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リアルオンラインを完全解約したい俺、女神の手違いで永久サ終阻止の英雄に認定される 〜カルマ残高ゼロで成仏したいのに、無欲すぎて勝手に徳が振り込まれるんだが〜【全50話完結確約】  作者: ランダムアクセス
第1章:アカウント開設とチュートリアルの悲劇

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第9話:密着! 丁寧な出家暮らし(無断配信テロ)

 空を遮る屋根もなければ、風を遮る壁もない。


 光輪の街サンクトゥスの城壁を出て、歩くこと半時。

 俺がたどり着いたのは、街外れの荒涼とした河原だった。

 ゴツゴツとした川原石が転がり、乾いた秋風が枯れ草を揺らしている。

 人気(ひとけ)のまったくない、まさに隠遁生活にうってつけの僻地だ。


 これなら、いくらあのウザい連中でも諦めて帰るだろう――。

 そう思っていた時期が、俺にもありました。


「――はいっ! 大陸全土のフォロワーの皆さん、聞こえていますかーっ!?」


 背後から響く、元気ハツラツとした高らかな美声。


 振り返らなくても分かる。

 河原の土手の上に、純白の修道服を着た聖女カノンが仁王立ちしていた。

 その両脇には、巨大な魔導水晶を肩に担いだ屈強な従者たちが二名。

 水晶のレンズ先端からは、赤く発光する魔力光線が空へと照射され、上空に張られた神聖中継回線を通じて、大陸全土の大聖堂ビジョンへと映像がリアルタイム配信されていた。


 そしてその横では、見習いシスター・セシリアが手帳と羽ペンを構え、崇高な表情で待機している。


(……なんでついてくるんだよ。ストーカー部隊かお前らは)


 俺は深くため息をつき、河原の平らな大石の上にあぐらをかいた。


 逃げても無駄だ。

 あの女の背負っている光輪は、歩くだけで周囲の移動速度をブーストするチート仕様がついているらしく、どれだけ全力疾走してもあっさり追いつかれてしまう。

 ならば、対抗策は一つしかない。


(徹底的に地味に徹する。見せ場を一切作らず、放送事故レベルの虚無映像を垂れ流して、飽きて帰るのを待つ)


 テレビのバラエティ番組でも、定点カメラでひたすら動かない岩を映し続けていれば、視聴者は三分でチャンネルを変える。

 俺は背筋を丸め、両手を膝に置き、死んだ魚のような目で川のせせらぎを見つめた。


 ぴくりとも動かない。

 声も出さない。

 ただカロリーの消費を極限まで抑え、静かに呼吸を繰り返す。


 だが――俺の「放送事故作戦」は、現世のトップインフルエンサーの圧倒的なトーク力の前には紙屑同然だった。


「ご覧ください、皆さん!」


 カノンがカメラ目線で、感情たっぷりに熱弁を振るい始めた。


「彼は人工の贅沢な建造物を拒絶し、ただ大自然の冷たい風を全身に受けています! 雨風を凌ぐ屋根すら持たず、硬い川原石の上にただ一人、静寂と共に佇むその姿……! これぞ、物に溢れた現代社会が忘れ去ってしまった『究極の丁寧な暮らし』! 魂のエモさの極致です!」


「……ただの野宿だ。寒くて動けないだけだ」


 俺はぼそりと呟いた。

 だが、カノンの美声が容赦なく被さる。


「ああ……! 聞きましたか皆さん!? 『寒くて動けない』……! 己の肉体の限界を受け入れ、寒風すらも自らの魂を研ぎ澄ます砥石として抱きしめているのです! なんというストイックな精神性でしょうか!」


「解釈の歪曲がひどすぎる。名誉毀損でBPOに通報するぞ」


 何を言っても美談に変換される。

 頭が痛くなってきた俺は、足元に生えていた名もなき雑草をぷちっと一本むしり取った。

 腹が減って胃が引きちぎれそうだったのだ。

 根元の泥を指で払い、無言で口に放り込んで、モグモグと噛み砕く。

 えぐみと青臭さが口いっぱいに広がり、思わず顔をしかめた。


 これならどうだ。

 道端の雑草をむさぼる薄汚い浮浪者の姿だ。

 こんなみっともない映像、キラキラした聖女の配信に乗せられるはずがない――。


「――っ!!」


 カノンが息を呑み、胸元に両手を当てて瞳を潤ませた。


「み、見てください……! 彼は教会の贅沢な炊き出しを退け、神が大地に授けた野生の恵みを、そのまま体内へと取り込んでいます! 化学的な調味料も、過剰な加工も一切排した、これぞ正真正銘のオーガニック・デトックス……! 文明の虚飾に対する、孤高の魂のアンチテーゼです!」


「ただの雑草だボケ! 苦くて不味いわ!」


「聖者様、その尊きお姿……! 一瞬たりとも見逃しません!」


 セシリアが猛烈なスピードで羽ペンを走らせている。

 手帳には『聖者、大地の苦草を噛み締め、現世の甘言を断つ』と金文字で書き殴られていた。


 だめだ。

 この空間、会話のプロトコルが完全に崩壊している。


 恐る恐る視界の端のカルマ口座を確認する。

 数値は『550.00 pt』のまま動いていない。

 どうやら、勝手に撮影されて勝手にポエムをつけられているだけなら、直接の徳ポイント加算は発生しないらしい。


(……よし。残高は増えていない。このまま完全無視を決め込めば、そのうち視聴者も愛想を尽かすはずだ)


 俺はふたたび目を閉じ、雑草の苦味に耐えながら石仏のように沈黙した。


 ――しかし。

 俺は決定的な事実を見落としていた。


 この映像が、アストリア王国全土の数千の教会、そして王都の中央大スクリーンに生中継されているという現実を。


 その頃、王都の最高級サロンでは――。


「な、なんという高潔な御方だ……!」


 豪奢な絹の服を着た肥満体の男――王国屈指の資産規模を誇る豪商ミダスが、水晶スクリーンを見つめて大粒の涙を流していた。


「我々貴族や商人が飽食に溺れ、金貨の山を数えている間に……あのお方は、吹きさらしの荒野で泥にまみれ、世界の罪を背負って雑草を食しておられる……! それに比べて、私のこの贅肉は何だ! この屋敷は何だ!」


「ミダス様、落ち着いてください!」


「落ち着いていられるか! あのような生ける伝説を、あんな冷たい河原に放置するなど国家の恥だ! おい、すぐに王都の商人組合を招集しろ!」


 ミダスは立ち上がり、金貨が詰まった金庫の鍵を叩きつけた。


「今すぐクラウドファンディングを立ち上げろ! 目標金額は金貨三十億枚! 聖レイ様のために、大陸史上最も巨大で豪奢な大聖堂を建立するのだァァァッ!!」


「「「おおおおおおっ!!」」」


 荒野で目を閉じている俺の背筋に、突如として氷水を流し込まれたような悪寒が走った。


「……ん? なんだ、急に鳥肌が……」


 それが、平穏な無職生活の完全崩壊を告げる、地獄のカウントダウンであることに――この時の俺は、まだ気付いていなかった。


---


### 【本話のカルマ会計報告】

- **開始残高**:550.00 pt

- **本話の増減**:±0.00 pt(生配信・待機観察のみのためシステム上の変動なし)

- **終了残高**:550.00 pt

- **現在の魂ランク**:平民上位(解脱可能基準値:0.00 pt まで、残り 550.00 pt の減算が必要)


読んでくださりありがとうございます!


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