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王太子妃に返り咲くための持参金を自分で稼ごうとするトロールの姫は、元最高判官に子供時代の悪事を持ち出されて叱られても全くこたえません

 ヒルヴィーオ王国の最高判官まで務めた男が、はっきりと認めた。


  だましたもの勝ち。

  強い者が全てを取る。


 幼い頃の家庭教師だったトゥオーマリの教えを久しぶりに受けて、リーヴは決意した。

 椅子から立ち上がるなり、掘立小屋の低い天井を見上げる。 

「そう! 持参金なんか、自分で稼げばいいのよ! レイフがくれたものなんか、残らず金に換えてやる!」

 ただし、レイフは魔法の道具を贈ったとき、こう告げた。


 (用がなくなると、効き目もなくなるよ)


 問題は、効果がなくなるまで、どこでどう使うのかということだった。

 だが、トゥオーマリは整然と椅子に腰掛けたまま、リーヴを見上げた。

「そこがよくない」

 正反対の叱られ方をして、リーヴは戸惑いながらも尋ね返した。

「それがトロールだとおっしゃったではありませんか」

 揚げ足を取られて言葉を失ったトゥオーマリは、苦しげに付け加えた。

「……あなたも、あの王族たちと同じになってしまいます」

 今度は、リーヴが言葉に詰まる番だった。

 ようやくのことで、これだけ口にすることができた。

「……私は、違う」

 筋道の通らないことを言っているのは、お互い様だった。

 トゥオーマリは居住まいを正して、改めてリーヴに尋ねた。

「では、聞こう……イーニャとはいかがでした?」

 いちばん、思い出したくない名前だった。

 それでも、いちど決意したことを翻す気はない。

 気持ちだけは、正直に答えた。

「イーニャは王都で、子供の頃からレイフと一緒でした。私は……いいなって思ってました」

 満足げに頷いたトゥオーマリは、さらに問いかけた。

「よく、リッカウにも来ていたな」

「スヴェン殿は、父と付き合いがありましたから」

 この名前も、できれば口にしたくない。

「よく遊んだな」

「とっても大人しい子だったのに」

 これは本心だった。

 素直で人を疑うことを知らない女の子が、なぜ、あんなに陰険にレイフを奪い取っていったのか。

 そこで、トゥオーマリは厳しく問い詰めにかかる。

「よく出し抜いていましたね、リーヴ殿は」

「そうでしたか?」

 心当たりがない。

 なにしろ、子どもの頃のことだ。

 だが、かつての家庭教師は昔のことをよく覚えていた。

「じゃんけんはいつも負ける方を出させ、カードは配ってからが勝負だと言っては切るときに盗み見ていた」

 そんなことがあったかもしれない。

 だが、今となっては悪いとは思えなかった。

 たぶん、そのときも、そうだっただろう。

「母の教えです」

「……肝心なことを教える前に世を去ったということか」

 トゥオーマリは額を押さえて深くため息をつく。

 それも面白くなかった。

 母の記憶はおぼろげだが、共に過ごした時が満たされたものでなかったとは認めたくなかった。

「勝てばいい。それがトロールです」

 母に教わったことを、そのまま口にする。

 トゥオーマリは真顔で叱りつけた。

「それで負け続けた者の気持ちを考えたことがありますか」

 負けた側になった今、自ら身を引けと言っているのだ。

 リーヴは、確信を持って答えた。

「ありません」

 そのとき、トゥオーマリは不思議な笑みを浮かべた。

「リッカウで収穫されたものを売らなければ、宰相は娘の持参金を得られません。冬が来るまでが勝負です」

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