女詐欺師となったトロール姫の最初のカモが、王都警備隊で泣き言を垂れる
王都警備隊といっても、その詰所は狭い路地にあることが多い。
犯罪の起こりやすいところを、点と点をつなぐように置いたほうが本部への連絡がしやすいからだ。
そこへ呼びつけられたシュトレング男爵家の長子ライスクは、「貴賓室」と呼ばれている取調室に通されるなり、応対した貴族隊員のイリミエに泣き言を垂れた。
そこへ呼びつけられたシュトレング男爵家の長子ライスクは、「貴賓室」と呼ばれている取調室に通されるなり、応対した貴族隊員のイリミエに泣き言を垂れた。
聞いてくれるんですよね? 信じてくれるんですよね? 私の話。
絶対捕まえてください、あの女。
名まえはスピーゲレイ……そう、姓は知りません。聞く必要はなかったし、その間もなかったので。
あの女、会ったその日に、馴れ馴れしくも言ったんです。
「よろしいのですか?見たところ、それなりのご身分の方のようですが」
そりゃ、昼日中から街中をブラブラしてたのはよくなかったと思います。
それが格好悪くて、つい、拗ねたことを言ってしまいました。
「いいんですよ、もともと才能がないんです……学問だの武術だの」
真顔でたしなめてきましたね、あの女。
「それなりのお立場になったとき、困りますよ」
あの美女ですから、私もつい、ふんぞり返りました。
「大丈夫です、社交界で困らなければ、それなりの家柄の令嬢を捕まえて、当主としても……」
そこでやってきたのが、私の従者でした。
馬車で迎えに来たんです。
「すぐにお帰りください、お父上がお怒りです」
美女の手前、格好悪いので、つい、叱りつけてしまいました。
「僕のフリしろって言ったろう」
「無理ですよ、若様そっくりなんて」
困り果てて口答えするので、つい、あの美女に言い訳してしまいました。
「ね? どっちみち、僕の代わりなんて誰もできないんです。やれやれ」
今思えば、それが間違いだったんです。
あの女……スピーゲレイは、こう言いました。
「そうでもありませんわ。あ……お付きの方、お顔に汚れが、ほら」
あの従者、美女に見とれて、鼻の下を伸ばした顔を手鏡に映してもらっては、ハンカチであちこち拭いてもらったものです。
その晩のことでした。
従者が、あの女の伝言を持ってきました。
身代わりは務めてもらえますので、どうぞ、お越しください。
半信半疑でしたが、使いを頼まれることの多い従者なので、どこかであの女と会っていても不思議はありません。
伝言通りに無事、屋敷を抜け出すことができました。
馬車の御者台で待っていたのは、あの女です。
目隠しをして連れていかれたのは、どこかの空き家でした。
その暗い部屋で、あの女は手鏡を取り出して言いました。
「あれは、この鏡で作った、お付きの方の分身です」
まさかと思っていると、そこで映したのは、私の顔です。
あの女が手鏡をポンと叩くと、その中からもうひとりの私が飛び出してきました。
「分身には、お付きの方として身代わりを務めてくるよう申し伝えてあります。ライスク様がお帰りになれば、姿を消しますので、ご心配なく」
そこで、私に勧めるのです。
「お買い上げくださるなら、これから一席設けましょう。ツケで結構です。お楽しみの間に、身代わりのライスク様を、こっそりお屋敷まで送ってまいります。お支払いはお迎えの際に、鏡の代金と共に身代わりに持たせてください」
その場で買い取りを約束しますと、また目隠しをされて、馬車で盛り場まで連れていかれました。
夜明けまで盛り場で遊んでおりますと、あの女が迎えに参ります。
鏡の代金を尋ねますと、とんでもない額を吹っ掛けてきましたが、払えないことはありません。
屋敷まで送ってもらって自室に朝帰りをして、待っていた私の身代わりに、鏡の代金とツケの支払いを渡しました。
手鏡を持って戻ってきた身代わりは、あの女の伝言を残して消えてしまいました。
ご自分に最も深く関わることは、任せてはいけません。




