美貌の女詐欺師は若き貴族隊員の自己アピールに気付くことはない
「どうやって引っくり返した? その理屈」
ヴォーダンの問いには、期待の響きがあった。
イリミエは、得意満面で答える。
「箱の端が平らではなかったので、主に理由を聞きました」
「隙間があったのはなぜ?」
心なしか弾んでいるリーヴの声に、イリミエも浮かれる。
「少しでも動かせば音がします。それが箱に響けば、大きな音になって聞こえます」
そこで、ヴォーダンは手を叩いた。
「つまり、問題はこの3つだ」
差し出した手で、指を折ってみせる。
「ひとつ……鍵のかかった倉庫にどうやって入ったか」
次の指を折る。
「ふたつ……どうやって蓋を動かしたか」
最後の指を折る。
「みっつ……なぜ、音が聞こえなかったか」
リーヴに見つめられて、イリミエは胸に手を当てると、芝居がかった一礼を返した。
ヴォーダンに向き直ると、最初の謎を解く。
「経理係が倉庫に入ったのは、倉庫が開いた後です」
満足げに腕を組んだヴォーダンは、相槌を打つ。
「そうだろうな。箱を動かせるわけがないから、シラを切れたんだ」
続いて、イリミエは次の謎について、流暢にまくしたてた。
「箱の隙間に差し込んだ古い革袋に、倉庫点検の間に飲み口を使って少しずつ葡萄酒を流し込んでいったんです。入り口側には新しい葡萄酒を、奥には古い葡萄酒を使いました。飲み口付きの葡萄酒の残りを倉庫番に差し入れれば、飲酒を隠すために革袋を処分してくれます」
最後に、リーヴへと向き直る。
驚いたように目を瞬かせるところへ、すかさず最後の謎を解き明かす。
「新しい葡萄酒は発酵が進むので、袋は膨らみます。膨らんだ袋は入り口側が破れ、蓋は入口の側に傾いで落ちて割れます。倉庫番が割れた蓋に気付いて駆け出したところで倉庫に忍び込み、神像を懐に入れたんです」
ヴォーダンは、目を閉じたまま何度も頷いた。
だが、リーヴはイリミエの推理の穴を突く。
「その場で身体検査をされたら、どうするつもりだったのかしら?」
事もなげにイリミエは答えた。
「神像は返ってきたんです。自分には不可能だと言い張れば、主がかばってくれると計算したんでしょう。あの経理係がいないと店が回りませんから」
詰めの問いは、ヴォーダンの役目だった。
「動機は?」
「ウィキナ大公国で支店を出したいと主に頼んでも、承諾が得られなかったんだそうです。それならいっそ、自分があらたな創業者になってやろうと……」
すかさず答えたイリミエに、リーヴはようやく称賛の声を贈った。
「よく気付きましたね、葡萄酒の仕掛けに」
イリミエは、意味ありげに微笑む。
「……新しい葡萄酒は、古い革袋を破る、ですよね? リーヴさん」
だが、返ってきたのは訝しげな、きょとんとした顔だった。




