雉も鳴かずば撃たれまいに、わざわざ贈賄を暴露した老画家への皮肉から女詐欺師の正体が露見しそうになる
ヴォーダンが語る画家カテオスの物語を聞き終えたリーヴは、冷ややかに尋ねた。
「……それで?」
「審査員は、鋳損ないの銅貨1枚受け取ってはいなかった」
ため息混じりにヴォーダンは答えた。
リーヴも、鏡合わせにため息をついてみせる。
「王都警備隊に訴えたんですね? カテオスさんは」
ああ、とヴォーダンは苦笑いした。
「最寄りの警備隊詰所に駆け込んで、半狂乱になって喚き散らしたらしい」
「さぞ、困ったでしょうね……隊員の方も」
同情してみせると、気の毒そうに、ヴォーダンは頷いた。
「ちょうど、若いのしかいなくてな……どこの誰とも名乗らず、訳の分からないことを口走る爺さんを、帰れ帰れと軽くあしらったんだとか」
「怒ったでしょう、カテオスさんは」
部下の指導がなっていないと、叱りつけるかのような口調でリーヴは相槌を打つ。
ヴォーダンも、もっともらしく答えた。
「束ねていた髪を振り乱して、昔話のトロールのような形相になったとか」
そんなふうに見えるのかと思って、リーヴはしばし口ごもった。
咳払いひとつでごまかすと、ヴォーダンは何を勘違いしたのか、バツが悪そうに話を本筋に戻した。
「さすがにうろたえて後ずさるところに、ちょうど帰ってきたのが古参の隊員だったとか。庶民の出ながら物の分かった男でね」
「カテオスさんを知っていたんですね?」
やっと安心したという顔で口を挟んできたリーヴに、ヴォーダンも頭を恥ずかしげに答えた。
「すぐさま、若い隊員の邪険な扱いを詫びたらしい。そこで丁重に本部へお連れして、イリミエに話を聞いてもらったというわけです」
今度は、リーヴが苦笑する番だった。
「騒がなければ、バレなかったのに」
そこへ、病室のドアを開けて入ってきた者がいた。
リーヴをじっと見つめるヴォーダンを見て、息を呑む。
咳払い一つして口を挟んだのは、イリミエだった。
「東洋では、雉も鳴かずば撃たれまいと言うとか」
「黙ってろ、イリミエ……ノックもしないで」
不機嫌そうに叱りつける庶民の出の隊長に、代理を務める貴族隊員は小さくなる。
その目がちらりと向けられたのにリーヴは気付いていたリーヴは、いかにも気の毒そうに言った。
「……おしまいね、巨匠カテオスも」
知らん顔されたイリミエは、余計にしょげ返る。
その様子を眺めやって顔をしかめてみせたヴォーダンは、再びリーヴの顔をまじまじと見つめた。
「それで、この仲介者っていうのが、たいそうな美人だったとかで……あなたみたいな」




