王都警備隊長は慣れないデートに美貌の女詐欺師を誘い出す
ヴォーダンが最初に指定した支払いの場所は、王立美術館だった。
天地創造神話を描いた壮大なフレスコ画に埋め尽くされた天井が、どこまでも続いている。
立ち並ぶ太い大理石の柱には幻獣の姿が浮き彫りにされ、その間には、展覧会の優秀作が並んでいる。
かつては、ここに画家カテオスの絵も飾られていたことだろう。
リンゴと本の静物画を眺めながら、ヴォーダンはつぶやいた。
「カテオスは、こういう絵から始まったんだと。俺にはさっぱり分からんが」
その傍らに立つのは、落ち着いた紺色の外出着をまとったリーヴである。
「……私にも」
微かな声で囁いたのは、それだけだった。
石畳の廊下の向こうから、かつんかつんという足音が聞こえてきた。
マントを羽織り、フードを目深にかぶった男だった。
ヴォーダンがリーヴに囁く。
「ここの警備員だな。まだ新米だろう。こんな場所では足音を立てんものだ」
その場を離れられるようリーヴをエスコートすると、その背後を、警備員は足を緩めて通り過ぎた。
だが、すれ違いざまにリーヴをじろりと睨んだような気がする。
「あの、私……何か?」
おずおずと尋ねたのが意外だった。
いつものリーヴなら、もっと気の利いた皮肉の一つや二つは言うところだ。
代わりに、ヴォーダンのほうから冗談を返してみる。
「美人だからかな」
自分でも、たいして面白くないと思った。
ヴォーダンがリーヴを招いていったのは、美術館の資料室だった。
壁の本棚には、分厚い革表紙の本がぎっしりと並んでいる。
窓といえば天井に明かり取りの窓があるだけだ。
扉も、入ってきたもの一つだけだ。
それを後ろ手に閉めて、ヴォーダンは部屋の中を見渡した。
「ここなら、誰にもじろじろ見られない」
真ん中にあるテーブルに座ると、椅子を引いてリーヴに勧める。
「特別に、貸してもらった」
「でも……」
心なしか、肩が震えていた。
いつもは、もっと堂々と構えていたはずだった。
その豹変ぶりにヴォーダンは少し慌てたが、やがて吹き出した。
「俺が……何かするとでも?」
テーブルの向かいに座ると、リーヴは顔を背けて身をすくめた。
「……いいえ」
「じゃあ……オウカンハクチョウの舌の代金を」
ヴォーダンが促すままに、リーヴは掌を差し出した。
懐から取り出した袋を開けて、取り出した金貨をその上に置いた。
リーヴのわななく唇から、息が漏れる。
「1枚……」
ヴォーダンは、リーヴが金貨を数えている間に、今まで話したこともなかった生い立ちを語りはじめた。




