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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第二十四話 -進化の激突-
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十字包囲


 世界はゆっくりと、だが確実に変わっていく。流れていく寒々しい景色を、片羽(かたは)(ゆい)はそう解釈した。夜に紛れていた筈の怪物は日の下を闊歩し、どこか他人事だった戒厳令はより一層強固になって人々を縛る。ここ依守(いもり)市は、随分と静かになってしまった。

 唯はスロットルを思うままに上げ、ロードアンカーの速度を上げる。制限速度を大きく超えていたが、誰もいないスクールゾーンに配慮するつもりはなかった。

「シロに聞いたんだけど。学校とか、一箇所に固まって避難してるんだって。見張りも立てて、アロガントを警戒しながら生活してるって」

 シロ……白田(しろた)(みのる)は、唯にとって数少ない友人の一人だ。今も連絡を取り合っているが、さすがに左腕も切れたとは言いづらく、向こうの近況を聞くに留まっている。

「知ってるわ。避難場所は全箇所把握済み、常に周囲を監視してる。アロガントの好きにはさせない」

 ロードアンカーの後部座席に跨がったリンが、当然だと言わんばかりに答える。

 唯は笑みを浮かべ、やはり敵わないと小さく頷く。自分の考え付くことは、全てリンがやっている。

「人がいないとさ。街ってすぐに廃墟になるんだね。見た目がぼろぼろとか、そういうんじゃないんだけど」

 唯の言葉に、リンは唯の背中に触れる事で反応する。

「そうみたいね。今は、どこもずっと物悲しいわ」

 唯は頷くと、徐々にスピードを緩めていく。遙か前方に、対峙すべき異形が見えたからだ。

 唯はロードアンカーを停車させ、自由に動く左義手で右義手を取り外す。外れた右義手は、ハンドル下のスペースに格納されていった。

 リンが飛び下りるようにして降車し、唯も地面に降り立つ。リンが携帯端末を操作するとロードアンカーは独りでに発進、遠方へと避難していった。

「唯、これを」

 リンが投げて寄越したのは、耳に装着するタイプの通信機だ。唯は左耳にそれを付け、合っているのかどうか確かめる為にリンを見る。

『唯くん、聞こえますか?』

「うわ、びっくりした。緑か」

 通信機から聞こえてきたのは緑の声だ。緑と光は隠れ家で待機している。リンいわく、後方支援及び予備兵力らしいが。

『はい、私です。基本は黙っているので好きにして下さい。異常事態や出撃の是非などあれば、相談して対応する形になります』

「まあ、細かいことは任せるよ」

『唯くんは大雑把ですね』

 苦笑を返し、唯はアロガントの佇む交差点へと歩き出す。大きな十字路であり、平常時であれば人も車も飽きる程にごった返している場所だ。

 アロガントは細い体躯で、一見すると人に近い。だが、当然のように頭部が無く胴体に馬鹿でかい口腔が存在している。人に近いシルエットのせいで、その異質さは余計に際立つ。

「リン、あれは確か」

「ステージ6の個体ね。私達がやり合うのは初めてになるわ」

 唯とリンは並んで歩き、交差点へ侵入する。その瞬間、唯は左義手で右義手型アームドレイターを掴み、リンは両手に拳銃を握り左右と後方に銃口を向ける。

「四体いたんだ」

 唯が呟く。最初に佇んでいたアロガント以外に三体、どこかで隠れていたのだろう。同じように人に近いシルエットのアロガントが、交差点にそれぞれ侵入するように歩き出している。唯とリンは交差点の中央まで歩き、首のない人影を一瞥していく。

『増援のようですが、出撃の可否はどうします?』

「現時点では必要ないわ。引き続き索敵をお願い」

 緑の問いに、リンが拳銃を懐にしまいながら答える。

「そうだね。四体ぐらいなら何とかなる」

 そもそもこっちは自分とリン、そしてエルの三人掛かりだ。プラス一体ぐらいどうとでもなる。

 唯は右義手型アームドレイターを自身の右肩に装着する。

stand(ステン)-by(バイ) ready(レディ)

 左義手でレリクト・シェルを掴み、手慣れた様子でアームドレイターに装填する。上腕にあるフォアエンドをスライドし、ぎこちないながらも動くようになった右義手を真横に突き出す。

 こちらの右義手の手の平に、リンは左の拳をとんとぶつける。灰色の光と化したリンが、アームドレイターに取り込まれていく。

Archi(アーキ)Relics(レリクス)......《blank(ブランク)》』

 アームドレイターが駆動し、灰色の光を放出し始めた。アロガント達は歩みを止め、首のない姿で唯をじっと見据えている。

 唯は右義手で拳を握り、左義手で爪を突き立てるように手を開く。

 力の奔流を意識しながら、唯は胸の前で両手を打ち合わせた。快音は衝撃となり、唯の周囲を一瞬であっても揺さ振る。

 左手で右の拳を握り締め、灰色の光が右義手からから左義手へと伝播していく。

「いくぞ……変身!」

 覚悟を叫び、より一層の力を込めて右義手と左義手を打ち合わせる。

Turned(ターンド)......Brandnew(ブランニュー)Deed(ディード)......』

 両義手を中心に《ブランク》の外装が組み上がり、間髪入れずに灰結晶が全身を覆い尽くす。

 空気すら凍り付いたような無音が場を支配するも、それは束の間の静寂に過ぎない。

 灰結晶に亀裂が刻まれ、それは再び世界を揺さ振る。

「らああああッ!」

 結晶が砕ける。打ち合わせた両手を離し、胸を開き仰け反るようにしてそのレリクスは顕現した。

『......《BranDed(ブランデッド)Relics(レリクス)

 唯とリンは《ブランデッド》レリクスとなり、仰け反った姿勢を元に戻す。右半身は《ブランク》、左半身は《デッドリー》を思わせる灰結晶の鎧が生え揃っている。

 すると、それを待っていたのだろう。四体のアロガントは口々に咆哮し、その肉体を変質させた。

 変化は一瞬、そしてその有様は唯は当然のこと、リンすらも驚きを隠せなかった。

 一体は全身を装甲のように肥大化させ、左腕が騎槍を思わせる形状に変化した。もう一体は装甲の変化こそ控え目だが、足が発達し右腕は大剣のように変化している。

 次の個体は、全身から火を吹き出しながら足を斧のように変化させていた。そして最後の一体、最初に佇んでいたアロガントは。右腕にチェーンソー、左腕に大型アームを思わせる三本爪を形成していた。

「どう見てもこれ」

「レリクスね。進化の過程でそれを? 面白いわ」

 唯は苦々しく言うも、リンは科学者としての気質が刺激されてしまったのかちょっと浮ついている。

 しかし、すぐにリンは咳払いをし意識を切り替えた。こういう所はとことん大人だ。

「私にとっては並行解析の練習、貴方にとっては感情制御の練習といった所ね。敵のど真ん中で強制解除なんて笑えないわよ」

「だね。やるだけ、いや」

 《ブランデッド》は右義手を振り上げ、射出されるように形成された短剣、ブーステッドソードを右手で掴む。

「やるべきことをやる」

 そう宣言し唯とリンは、《ブランデッド》は一歩踏み込む。

 四体のレリクスを模したアロガントは、咆哮と共に《ブランデッド》へ飛び掛かった。

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