿でかい口腔で、生まれ変わった今日を祝福するように叫ぶ。
「いえーい、成功!」
「い、いえーい」
ミリとオドはハイタッチを交わし、談笑を続ける。
アロガントになっていく悲鳴となってしまった慟哭をバックコーラスに、二人はいつものように笑い合っていた。




