女詐欺師として王都に名を馳せたトロール姫は、自ら警備隊長と接触する
その数日後のことである。
昼下がりの街は、いつもの通り賑やかだった。
貴族たちの馬車が行き交う表通りを離れれば、物売りが露店を連ねる裏通りはすぐに見えてくる。
庶民たちの雑踏の中を、リーヴは微かに歌いながら歩いていた。
起きて働く果報者
寝ては食うだけ怠け者
己を果報と思わば思え
我が身を知らぬは阿呆者
そこで、ふと気づいたことがあった。
露天商が店の前に出している粗末なテーブルを挟んで、逞しい男と、色の白い若者とが何やら話し込んでいる。
共に腰には剣を提げ、揃いのマントを羽織っている。
藍色のマントには、一角獣と飛龍が白い線で染め抜かれていた。
王都グランナミアの、警備隊の制服である。
この数日でリーヴが最も警戒してきたのは、彼等だった。
人混みに紛れて耳を澄ますと、そのやり取りが聞こえてきた。
「美貌の女詐欺師? 芝居の見すぎだ、イリミエ」
「それがですね、隊長。もう街中、その噂でもちきりなんですよ」
隊長と呼ばれた男は、イリミエとかいう若い隊員よりも少しばかり年長に見える。
通りすがりの中年の男が、よお、と挨拶して去っていった。
街中では、気さくな隊長で通っているらしい。
あちこちで聞く、その名前をリーヴも覚えてしまっていた。
ヴォーダン・シグルド。
軍人貴族の生まれながら、街の警備隊長に甘んじているらしい。
そのヴォーダンは、串に刺した鶏肉をむさぼり食いながら、部下の報告をはねつける。
「どうせ、根も葉もないデタラメだろう。ほっとけ」
「ところが、その葉っぱの根っこが訴えて出てきました」
自信たっぷりに言い返すイリミエを、ヴォーダンは面白くもなさそうにからかう。
「何だ、今度はおとぎ話か?」
「いえ、もののたとえです」
涼しい声で答える部下に向かって、警備隊長は不機嫌そうに顔をしかめた。
「……学がないと思ってるな?」
「……仕方がありません、僕の方が家格は上です」
皮肉っぽく顔を背けるイリミエを、ヴォーダンは問いただした。
「釣られたマヌケな魚のほうか?」
「魚のほうです」
メンシュリヒ王国辺りの隠語では、詐欺の被害者を「マヌケな魚」と言う。
確信を持って隠語で答える部下に、王都グランナミア警備隊長はぼそりと命じた。
「そいつを詰所に連れてこい」




