美貌の女詐欺師はメンシュリヒ王国を股に掛けたホラを吹き、王都警備隊長は高額の代価を分割払いする
リーヴは、人間世界の高価で希少な動植物や品物の名前と部位を並べ立てた。
「まずは、オウカンハクチョウの舌」
身体の大きさは普通の白鳥くらいだが、翼を幅は人間の大人が両腕を広げたほどある。
これが太陽を遮って飛ぶと、その瞬間に閃く光が王冠に見えるので、この名がついた。
メンシュリヒ王国の山岳地帯を越えたところにある高原の水辺にしか生息しない。
その舌は珍味とされるとともに、乾燥させれば万病に効く薬として高値で取引される。
「次に、ジャコウイノシシの胆石」
見た目も鮮やかな赤く大きな猪で、雌は繁殖期には芳香を放つ汗で雄を引き寄せる。
その匂いは、一歩先も分からないほどに生い茂る草木の奥に潜むものでも分かるという。
はるか南の海の彼方にある、晴れた日でも中に入れば雨の降りしきる森に棲んでいる。
匂いだけを残して姿をくらますためになかなか狩ることができず、手に入っても胆石を持っているとは限らない。
持っていてもたいへんに小さいので、薬として使うにはたいへんな量を必要とする。
「三つ目は、サバクレモンの種」
弱い光にも宝玉のようにまばゆく輝く果実で、刃物が通らないほど固い。
その木は、いくつもの海を越えた先の大陸にある、この世の果てともいうべき砂漠に根を深く張って生えているという。
汁を絞るときは、巨大な鋼鉄の万力に挟んで、屈強な男が数人がかりで取っ手を回さなければならない。
その味は、口の中が喉へと吸い込まれるほど酸っぱく、その爽やかな香りは夜中でも街ひとつ分の人々の眠りを覚ましてしまう。
ただし、ほんの数滴しか絞れないため、その薬効にあずかれる人はほとんどいないらいい。
「四つ目は、シンカイリュウオウケルプの根」
陸に揚げれば長さが浜一つ分になることもあるという、巨大な海藻である。
だが、その根は無限とも思える海底に沈んでおり、引き上げるのは並大抵のことではない。
手に入れば、ひとかけらを口にしただけでも飲まず食わずで10日は生き延びられるほどの滋養を持つという。
「五つ目は、火龍鉱の内核」
遥か北の果てにあるという、氷に閉ざされた島の地下深くに眠るという希少な鉱物である。
握り拳ほど大きさのものでも、触れただけでも手が焼けただれるほどの熱を持つ。
大変な硬さで、割るには数人がかりで大槌を叩きつけなければならない。
その内核は、砂になるまで砕いて小分けにしないと、入れ物が燃えてしまうという。
「最後は、聖エアトムッターゴッテン山の伏流水」
遠い昔に、大地を食らいつくそうとした巨獣を調伏したという聖人の名を冠した山である。
遥か東の果てにあることは間違いないらしく、隊商が運んでくる古い風景画では珍しくない題材である。
その伏流水は冷たく住んでいるだけではなく、長く飲んでいると人の身体を壮健にするという。
それだけに、水が湧きだすところは見つけた者がひた隠しにしているか、神殿が建てられているかして、簡単には手を出すことができない。
ヴォーダンも、名前くらいは聞いたことがあるのか、いちいち深く頷いていた。
その様子をじっと見つめていたリーヴは、重々しく告げた。
「もちろん、手に入れるには、それなりの経費は入り用ですが」
少しばかり、ヴォーダンは考えこんだ。
無理もないことだった。
これだけ貴重な珍品の名前を並べられたら、とんでもない値段になるのは想像がつくところだ。
やがて、ヴォーダンは言葉を選びながら、しかし、はっきりと答えた。
「では、7回に分けて」




