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美貌の女詐欺師は恥じらいながら王都警備隊長に偽りの過去を語る

 顔を背けたヴォーダンに、胸元をかき寄せたリーヴは背中を向けた。

 恥ずかしげに、その生い立ちを語りはじめる。

「私は、海の向こうの遠い国で生まれたんだそうです」

 半分は、嘘だった。

 本当は、岩山にある洞窟の向こうだ。

 それも人間界ではなく、トロール界である。

「幼い頃、農民の反乱が起こったそうです」

 少なくとも、リーヴが生まれてからは聞いたことがない。

 しょっちゅうあったのは、隣国ユルムスの侵攻だ。

「それに端を発した王家と諸侯の内乱で、両親は命を落としました」

 ヒルヴィーオ王国の貴族は、王家に逆らうことはない。

 王家に裏切られたのは、リーヴのほうだ。

 父も母も、ユルムスによって命を落としたというのに。

「私は一命を取り留めましたが、こんな傷を負いました」

 そう簡単に殺されはしない。

 負ったのは、心の傷だ。

「教会の保護を受けて修道院に匿われましたが、内乱は収まりません」

 かつて最高判官であったトゥオーマリの手助けはあったが、匿われる気などなかった。

 内乱も起こってはいない。

 ただ、陰謀が正義であるかのようにまかり通っているだけのことだ。

「とうとう修道院も破壊されて、みんな散り散りになってしまいました」

 破壊されたのは、故郷リッカウだ。

 領民も屋敷の使用人も、もうリーヴのもとにはいない。

「私を抱えた老いた修道女が船に乗りこんで、港から港へ、いろんな国を渡り歩きました」

 洞窟を通ってきたのだ。

 ひとりで。

 領地も家督も王太子の愛も、その妃の地位も失った以上、誰の助けも求めるわけにはいかない。

「私がひとりで旅ができるのを見届けたかのように、修道女は亡くなりました」

 リーヴを送り出してから2カ月は経っているが、トゥオーマリは元気だろうか。

 海岸の辺境ソーデルへとサイを牽いて去っていった、あの若い兵士は……?

「この国の港にたどりついたのは最近のこと」

 港など、見たこともない。

 豪商アヘヌスが、そこから来る品を扱って財を成したと言っていたので、思いついただけだ。

「でも、この傷は私が長じると共に大きくなって……」

 ヴォーダンに斬られたところから、少しずつ、ほつれてはいる。

 だが、トロールの正体を晒すほどではない。

「膿んで爛れて、とうとう、服で隠せないほどになってしまいました」

 本当の肌は、傷一つついてはいない。

 ただし、魔法の衣がどんな形を取ろうと、襟元から傷が見えるのはどうにもならなかった。


 大きな嘘ほど追及しにくいものだ。

 さらにリーヴは、背中まで震わせてみせる。

「だから、私は剣が嫌いです。あらゆる武器が嫌いです……すみません、いつも戦ってる警備隊長さんに」

 振り向くと、九割九分九厘まで嘘で塗り固めた自分の人生に感極まって、涙までがあふれてくる。

 剣舞を磨けば、こんなこともできるのだった。

 もういい、とでも言うように首をふったヴォーダンは尋ねた。

「その薬の……材料は?」

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