若き貴族隊員は最初の難事件の現場と、怪しげな人物との対峙を王都警備隊長と女詐欺師に語る
イリミエの不敵な笑いに、ヴォーダンも面白そうに応じる。
「何が起こっていた?」
「蓋となった石が押し落とされて割れていました」
興味津々と言った顔で、リーヴも尋ねてきた。
「箱の中は?」
「空でした。しかし、中は葡萄酒で濡れていました」
手がかりらしいものが出てきたところで、ヴォーダンが確かめたことがある。
「周りにはこぼれていなかったのか?」
「破れた革袋が散らばっていただけです」
なるほど、とヴォーダンは納得した。
葡萄酒よりも、むしろ革袋のほうが重要だと考えたらしい。
今度はリーヴが尋ねた。
「他に無くなったものは?」
「経理係に調べさせましたが、なくなったのは神像だけでした」
つまり、目くらましではないということになる。
リーヴも納得したところで、ヴォーダンは関係者の行動を洗い出しにかかった。
「倉庫番は、なぜ知らせに走った?」
「中で、大きな音がしたからです。開けるには、警備役に頼まなければなりません」
イリミエが新たな障害を示すと、リーヴは容疑者の絞り込みにかかった。
「警備役は、倉庫の中を改めたの?」
「警備役は、中に踏み込まないことになっています。棍棒を手に立てこもられると困るとかで。箱の蓋が割れているのを見て、経理係を待ちました」
リーヴは、何か確信を持ったようだった。
「最後に倉庫を確認したのは?」
「その経理係です。毎晩の点検も仕事の内です」
イリミエがちょっと意味ありげに瞬きしてみせると、ヴォーダンも何か察しがついたようだった。
「どんな男だ?」
「小柄な初老の男です。長く務めてきた、店の土性骨だとのことでした」
ゆっくりと頷きながら、リーヴは詰めの問いかけをする。
「神像がないのに気付いたのは?」
ご明察、とでも言うようにイリミエは頷き返す
「経理係です」
すると、ヴォーダンはイリミエを見据えた。
「ほぼ、そいつに間違いないが……なぜ、そいつだけでも身体検査をしなかった?」
落ち度を問いただすかのような口調に、イリミエは悠然と答えた。
「万が一、間違えたら隊長代理の面子に関わりますので、慎重に」
その皮肉に、リーヴはくすっと笑った。
イリミエが照れ笑いをする隙を突いて、話の先を急かした。
「経理係は、誰に疑いをかけました?」
「身体の大きい、若い倉庫番です。鍵のかかった扉の前で、寝ずの番をするのが仕事でした」
その苦笑に、ぼそりとヴォーダンはツッコんだ。
「寝ていたんだな」
はい、とイリミエは頷く。
「毎晩、飲み口つきの革袋で葡萄酒の差し入れをもらっていたそうです」
リーヴは、意外そうな顔をした。
「誰に?」
「経理係が自分で白状しました」
さらりと答えるイリミエに、ヴォーダンが妙な感心をした。
「大した自信だな」
イリミエは、憎々しげに答える。
「言い切りましたよ、この石の蓋の重さと厚さからして、他の者には無理だと」




