美しい女詐欺師は豊かな胸元を晒して王都警備隊長の追及をかわす
「さて……」
咳払い一つしてみせて、リーヴは話をそらした。
だが、もともと、病室を訪れた用件は、これだった。
「ウニコールをご存じ?」
ヴォーダンは、何の話かという顔で目を瞬かせた。
リーヴが黙っていると、しばし天井を眺めて何か考える。
ベッドに座ったまま、身を乗り出してきた。
「学がなくてな……何だ、それは?」
「ユニコーンの角から取れる薬です」
満面の笑みをたたえて答えるリーヴに、ヴォーダンは乾いた笑いをたてる。
やがて笑顔はくすくすという声を伴い、空虚な笑いは、腹を抱えるほどの大声になった。
やがて、ヴォーダンは大真面目な顔でリーヴを見据えた。
「そんなものはいない」
リーヴも、何事もなかったかのように切り返す。
「もののたとえです。東洋では、ドラゴンの骨とも言います」
学がないと自分で言っている男に分かるように、リーヴは例を引いて言い直した。
たちまち、ヴォーダンは身を乗り出す。
「どんな薬だ?」
「万能の薬です。すべての病を治し、壮健で頑強な身体を作ります」
フリルのついた襟元の豊かな胸を反らし、自信たっぷりに答えてみせる。
だが、王都警備隊長は慎重だった。
ベッドに深く腰掛けて、ゆっくりと念を押す。
「そんなものが本当にあるのか?」
リーヴは仰々しく答えると、籠の中のリンゴを取り出した。
「百聞は一見に如かず、と申します」
バカにするな、という目つきで睨みつけるヴォーダンの目の前に差し出したのは、籠の方だった。
ベッドに歩み寄ると、その底にある一粒の真っ白な丸薬を示す。
ヴォーダンは、小さな籠に顔を突っ込まんばかりに目を寄せた。
「これが……?」
手を伸ばしたところで、リーヴは籠を引っ込める。
それを追う顔を、冷ややかに笑って見下ろした。
「最後の1錠です。試供品というわけにはまいりません」
ヴォーダンも、不敵に口元を歪めた。
「本物だという保証もないぞ」
するとリーヴは、最後の一粒だと自分で告げた丸薬をつまんで、口の中に放り込んだ。
あっという顔をするヴォーダンには知らん顔をして、ベッドの脇に置かれた鋼鉄の長い棒を手に取る。
「……これは?」
およそ病室には似つかわしくないものだった。
ヴォーダンは面白くもなさそうに答える。
「寝てばかりでは身体がなまるんでな。警備隊の稽古場にある一番重いやつをイリミエに持ってこさせた」
部下の名前を口にするのは辛そうだったが、それには構わない。
命中したらさぞかし痛かろうと思われる太い鋼の棒を、リーヴは無造作に両手で掴んだ。
見る間に、そこには堅牢この上ない飴細工が出来上がった。
「いかが?」
だが、ヴォーダンは秘薬の効果にそれほど驚きもしなかった。
見つめているのは、リーヴの豊かな胸元である。
本来はその谷間が見えるほどなのであろうが、そこはフリルのついた襟で隠されていた。
ヴォーダンが、ぽつりと尋ねた。
「いつも服が違うのに、それだけはずっと同じだな」
とうとう来たか、とリーヴは思った。
令嬢マサイルが「食べても太らない身体になる薬」が効きすぎて、憧れの貴公子の誕生会で暴飲暴食の恥を晒した夜のことだ。
宴会場から脱け出したリーヴが、魔法の衣が変じた黒装束をまとって、庭から高い壁を乗り越えて逃げた先に、警備中のヴォーダンがいた。
トロールの腕で吹き飛ばそうと脱いだ衣を、その剣の切っ先が掠めたのだった。
魔法の衣は、服だけでなく、人間の肌をも作り出す。
その裂け目から覗いているのは、緑青色をしたトロールの肌だ。
「体質なんです。この季節は、肌が荒れやすくて」
ごまかすだけでは足りない。
リーヴは、敢えてフリルつきの襟に手をかけた。
晒された胸元のふくらみに、ヴォーダンは顔を赤らめて慌てる。
「待て、そこまでしろとは……」
だが、リーヴはその目の前に歩み寄った。
服の襟元を開いて、両手で乳房の間をかき分ける。
そこには、緑青色の傷が浮かんでいた。




