ドッグファイト
四肢の亀裂から適宜光が、レリクトが放出され、そのレリクスは飛行を続けている。そうやって依守市上空を周回しながら、エイトとゼロの《ブレイクドロウ》レリクスは地表の激戦を眺めていた。
《ブランデッド》と四体のアロガントの戦いだ。単純に考えれば一対四、それもステージ6の個体となれば絶望的な状況だが。
「あれは戦いにならんな」
「タイミングが悪いよね」
エイトが呟き、ゼロが呆れたように返す。今でこそ数の暴力で《ブランデッド》を抑え込んでいる状態だが、唯ならすぐにひっくり返すだろう。
「しかし、少し飛んだだけでも随分と同業に会うな」
エイトは、《ブレイクドロウ》はそう言いながら周囲を見渡す。視認しているだけでも、観測用のドローンが五台は飛んでいる。
「殆どがプラトーだろうけど、本当に探したいのはフェイスでしょ? どうやって見分けるの?」
ゼロの問いに、エイトはふむと考えを巡らす。ドローンの形状や型式は、判断材料にはならないだろう。
「ドクター・フェイスの癖を考えれば、もっとも唯に傾注しているドローンを探すべきか?」
「その条件だと二機まで絞れるけど。大体さあ」
ゼロは不満げに続ける。
「ドローンを探したってどうにもならないじゃん。直接フェイスのとこに帰る訳ない。無人の中継基地とか幾らでもあるでしょ」
もっともな意見だ。しかしエイトは、《ブレイクドロウ》は首を横に振る。
「それだけ情報がない、或いは追えないということだ。中継基地の一つでも発見出来れば、多少は分かることも増えるだろう」
「あたしそういう地道なの嫌い」
まあそうだろうな、とエイトは思ったものの口には出さなかった。
「とりあえず、現状発見出来ているのは観測用ドローンのみだ。まずはこれを追う」
「はいはい。まあ殴り合うよりは楽でいい……けど」
ゼロの語尾が淀む。
「エイト、分かってると思うけど」
「ああ。更に上空か」
緊張を滲ませたゼロの言葉に、エイトは肯定を返す。穏やかに飛行していた《ブレイクドロウ》だったが、四肢の亀裂が一際大きな光を放出する。レリクトによるジェット噴射、それを活かした急加速だ。
直上から飛来してきた人影は、先程まで《ブレイクドロウ》がいた空間を擦過していった。攻撃が外れた事に気付いたのか、その首のない人影は胴体にある馬鹿でかい口腔から唸り声を上げる。
「アロガント・ステージ6。下で唯がやりあっているのと同じ、レリクスタイプか」
そのアロガントは四肢からジェット噴射を吐き出しながら急加速、《ブレイクドロウ》を追い掛け始めた。
「《フェイク》アロガント、ブレイクド個体といった所か。もう一人の自分との戦い、稀によく見る展開だ」
「なんかあんたは余裕そうだけど。あっちはやる気みたいだよ」
ジェット噴射による加速は、《フェイク》アロガントの方が上のようだ。目にも止まらぬスピードで《フェイク》は迫るも、《ブレイクドロウ》は横に転がるように身体を回転させてその体当たりを躱す。
「油断は出来んな。これが自分との戦いであれば、基本的に向こうの方がスペックが高く設定されている。物語であれば見せ場の一つだからな」
「ほんと今日のあんたは余裕そうだね」
《フェイク》アロガントは再び急上昇、雲に紛れ見えなくなった。
《ブレイクドロウ》は高速度を保ちながら飛行し、次の襲撃を待つ。
「来るよ」
ゼロの警告……エイトの勘もそれを肯定し、《ブレイクドロウ》は身構える。
直上の雲を突き破り《フェイク》アロガントが突っ込む。《ブレイクドロウ》は再度身体を捻り回避、と同時にジェット噴射を伴った蹴りを叩き込んだ。
「ふむ」
《フェイク》アロガントは《ブレイクドロウ》の足を受けながらも抱え込んだ。両腕を使った拘束……互いに推力を失い、一騎と一体は急速に高度を下げていく。
乱気流に揉まれ、《ブレイクドロウ》と《フェイク》アロガントは一緒くたに墜落していく。
「自滅覚悟、いや再生能力を考慮すれば妥当か? いずれにせよ上位互換の戦術ではないな」
《ブレイクドロウ》は掴まれていない足と両腕からジェット噴射を繰り返し、体勢を安定させる。そして掴まれていない方の足をアロガントに宛がうと、全身の推力をその足に集約させて蹴り抜いた。
レリクトによる爆圧が、強引に拘束を解く。《ブレイクドロウ》はジェット噴射で高度を上げ、吹き飛んだ《フェイク》アロガントもまた高度を上げ始めた。
《ブレイクドロウ》は左義手から砕棒ブルームロッドを形成すると、今度は自分からアロガントへと突撃する。
受けて立つつもりか、《フェイク》アロガントも逃走はしない。真正面からこれまで以上の高速度で迫っている。
交差は一瞬、しかしその一瞬で《ブレイクドロウ》は急制動による回避と回り込み、砕棒による殴打を繰り出した。
対して《フェイク》アロガントは腕を振るうのみ。その攻撃は当然空を殴る事しか出来ず、胴体に砕棒を叩き込まれたアロガントは唸りながら体勢を崩す。それでも《フェイク》アロガントには強大な膂力と推力がある。錐揉みをしてはいても、すぐに立て直すだろう。
「当然、猶予は与えないが」
《ブレイクドロウ》は急加速と急制動を繰り返し、アロガントの直上へ滑り込む。容赦なく振るわれた砕棒ブルームロッドの殴打によって、《フェイク》アロガントは大きく高度を下げる。
拉げた砕棒を放り捨て、《ブレイクドロウ》は墜落する《フェイク》アロガントを追い掛ける。
《ブレイクドロウ》はアロガントの腕を掴むと四肢のジェット噴射を活かして回転、その勢いのまま《フェイク》アロガントを放り投げた。空中ジャイアントスイングの結果、アロガントはビルの壁面にぶつかり更に高度を落とす。
「では終わりだ」
左義手のボルトハンドルをスライドし、《ブレイクドロウ》が空を駆ける。
光を纏った砕棒ブルームロッドを握り締め、《ブレイクドロウ》は落下する《フェイク》アロガントへと追い付いた。
《ブレイクドロウ》は通り過ぎ様にブルームロッドをアロガントへと突き立てる。ブルームロッドはアロガントの表面に、黄金のラインを形成し縛り付ける。
そこから先は一瞬だった。レリクトのジェット噴射と共に《ブレイクドロウ》が掻き消え、ボルトハンドルがスライドする音だけが二回鳴り響く。
何が起きたのか、《フェイク》アロガントだけは理解出来ただろう。追加で二本のブルームロッドを突き立てられ、そこから形成された黄金のラインがその動きを封じていた。
掻き消えた《ブレイクドロウ》は、アロガントの直上へ出現している。右手が滑らかに動き、左義手のボルトハンドルをスライドした。最後の弾丸がチャンバーに押し込まれ、左義手から砕棒ブルームロッドが形成される。
「ステージ6は強敵だそうだ。念を入れて四発使わせて貰う」
《ブレイクドロウ》はブルームロッドを真下に、《フェイク》アロガントに向けて投擲する。アロガントに突き立てられた三本のロッドが黄金のライン上を滑るように移動し、三角形を形作るように整列した。
それはさながらビーコンだ。その中心目掛け、投擲されたブルームロッドは命中する。
「ふんッ!」
そして、遅れて降下してきた《ブレイクドロウ》が最後のブルームロッドへと蹴りを叩き込む。それが契機となり、計四本のブルームロッドは内包したレリクトを余すことなく炸裂させた。
『devastate,rod』
爆発は本数通り四回、その度にアロガントは高度を落としていく。四回目の爆発が起きる頃には地上に辿り着いていたアロガントだったが、その肉体が地表に触れることは永遠になかった。
《ブレイクドロウ》は高度を上げ、上空からその様を見守っている。
「もう一人のあんた弱くない?」
「人違いだったようだ」
目標の消滅を確認しながら、《ブレイクドロウ》は左義手の弾倉を新しい物に交換し、何事もなかったかのように偵察任務へと戻った。




