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若き貴族隊員の語る悲恋に女詐欺師も心を動かすが、王都警備隊長は本題を忘れていることに気付く

 天井板を外すと、そこからは、小さな金属製の箱が出てきました。

 侯爵が中身を改めようとしましたが、鍵がかかっていて、開けることができません。

「許せ……」

 呻くようにつぶやいた侯爵は、机の引き出しや、クローゼットを片端から開けては中を探ります。

 箱の鍵を探していたのでしょう。

 しかし、そこで叫んだ者がありました。

「おやめください!」

 秘書でした。

 小柄な身体を強張らせて、ぶるぶる震えています。

 侯爵も怒りに目を剥きました。

「貴様ごときが何を……」

 男ふたりが掴み合いを始めるのではないかと、私も警戒しました。

 ところが、どちらも動きません。

 しばらく睨み合ってから肩を落としたのは、秘書のほうでした。

「姫様のことをお思いなら、残してゆかれたものを、そっとしておいていただけませんか?」

 侯爵は返事もしないで、机の引き出しや、クローゼットの扉を閉めてゆきます。

 やがて、ぼそりとつぶやきました。

「娘の遺品を整理したのは、お前であったな」

 今度は秘書が、返事もしないで机の上の箱へと歩み寄ります。

 そこで、懐から取り出したものがありました。

 

 リーヴが、口元に哀しげな笑みを浮かべた。

「箱の鍵……」

 イリミエは、意味ありげに尋ねる。

「では、幽霊騒動は何だったと思われますか?」

 ヴォーダンは、きっぱりと言い切る。

「その箱を侯爵の前で見つけ出すために、一芝居打ったんだ」

「それなら、なぜ、クビになってまで無駄足を踏ませたんでしょうか?」

 イリミエが更に踏み込むと、今度はリーヴが答えた。

「絶対に、侯爵に見せなければならないものが入っていた。でも、見られても困るものだった……」

「賭けだったのさ。たぶん……ご令嬢のための」

 ヴォーダンが言葉を引き取ったところで、イリミエは悔しげに微笑した。


 箱の中には、ご想像通りのものが入っていました。

 ランプの光に照らし出されたのは、手紙の山だったのです。

 その宛名を見て、公爵は涙にむせび泣きました。

「おお……何というものを隠していたのだ、我が娘は!」

 震える手で手紙を開けようとすると、再び鋭い声が止めました。

「おやめください!」

 秘書でした。

 侯爵は、獣のごとく唸ります。

「口を出すな……私の娘のことに」

 しかし、秘書は黙りません。

 侯爵の手から手紙をひったくると、目の前に、その文面を開いて突きつけました。

「私のことです……私と、お嬢様のことです!」

 秘書の目からは、とめどない涙がこぼれました。

 全てを察したのか、公爵様はただ一言、微かに漏らしただけでした。

「娘が、お前ごときと……」

 しかし、秘書は貧弱な身体から凛とした声を発して答えました。

「はい、愛し合っておりました」

「ならば、なぜ隠しておったのだ、我が娘は!」

 侯爵は、丸めた背中を震わせていました。

 それを見下ろして、秘書が冷ややかに告げたのは、この言葉でした。

「お許しいただけないと分かっていたからこそ、病にやつれていったのです」

「死ぬまで隠していたというのか、父親に」

 机に向かう娘を叱るかのように、公爵は椅子の背もたれにしがみつきました。

 はい、とはっきり答えた秘書が放ったとどめの言葉は、これです。

「全ての秘密を胸に秘めて、お嬢様は私に、この箱の鍵を託されたのです」

 

 しばらくの間、ヴォーダンもリーヴも口を開くことができなかった。

 やがてリーヴが、ふう、と息をついた。

「いいお話ね……でも、あれ?」

 ヴォーダンも、はたと気付いて声を上げた。

「おい、そういえば、機密文書はどうなった?」

 そこでイリミエは、ようやく事件の結末を語ることができた。

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