機械の凶行
教室の窓から校庭を見下ろす。何度もしてきた動作だったが、眼前に広がる光景は非現実そのものだった。
白田稔は慣れ親しんだ筈の学舎で、慣れ親しんだ筈の街を見ている。当然、ただ黄昏れている訳ではない。
見た事のない化け物が街を彷徨いている。さりとて街の外に逃げる事は許されず、どういう訳かネット回線の類も全て断絶していた。そんな中、今出来る事はこうして一箇所に集まり、協力して生き抜いていく事だけ。
学校、というのは避難先には最適だった。一つ難点があるとすれば、この光景だろう。
校庭には机や椅子で構成されたバリケードが何箇所もある。化け物の襲来に備える為、みんなで協力して作ったのだ。
他にも、挙げたらキリがない程学校は変化していた。日常が非日常に塗り替えられていく光景は、中々に堪えるものがある。
だが、白田稔は折れることも腐ることもなく日々を生き抜いていた。友人は腕を失い、それでも尚戦っている。ならばと、意地と根性で稔は困難に食らい付いていた。
今もこうして、教室の窓から外を見ている。郷愁からではない。あの首のない化け物をいち早く見付る為だ。
自分達に戦う力はない。バリケードだってたかが知れている。出来ることはただ一つ、誰よりも早く化け物を発見し、友人に知らせる事だけ。
「ん……なんだあれ」
稔はグラウンドの外に、見慣れない物体が立っているのを発見した。
「ロボット?」
稔は見たままを口にする。胴体が空洞になっているが、その姿はまさしくロボットだ。
一体何なのか。そんな疑問は、問うまでもなく相手から証明し始めた。
ロボットは両腕を前に向ける。次の瞬間、ロボットの前にあった正門とそれを補強していたバリケードが穴だらけになって崩れ落ちた。
腕から発射された無数の光弾が、いとも簡単に避難所の入り口を破壊したのだ。
機械の兵士は暴力に酔う事もなく、淡々と指示をこなす。避難所の入り口を破壊した《アウター》レリクスは、避難民の抹殺という指示をこなす為に破壊した正門を跨いでグラウンドへ侵入した。
教室の窓に人影を確認し、《アウター》レリクスはそちらに腕を向ける。一階の教室でたまたま遊んでいた小学生の集団が、事態を理解出来ずに校庭にいるロボットを眺めていた。
当然、《アウター》レリクスに躊躇うという動作はプログラムされていない。腕に仕込まれた銃口から、先程バリケードを破壊した光弾が連射される。
殺到する死を前にしても、子ども達に逃げるという選択肢はない。そんな意識が生じるよりも早く、《アウター》レリクスは撃ったのだ。
そして、それよりも速く黄金の光が光弾を遮る。白の軽装が黄金の光を伴って、光弾の群れを一身に受け止めた。
「……多少は痛いな」
「装甲ないから当たり前じゃない?」
飛来し光弾を受けたのは、エイトとゼロの《ブレイクドロウ》レリクスだ。敵性レリクス、即ち優先ターゲットを見付けた《アウター》レリクスは、更に攻撃を加えようと接近しながら光弾を撃とうとした。
しかし、量産品に出来たのは一歩踏み出す事のみ。次の瞬間には詰め寄っていた《ブレイクドロウ》が、ジェット噴射を伴った回し蹴りを叩き込んでみせた。
その一撃で《アウター》レリクスは打ち砕かれ、破片が校庭に散らばる。
「脆いな」
エイトは正直な感想を呟く。しかし、それに答えるように無数の箱が校庭に放り込まれた。《ブレイクドロウ》がそれらを一瞥すると、その箱は一瞬にして展開、《アウター》レリクスが組み上がった。
「なるほど。質より量といったところか」
「一般人狙ってたし、クソ野郎が後に控えてそう」
ゼロの物言いにエイトは一度だけ頷く。
「輸送車両は逃したが、外回りをしていた甲斐があったな」
《ブレイクドロウ》が黄金の光を残して掻き消え、手近な《アウター》レリクスを蹴り抜いて粉砕する。
「ヒーローの真似事をさせて貰う」
「これ真似なの? 弾受けたのに?」
《ブレイクドロウ》は再度掻き消え、その度に《アウター》レリクスが一機、また一機と粉砕されていく。
そんな大立ち回りを嘲笑うかのように、校庭には倍数以上の箱が投げ込まれた。




