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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十七話 -天才の玩具箱-
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果たせぬ贖罪


 前回までのブランクアームズ


 普通よりちょっと無気力寄りだけど何かとツッコミがちな高校二年生、片羽(かたは)(ゆい)は右腕を化け物に食い千切られてしまった。日常は傾き、アームドレイターと呼ばれる義手を用い、銀色少女……リンと共に戦う道を歩む。

 プラトーから脱走したナンバー08(ゼロエイト)はエイト、そしてゼロと名乗り、プラトーと敵対する道を選ぶ。

 鈴城(すずしろ)(みどり)狗月(いぬつき)(ひかる)の二人も戦う事を選び、唯への協力を約束した。

 唯とリンはエルの遺した力を用い、《ブランデッド》レリクスとなった。唯はプラトーの撃滅とレリクトデバイスの破壊を宣言する。


 プラトーの所有する衛星兵器、通称‘鉄槌’の脅威が迫る中、唯達はドクター・フェイスとの共闘を了承する。

 黒崎(くろさき)芽依(めい)は姉である紫乃(しの)を取り込み、《クロウレイジ》レリクスを運用、フェイスの指示を受け唯達に協力した。

 唯の《ブランデッド》、芽依の《クロウレイジ》は連携し鉄槌を破壊するも、共闘を終えた二騎は当然のように激突する。

 宇宙という不慣れな戦場、芽依の判断と《クロウレイジ》の性能、複数の要因が重なり、唯とリンは撤退こそ出来たものの深手を負った。

 《クロウレイジ》という、新たな脅威を記憶に刻むには充分過ぎる一戦だった。









 いつものように軽薄な笑みを浮かべながらその男は、ドクター・フェイスは口を開く。

「悪くないスペックだろ? 僕がどれだけ一生懸命か、充分に伝わったんじゃないかな」

 少女は、黒崎(くろさき)芽依(めい)は溜息を吐き、フェイスの横をすり抜けるようにして歩き続ける。フェイスはそんな芽依の後ろを歩きながら、すらすらと喋り始めた。

「《クロウレイジ》は君の内側に疑似的な回路を形成する。強制出力解放(フォーステイト)が外部のレリクトへ作用するのに対し、君のベクトルは内側に向いている。僕が何をしたいか、実際にやってみて分かったんじゃないかな?」

 芽依は歩みを止めず、だが僅かにフェイスを一瞥する。

「量より質。これまでの研究はレリクトで何を出来るかが争点だった。お前は、そんなレリクト自身を弄りたいんだろ。レリクトの総量でかち合えば、《ブランデッド》には勝てない。だから、質を高める。可能かどうかは知らないけど」

 ドクター・フェイスは短く笑い、ステップを踏むように芽依の前方に立ち塞がった。

「出来るさ、君なら。君と黒崎(くろさき)紫乃(しの)のリソースを用いて、レリクトを昇華させる。濃縮って言った方が正しいかな?」

「言葉遊びは何でもいいよ。実際、《ブランデッド》の能力は封じた。次は殺す」

 芽依はフェイスを睨み、そう宣言する。

「やる気があるのは良い事だね。でも、その前に盤上を整えたい」

 そう返し、フェイスは歩き始める。今度は芽依が、その後ろをついていく形になる。

「鉄槌は破壊したけど。今度は木槌でも降ってくるわけ?」

「はは、面白いね。僕はさ。唯くんと君の対決を、誰にも邪魔されたくないんだ。プラトーへの挨拶は済んだ。次はお願いをしたいんだ」

 意図が読み取れず、芽依は怪訝そうな表情を浮かべる。

「そう難しくないよ。カラスに伝書鳩の真似事をして貰うだけさ」

 フェイスの笑顔に深い溜息を返し、芽依は目的の扉に手を掛ける。

「勝手にしなよ。どこで何をするのか、はっきりしたらそれを言って。お前の相手は疲れる」

「それ、みんな言うんだよねえ」

 芽依は扉を開けると中に入り、拒絶を分かりやすく示す為に音を立てて閉める。

 ドクター・フェイスの足音が去っていく。誰一人いない部屋で、芽依は姉が寝ていたベッドに腰掛けた。姉の身体が触れていた場所をなぞるも、体温は既に冷え切っている。

 姉を、紫乃をその身に取り込んだ。正確には心臓に。作り物の人工心臓、ブレスドサイファーに閉じ込めている。レリクト・デバイスにガイドを取り入れるのと、原理はそう変わらない。

 戦っている時は感じなかったが、こうやって落ち着いてみると確かに姉の気配がする。それどころか、強い抵抗の念を感じる。無理矢理にでも暴れて、ここから出て行こうと藻掻いているのが、自分の事のように分かるのだ。

「だから、これを渡してきたのか」

 芽依はグリップの付いた注射器を取り出す。ドクター・フェイスが寄越した薬だ。安定剤のようなもの、とフェイスは言っていた。戦闘中に切り替わったら悲惨、とも言っていたが。

「これなら……私で抑え込める」

 芽依は注射器をベッドの上に投げ捨てる。戦闘中はそもそも抵抗を感じないし、実際抵抗されてもこのぐらいなら問題ない。

 思案する。姉を、紫乃を外に出したらどうなるのか。無理矢理押し倒して、取り込む事自体はそう難しくない。なら、戦っていない時は外に出しても良いのではないか。

 そう芽依は考えるも、小さく首を横に振った。

 紫乃はきっと自分を許さないだろう。

 芽依は自身の胸を抱き留めるようにして、ベッドの上に横たわる。

「全部。全部終わらせて、全部奪って。全部お姉ちゃんにあげたら」

 芽依は目を閉じ、疲労の残る身体を休ませる。

「お姉ちゃんは、赦してくれるのかな」

 胸の奥、作り物の心臓は規則正しく心音を刻む。その内側に仕舞った紫乃の抵抗、そして体温を感じながら、芽依は静かな寝息を立てた。

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