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美貌の女詐欺師に見守られた若き貴族隊員は、王都警備隊を率いて不可能犯罪に挑む

 はい、とリーヴは笑顔で手を上げた。

 どうぞ、とイリミエが微笑むと、素朴な質問が投げかけられる。

「お金持ちの数は限られています。次の犯行場所を絞り込んで、見張っていればいいんじゃないでしょうか? 一度盗みに入ったところに、二度入ることはないでしょうから」

 ヴォーダンが苦笑いした。

 イリミエはもっともらしく頷くと、恭しく答える。

「ごもっともです。ところが、それを平気でやるのです。蛇男は」

 負けじとばかりに首を捻って考えたリーヴは、ややあてずっぽうに返してきた。

「じゃあ、隠れ家を出てくるところを押さえれば……」

 イリミエは、そこで手を叩いた。

「まさにそれです。怪しい者が出てくれば、片端から尾行するつもりでした」


 ある夕暮れどき、カンテラを提げてやってきた辻馬車に、一人の男が乗り込みました。

 すぐさま馬で後を追いましたが、呼び止めるまでもなく、馬車はすぐ止まってしまったのです。

 御者が下りてきて、逆に私たちの馬を止めました。

「警備隊の皆様、私に何か御用でしょうか?」

 その場で馬車を改めましたが、誰も乗っていません。

 誰か乗せなかったかと聞きましたが、乗せていないと言い張ります。

 絶対に怪しいと思いましたが、証拠がないので、そのまま帰すしかありませんでした。


 ヴォーダンは、「それでいい」と言った。

「疑いだけで人を捕らえられんこともないが、俺が隊長を務めるうちは許さん」

 その険しい顔を見て、リーヴがからかう。

「怖いところですね、王都警備隊って」

 ああ、とヴォーダンは答えた。

「あらゆる手を尽くして、国王の都の民を守るのが我々の務めだ」

 その言葉に、イリミエは口元を引き締める。

 リーヴは、やはりからかい半分に話を急かした。

「それで手詰まりかしら? ……隊長代理さん」

 イリミエは、余裕たっぷりに前髪をかき上げてみせた。

「難問は分割せよ……という言葉をご存じありませんか?」


 僕は考えました。

 この謎は、2つの問題に分けることができるのです。

  

  問題A「蛇男は、隠れ家から出ている」

  問題B「走っている馬車の中から人が消える」



 問題Aは、さらに2つの断片に分けられます。

  

  断片W「蛇男は」

  断片X「部屋から出ている」


 WとXは、どちらかが間違っています。

 もし、Wが間違いなら、部屋から出たのは別人です。

 Xが間違いなら、蛇男は部屋から出ていません。


 そこでヴォーダンが口を挟んだ。

「俺なら、部屋に踏み込む。蛇男が部屋にいれば、捕まえることができる。別人なら、頭を下げるだけのことだ」

 やっぱり怖い、と笑ったリーヴは、イリミエの目をじっと覗き込む。

「それで……いたんですか? 蛇男は」

 イリミエは苦笑した。

「やられました」


 カーテンに映っていたのは、窓際の机に向かって座らせた人形の影でした。

 最初から、蛇男はそこにいなかったのです。

 僕たちは何日も、夜になるとカーテンに映し出される人形の影を見張らされていたことになります。

 しかし、それは「部屋から出ていた」ということでもあります。

 

 問題A「蛇男は、隠れ家から出ている」の謎は、これで解決されました。

 

 今度は、問題Bです。

 

  走っている馬車の中から人が消える。


 これも、2つの断片に分けられます。


  断片Y「走っている馬車から」

  断片Z「人が消える」


 もし、Yが間違っていたらZは正しいことになります。


  止まっている馬車から、人は消える。


 あるいは、Zが誤っていればYは正しいことになります。


  走っている馬車から、人が消えることはない。

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