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リアルオンラインを完全解約したい俺、女神の手違いで永久サ終阻止の英雄に認定される 〜カルマ残高ゼロで成仏したいのに、無欲すぎて勝手に徳が振り込まれるんだが〜【全50話完結確約】  作者: ランダムアクセス
第1章:アカウント開設とチュートリアルの悲劇

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第3話:道端のチンピラと最初のカルマテロ

突きつけられたナイフの刃先は、赤茶けた錆が浮き、刃こぼれだらけだった。


「おい兄ちゃん、命が惜しけりゃ持ってるもん全部出しな! 金目のもん、身につけてる服、食い物……全部だ!」


男の名はボルド。この一帯の街道を根城にする、三流盗賊団の頭領……の成れの果てだった。

顔には大きな刀傷があり、体躯だけは無駄にデカいが、その息は荒く、血走った目はどこか切迫していた。

何日もまともな獲物にありつけていないのか、頬はこけ、ナイフを握る手は微妙に震えている。


普通の旅人なら、悲鳴を上げて命乞いをするか、武器を取って応戦する場面だ。


だが、木の幹にもたれかかっていたレイの反応は、ボルドの予想を遥かに超えていた。


「……え?」


レイは、死んだ魚のような濁った瞳をパチパチと瞬かせると、ふっと口元を緩めたのだ。

それは、まるで長年のゴミ屋敷から不用品回収業者がやってきたのを見送るかのような、心底からの安堵の微笑みだった。


「おお……所持品を全部引き取ってくれるのか? 助かる」


「は……? じょ、冗談言ってんじゃねえぞ!」


ボルドが動揺してナイフを突き直すが、レイは意に介さず、身につけていたビジネススーツのジャケットとワイシャツを躊躇なく脱ぎ捨てた。

財布から小銭入れを取り出し、中に入っていた日本円の百円玉二枚と十円玉数枚――この世界では正体不明の金属片――を、ボルドの足元にジャラジャラと差し出す。


「ほら、これでお前の言う『持ってるもん全部』だ。この服も持っていけ。ブランド物じゃないが、生地はしっかりしてるから雑巾くらいにはなるだろ」


「な……な、なんだお前は……!?」


ボルドは完全に気圧されていた。

ナイフを突きつけられ、身ぐるみを剥がされるという極限状況で、なぜこの男は微塵も恐怖していないのか?

それどころか、まるで「厄介な荷物を処分できて清々した」とでも言わんばかりの、澄み切った表情をしているのはなぜだ?


(こ、こいつ……ただ者じゃねえ……! 金や服に一切の未練がない……!? なんなんだその濁りのない目は……!)


ボルドの額から、ダラリと冷や汗が流れた。

あまりの不気味さにナイフを下ろしそうになるが、空腹と喉の渇きが彼を踏みとどまらせる。


「く、くそっ……! 金は分かった、だが水だ! 喉が焼け付くように乾いてるんだ! 水を寄越せ!」


ボルドが叫ぶと、同時に彼の腹がギュルルルルと激しい音を立てた。

ボルドは思わず左手で腹を押さえ、苦悶の表情で脂汗を流す。

慢性的な飢えとストレスによる、十年来の持病――劇症の胃痛が、この土壇場でぶり返したのだ。


その様子を見たレイは、小さく眉をひそめた。


(……おいおい、ここでこいつに倒れ込まれたら面倒極まりないぞ)


もしこの男が目の前でショック死でもしたらどうなる?

「困窮した人間を見殺しにした」とシステムに判定され、悪業スコアが計上されるかもしれない。

あるいは逆に、「悪人を成敗した」と判定されて、望まぬ功徳ポイントが振り込まれる可能性もある。


どちらにせよ、カルマ残高ゼロを目指すレイにとって、トラブルの種でしかない。


「おい、厄介払いは手短に頼むぞ」


レイは腰にぶら下げていた竹筒の水筒を手に取った。

さっき草原を歩いている際、喉を潤すために近くの小川で汲んだ湧き水だ。


中には、道端を歩きながら「これ食えるのか?」と適当に引っこ抜いて水筒に突っ込んでおいた、苦そうな野草(胃痛草)がそのまま沈んでいる。

レイ自身が一口飲んで「苦っ、まずっ!」と吐き出し、放置していた飲み残しの泥水まがいの代物だ。


レイは無表情のまま、その竹筒の蓋を外し――


バシャッ!!


「ぐへっ!?」


ボルドの顔面に向けて、勢いよくぶっかけた。


「はい水だ。全部くれてやるから、さっさと飲んでどっか行け」


レイは空になった竹筒をポイと地面に投げ捨てた。

これで手荷物は完全にゼロ。身軽なミニマリスト生活の完成だ。

手酷く水をぶっかけられたのだから、盗賊も怒って立ち去るか、あるいは悪態をついて逃げ出すだろう――。


レイはそう確信していた。


だが、現実はレイの想定を、斜め上どころか宇宙の彼方へと突き抜けて裏切った。


「が、ぶっ……げほっ、ごほっ……!」


顔面に水を浴びせられたボルドは、思わず口を開けてその水を数口飲み下した。

強烈な苦味が舌を刺す。しかし次の瞬間――。


スゥゥゥッ……と。


十年間、昼夜を問わずボルドの胃を内側から焼き焦がしていた、あの地獄のような激痛が、嘘のように引いていったのだ。

まるで、傷口に塗られた清らかな霊薬のように、全身の細胞に清涼な生命力が染み渡っていく。


「な……んだ、これは……? 胃が……痛く、ない……? 体が……軽い……!?」


ボルドは驚愕して自分の腹をさすった。

そして、足元に落ちている竹筒の中に残った、すり潰された緑の葉の破片を見て、息を呑んだ。


「こ、これは……深山幽谷にしか自生しないという、伝説の万病治癒草【神仙竜胆(しんせんりんどう)】……!? ば、馬鹿な……! 一株で金貨百枚は下らない至宝の霊薬を、惜しげもなく水に溶かして……!?」


(※ただの道端に生えてた雑草です)


ボルドの頭の中で、すべての点と線が劇的に結びついた。


この男は、最初から全てを見抜いていたのだ。

自分が極限の飢えと胃痛に苦しんでいることを。

だからこそ、ナイフを向けられた恐怖など意に介さず、すべての服と財産を差し出し、最も欲していた命の水を、持病を治す霊薬に変えて与えてくれたのだ――!


「あ、あ、あああ……っ!」


ボルドの目から、大粒の涙がボロボロと溢れ出した。

ナイフが手から滑り落ち、土の上にカランと音を立てる。


「お、俺のようなクズを……! 人殺しと略奪しか能のないドブネズミを……! お前様は、何の見返りも求めず、慈悲の心だけで救ってくださったというのか……!?」


「……は?」


レイが怪訝な顔で首を傾げた、まさにその時だった。


ピロロロロ〜〜ン♪


澄み渡るような、しかしレイにとっては死刑宣告にも等しい清らかな鐘の音が、頭蓋骨の内側に直接鳴り響いた。


レイの視界の中央に、金色に発光する巨大なウィンドウがドカンとポップアップする。


『実績解除:【慈悲の施し(日常徳)】』

『困窮に喘ぐ者に衣服と全財産を譲渡し、持病を癒やす霊水を授けました』

『カルマ口座に【徳ポイント+15.00 pt】がチャージされました!』


現在のカルマ残高:15.00 pt


「…………は?」


レイの口から、間抜けな声が漏れた。


ウィンドウの数値を二度見、三度見する。

ゼロだったはずの残高が、綺麗に「15.00」に増えている。


「ちょ……え? なんで? 水ぶっかけただけだぞ? 厄介払いだぞ!?」


レイの叫びも虚しく、足元では巨漢のボルドが大地に額を擦り付け、子供のようにワンワンと号泣していた。


「聖者様ぁぁぁっ! 俺が悪うございました! 今日限りで盗賊から足を洗います! 貴方様の慈悲に、この命を捧げて生涯感謝し続けますううううっ!!」


『ボルドの改心による信仰波を検知……追加ボーナスの算定を開始します』


「やめろおおおおおお! 感謝するな! 祈るな! 徳の不正送金だぞ警察呼ぶぞおおおおおお!!」


どこまでも青く澄み渡る異世界の空の下、口座残高のインフレに怯える元社畜の絶叫が、虚しく響き渡ったのだった。


---


### 【本話のカルマ会計報告】

- **開始残高**:0.00 pt

- **本話の増減**:日常徳(困窮者への施し)+15.00 pt

- **終了残高**:15.00 pt

- **判定ステータス**:平民下位(口座残高プラス転落)


読んでくださりありがとうございます!


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