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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十五話 -炸薬の空-
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破滅へのカウントダウン


 一台の大型バイクが、残骸をジャンプ台代わりにして空へ飛び上がる。リン渾身の芸術品である大型バイク、ロードアンカーだ。またもやバイクに優しくない運転を披露した片羽(かたは)(ゆい)は、ロードアンカーを足蹴にするようにして校庭へと飛び込む。

 唯は空中で右義手型アームドレイターを装着する。レリクト・シェルの装填やガイドであるリンの取り込み等は、既にバイク上で済ませてあった。

「フェイズ・オン!」

 故に、後は始動キーを叫ぶのみ。

Phase(フェイズ)On(オン).......Folding(フォールディング)Up(アップ)......』

 灰色の光が瞬き、唯の身体を外装が包む。

『......《blank(ブランク)Relics(レリクス)

 着地する頃には《ブランク》レリクスとなり、校庭で好き勝手やっている機械の兵士を殴り付けるようにして戦場へ飛び込む。

「エイト、なにこれ!」

「というか待って私のバイク!」

 現状報告を求める唯に、咄嗟の凶行をようやく理解したリンが声を上げる。

 エイトとゼロの《ブレイクドロウ》は、砕棒ブルームロッドで機械の兵士を粉砕してから《ブランク》を見る。

「不明だ。狙いは市民のようだが、優先目標はレリクスかも知れん。見ての通り」

 《ブレイクドロウ》が黄金の光を残して掻き消え、《ブランク》の後方にいた機械の兵士を砕棒で殴り付ける。

 《ブランク》もまた前方にいた機械の兵士を殴り飛ばし、校庭に残骸を撒き散らす。

「ユーモアもなさそうな手合いだ」

「確かに。冗談とか通じなさそう」

 そんな二騎を囲うように箱が投げ込まれる。しかしその箱が機械の兵士になった瞬間、三基の光輪が周囲を飛び交いそれらを両断する。

「見た事のないタイプですね。幸いそこまで強くはないようですが」

 校庭に降り立った緑と光の《シールディア》レリクスの右膝に、三基のサテライトシールドが帰還する。

 気付けば、校庭は残骸塗れになっていた。《ブレイクドロウ》は周囲を見渡し、箱が投げ込まれない事を確認する。

「打ち止めか?」

 そうエイトは言うも、その場にいる全員が機械の足音を聞き、まだ終わりではない

と悟る。

 すっかり破壊し尽くされた正門を跨ぎ、機械の兵士が校庭へ侵入する。しかし両手を上げ、ゆっくりと歩く姿は先程までと様子が違っていた。

 相違点はそれだけではない。機械の兵士は、胴体が空洞のようになっている。手足の事を考えなければ、それこそ人が着込めるような見た目をしていた。

 その空洞に、モニターが無理矢理装着されているのだ。機械の兵士が歩く度にモニターは揺れ、斜めに傾いていく。

 機械の兵士は止まり、モニターが明滅する。映し出されたのは、ピンク色の髪が特徴的な女性だった。

『あー繋がった? 待って画面斜めなんですけど! まあいいや、みんな揃ったみたいだし? あーしの事見えてる?』

 そう言って、ピンク髪の女性はひらひらと手を振る。

「見知った白衣だ。プラトーのドクターか?」

 エイトが、《ブレイクドロウ》が返答する。ピンク髪の女性はきゃははと笑い、にこにこと微笑む。

『大正解! そーいう君はナンバー08(ゼロエイト)、今はエイトちゃんだっけ? 資料見たけど普通にイケメンじゃん? セシルちゃん死んだしあーしの物にならない?』

 軽薄な物言いを聞き唯は、《ブランク》は小声でリンに問う。

「……プラトーのドクターってこういうタイプもいるの?」

「天才の巣窟だから、奇人変人はデフォルトよ。ドクター・ミリね。人体工学や人体改造のスペシャリスト。海の向こうにいると思ってたけど」

 唯の質問に答えつつ、リンはモニターの向こうにいるピンク髪、ドクター・ミリへと話し掛ける。

『お! リーンドールじゃん! ガイド因子壊れたって話だけど、なんか元気そうじゃん! ほらオド! あんたの好きな人形ちゃんあれだって!』

 モニターの映像が揺れ、気弱そうな少年を映す。少年はあわあわと両手を振っている。

『ちょ、ちょっとミリ止めてよ……! カメラとか映りたくない……!』

「ドクター・オド、電子戦専門のハッカーね。貴方も別の支部に居たはず」

 リンがそう話し掛けると、にへらと笑みを浮かべてからオドはカメラの外へ逃げる。

『あー、ほんとオドはそういうとこがキモいって言われんだかんね! まあとにかく、これからはあーし達とも遊んでよね! 手始めにディエゴちゃんの置き土産、《アウター》レリクスと遊んで貰ったけど。会場のみんなはまだまだ足りないって顔してんね!』

 校庭に箱が投げ込まれ、一拍おいて展開される。機械の兵士、《アウター》レリクスだ。

『ぶっちゃけ弱いしつまんないっしょ? でもチュートリアルってそういうもんじゃん? 第二ラウンドは防衛戦! 《アウター》は完全電子制御、行動ルーチンも簡単切り替え使い勝手抜群! 優先目標は学校にいる巻き込まれモブちゃんだ!』

 《アウター》レリクスの目が光り、両腕を構える。

『レリクト由来のエネルギー弾は衝撃力と侵食力が桁違いじゃん? レリクスにはレリクト装甲が備わっているから無問題だけど、生身のモブちゃんはそうもいかないよね? 指先を掠めれば腕ごと焼けるし、侵食されたレリクトは肉体に穴を空けて細胞ごと霧散する。ワンパンで死ぬぞー』

 きゃははと耳障りな笑い声が響く中、《ブレイクドロウ》が投擲した砕棒ブルームロッドがモニターと《アウター》レリクスを貫く。《アウター》レリクスは地に崩れ、映像は途絶したものの、笑い声が消える事はない。

「ゼロの言う通り、よくない輩が後ろに控えていたな」

「クソ野郎、ね」

 エイトとゼロは、《ブレイクドロウ》はそんなやり取りをしながら新たな砕棒、ブルームロッドを形成し構え直す。

「滅茶苦茶だ、何で俺達じゃなくてみんなを」

 支離滅裂な言動を前に、唯は困惑する。しかし、リンの決断は素早い。

「腹は立つけど、防衛戦をやるしかないわ。エイト、《ブレイクドロウ》のまま前衛をお願い。唯、《アブレイズ》で援護射撃、下がりつつエイトを支援するわ。緑、最終防衛ラインは貴方よ。オフェンスは私達に任せて、貴方はディフェンスに集中して」

 リンが指示を出し、唯も頭を切り換える。

「心得た」

 《ブレイクドロウ》が掻き消え、正面に並ぶ《アウター》レリクスを消し飛ばす。

「了解です、死守します!」

 《シールディア》は円形の剣身を持つ大剣、ラウンドソードを形成する。三基のサテライトシールドが再度射出され、三基の盾となって《シールディア》の周囲を飛び交う。

「指一本触れさせない!」

 唯は、《ブランク》は右肘から先をアビリティハンドに換装、レリクト・シェルを装填しスターターグリップを引き絞る。

「変身!」

 眼前に生じた外装を右義手で殴り付け、散らばった外装が真正面に再展開した《アウター》レリクスの群れを纏めて吹き飛ばす。

Turned(ターンド)......Folding(フォールディング)Up(アップ)......』

 弾け飛んだ外装達が、踵を返して《ブランク》へと殺到……次々と食らい付いていく。

『......《ABlaze(アブレイズ)Relics(レリクス)

 《ブランク》は《アブレイズ》となり、両腕にブラスターを形成する。頭部にあるバイザーに、優先度の高い目標が強調表示された。

「エイトでは対処が難しい個体、及び一定ラインを越えた個体をマークするわ」

「助かる! いっけええ!」

 《アブレイズ》は両腕のブラスターを連射する。光弾の弾幕が通り過ぎる度、《アウター》レリクスの数がぐっと減っていく。

『やるじゃん! オド、趣向変えよっか!』

 ミリの声が反響する。《アウター》レリクスは前進を諦め、その場で両腕の光弾を連射し始めた。

 一般人を攻撃する為だけの攻勢……《アブレイズ》と《ブレイクドロウ》が凌ぐも、少なくない数の光弾が校舎へと飛来する。

「させ、ません!」

 《シールディア》が右手をかざす。三基のサテライトシールドが先んじて飛び交い、光弾を次々に弾いていく。

 結果、《シールディア》の場所まで届いた光弾は数発のみ。その数発は、《シールディア》の掲げたラウンドソードによって霧散させられた。

 《アウター》レリクスの攻勢、一斉射撃は長続きしない。《ブレイクドロウ》が中央から突き崩し、《アブレイズ》が外堀を埋めるように撃ち抜いていく。

 一瞬の攻防……無数の光弾が互いに交わされ、一方は残骸へと成り果てる。

 《アウター》レリクスは一機を残して全滅し、その一機も《ブレイクドロウ》が着地と同時に踏み砕いた。

『なんと防衛率百パーセント! マジ凄いじゃんかレリクスってさあ! あーしちょっと感動した!』

『ぼ、ボクはちょっと複雑……もうちょっとプログラム、詰められる、かも』

 残骸から二人の声が聞こえる。生きているスピーカーが発信しているのだろう。

「次は第三ラウンドか?」

 エイトが、《ブレイクドロウ》がそう問い掛けた。

 唯はうへえと唸る。《アウター》レリクスは弱いが、連戦はそれだけ体力を消耗していく。

『第三ラウンドは用意してないんだ、ごめんね! でもって、ゲームが終わったら源源消すじゃん?』

 第三ラウンドがないと聞いて、唯は内心ほっとしていた。だが、意味深な発言がどうにも引っ掛かる。

 エイトも同様なのか、《ブレイクドロウ》は警戒を解かずに周囲を睥睨していた。

 しかし一番最初に空を見たのは、一歩引いた場所にいるレリクス……《シールディア》だ。

「上です! あれを!」

 緑がそう叫ぶ。遅れて空を見上げた二騎は、超上空に破壊の権化を捉えた。

「弾道ミサイル、あれが本命!」

 リンが忌々しげに告げる。プラトーの持つ手札の一つ、その危険性をすっかり忘れていた唯は、歯を食いしばる事しか出来ない。

「唯、砲撃準備! エイトは空中迎撃に備えて! 今処理しなきゃ、街が一つなくなるのよ!」

 硬直した思考を、リンが無理矢理動かす。《アブレイズ》と《ブレイクドロウ》は動き出そうとするが、その瞬間を待っていたのだろう。

 校庭に再び箱が投げ込まれる。数だけはある《アウター》レリクスが、《アブレイズ》と《ブレイクドロウ》を抑え込みに掛かった。

『させませーん! もうゲームは終わりって言ったっしょ? ゲームキャラが電源に干渉するのおかしくない?』

 耳障りな笑い声が響く。展開された《アウター》レリクスは、《アブレイズ》と《ブレイクドロウ》に殺到する。

「く、私が!」

 《シールディア》が前線に加わろうと動くも、先んじて配置されていた《アウター》レリクスが光弾を校舎目掛けて連射する。慌てて《シールディア》は後退、ラウンドソードとサテライトシールドで弾幕を肩代わりした。

 《アブレイズ》と《ブレイクドロウ》は纏わり付く《アウター》レリクスを引き剥がし打ち砕くも、数秒遅れただけでもミサイルは随分と大きく見えるようになっていた。

『あ、おかわりいる? 欲張り過ぎて引くんですけどー!』

 再度投入された《アウター》レリクスが、同じように両手を広げて飛び込んでくる。

「……阻止限界高度に到達。今から迎撃しても、少なからず地上に影響があるわ」

「でも、直撃よりはマシだろ!」

 リンの宣告に、唯は食って掛かる。

「……そうね。やらない理由にはならない」

「ああ、サポート頼んだ!」

 《アブレイズ》は全身の追加装甲を弾き飛ばす。迫る《アウター》レリクスを一時であっても押し退け、《ブランク》へと戻った。

 そして左の拳を開き、右の拳をそこへ叩き付ける。レリクトの奔流が両義手に迸り、灰結晶が瞬く間に《ブランク》や周囲の《アウター》レリクスを凍り付かせた。

『......《BranDed(ブランデッド)Relics(レリクス)

「らああああッ!」

 灰結晶の蕾が開花し、灰結晶の花となる。花の中央に佇む《ブランデッド》レリクスは、右義手を直上に突き出す。その手に握られた短剣ブーステッドソードが、瞬く間にブラスターを形成する。

 ブラスターに光が灯る。ミサイルを撃ち抜けるだけの熱量に達するまでに、まだ数瞬掛かるだろう。その数瞬の内に、ミサイルは加速度的に高度を下げる。

 街はきっと半壊するだろう。直撃するよりもマシで、助かる人も出てくるだろうが。何割かは必ず死ぬ。

 唯は歯噛みしながらその瞬間を待つ。無力さを感じながらも、ブラスターを構え続ける。ミサイルだけを睨み、自身の無力を呪う。

 だからこそ、唯は視界に飛び込む影を見付けた。

「あれは」

 小さなロケットだ。ここへ打ち下ろされようとしているミサイル目掛け、それこそ迎撃ミサイルのように飛来するロケット……その側面が吹き飛び、黒い人影が顔を覗かせた。

「……レリクス?」

 唯はそう呟く。そのシルエットは遠く、だがはっきりと分かる。

 鴉のように黒いレリクスだった。

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