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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十五話 -炸薬の空-
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天啓


「要するに、私の身体を作り替えるってこと?」

 不信感を隠そうともせず、黒崎(くろさき)芽依(めい)はドクター・フェイスに視線を向ける。雑多な情報の群れがモニターの中を泳いでいたが、芽依には理解出来なかった。

 もっとも、プラトーにいる他のドクターが見ても同じような感想を抱くだろう。ドクター・フェイスの扱う情報は、散らかした子ども部屋のようなものだ。何があるのか何が必要なのか。その部屋の主にしか分からない。

「まあ有り体に言っちゃうとそうかな。調整って言った方が正しいかも。リソース管理みたいなものだよ」

 すらすらと意味のないことを話すドクター・フェイスに対して、芽依は眉をひそめるも突っ掛かるような真似はしなかった。それこそ意味のないことだと、そろそろ芽依にも分かってきたからだ。

「分かるように言って。それで本当に強くなるの?」

「計算上はね。君は不完全なブレスドサイファーに適応した。レリクトで身体を作り替えたんだ。まずはそれを調整する。いらない機能を取っ払って、全て戦闘用に置き換えるって感じかな」

 芽依は無言のまま続きを促す。興が乗ってきたのか、フェイスは饒舌に喋り出した。

「レリクトによる進化、その方向性を無意識の内に選んだ。《クロウ》レリクスは成人男性と変わらない体躯を有しているが、君自身は小柄な少女だろ? 正体を隠す為に、そういう進化をしたんだ。そもそも《クロウ》は隠密性の高い性能をしているが、ブレスドサイファーにそんなデータは存在しない」

 フェイスはにやと笑い、分かるだろうと言わんばかりに芽依を指差す。

「君が進化し、作ったレリクスさ。だがそこで問題が生じる。言ってしまえば、《クロウ》は戦闘用のモデルじゃないんだ。そういう風に設計されてない」

「その設計図とやらが、心臓じゃなくて私の身体にある?」

 ぱちんと指を鳴らし、フェイスは笑顔を見せる。

「その通り。身体の再形成や隠密性の確保は、戦闘に直接関係ない能力だ。そういった不要な機能を、戦闘用にアップグレードする形でまずは調整する。当然君には多量のレリクトが混入するけど、それは頑張って適応して欲しいな」

「強くなるなら。あいつを殺せるなら何だってするよ」

 芽依はそう答えるも、フェイスは怪訝そうな表情を浮かべた。

「何だってするかあ。本当かなあ」

 歯切れの悪い物言いに、芽依は内心苛つきながらも黙ってフェイスを睨む。下手に口を挟むより、こうしていた方が話が早い。

「設計図はもう出来てるんだ。君の改良もすぐに出来るよ。でも、これを満足に使いこなすにはどうしても足りない要素があってね」

「それ、私に出来ることなの?」

 にやとフェイスは笑みを浮かべる。嫌な笑みだ。

「むしろ君にしか出来ないよ。君と相性のいいガイドが必要なんだ。いや、ガイドってのは正しくないな。追加バッテリーって言った方がいいかもだね」

 自分にしか出来ない。相性の良いガイド……そこまで考えて、芽依は目を見開く。

「……まさか」

「うん。黒崎(くろさき)紫乃(しの)と一緒に戦って欲しいんだ」

 予想した通りの名前……姉の名前を出され、芽依はフェイスに詰め寄ると胸倉を掴んで持ち上げる。

「私ちゃんと言ってなかったか? お姉ちゃんには指一本触れさせない。お前が私より強くても知った事か。死んでもお前を殺してやる」

「初耳だけど予想は付くかな。それに、黒崎紫乃には何もしないよ。僕は君の提案通り、指一本触れないで済む。彼女に触れるのは他でもない。君さ」

 芽依は容赦なくフェイスを締め上げていたが、肝心のフェイスは表情一つ変えず喋り続ける。

「黒崎紫乃をガイドのように取り込むだけだよ? 君と彼女、二人分のリソースで僕の《クロウレイジ》は完成する」

「お姉ちゃんを、危険な目には遭わせない」

 フェイスは楽しげに笑い声を上げる。

「危険はないよ、ガイドと同じだからね。レリクスを解除すれば元に戻るよ。もっとも、君は一緒のままでも構わないって顔をしてるけどね!」

「お前がァ!」

 芽依は怒りを解き放ち、フェイスから手を離すと同時に右腕を引いて拳を握り締める。

 しかし解放されたフェイスは自ら近付き、芽依の顔を覗き込むようにして視線を合わせる。凄まれている訳でも、反撃された訳でもない。だが、跳ね上がった芽依の戦意は一瞬にして凍り付いた。フェイスの目の奥に、無視出来ない色を見たのだ。

「嫌なら変わりを探してみるのも手かもね。黒崎紫乃以上に、君に合致する対象はいないと僕は思ってるけど。君だってそうじゃないのか? 家族でもない他人に、君や君のお姉ちゃんの命運を預けられるのかい?」

 芽依はゆっくりと拳を下ろし、ふるふると首を横に振る。自分が命を預け、命を預かるとしたら。それは姉以外に考えられない。

「でも、嫌われる。これ以上嫌われたくない」

 絞り出された言葉は、それ故に本心からのものだ。どこにも道はない。四方を壁に囲まれたようだと、芽依は自身の両手に目を落とす。

「僕が言うような事じゃないけど、君は少し考え過ぎてないかな」

 そう言いながらドクター・フェイスは椅子に座り、モニターに向き直る。

「事実は事実だよ。そうそう変わらないように出来てる。事実として君は。黒崎芽依は黒崎紫乃よりも強い。あらゆる面で。その大前提がある限り、君と黒崎紫乃の間には溝が残る」

「だからなんだよ。弱くなれって言うのか? 強くなきゃ何も出来ないこの世界で!」

 フェイスは短く笑い、芽依をちらと見ると指を差す。それだよ、と軽薄な笑みは物語っていた。

「この世界の、進化の現実だ。君は彼女よりも強い。黒崎芽依は黒崎紫乃よりも強い。なら、君が黒崎紫乃を手に入れたいと思えば……そうなるのが当然じゃないか?」

「な……にを」

 何を言っているのか分からない。芽依は言葉を失ったまま、フェイスの背中を見続ける。

「全てを手に入れる覚悟が出来たら教えてくれ。代替案があるならそれも聞くよ。結局、命を賭けるのは君だからね」

 それ以上言う事はないのか、興が削がれたのか。フェイスはもう何も言わなかった。

 芽依は押し黙ったまま、空っぽな自分の手に視線を落とす。

 何も手に入らなかった。屍体と禍根を積み上げた果てに、結局姉は自分を嫌ったまま。

「……全部、お姉ちゃんの為に頑張ってきたのに。それとも、それがいけない事なの? 私は。私がほんとうに欲しいものに手を伸ばすべきだったの?」

 誰に向けた訳でもない、自問自答に近いような問い。だが、ここには自分と、もう一人しかいない。

「手を伸ばす事は誰でも出来る。届くかどうかは、実力次第じゃないかな」

 フェイスの返答を前に、芽依は何も言い返せなかった。

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