ラッセル、捕まる
目が覚めたら夜は明けていて、三頭の茶色い牛が俺を見ていた。
「ああ…?」
なんで野原に牛がいるんだ?
「あっ、誰だおまえ!」
男の声が耳に入る。声のしたほうを見ると、若い男が一人、杖を持って走ってくる。
「お前、泥棒か?」
いきなり疑われたぜ!まあ殺人ならたくさんやってるんだけどね。
「泥棒だなんて、違うぞ俺は」
「じゃあなんで僕の農場にいるんだ」
「農場?」
見渡せば、あちこちに牛がいる。
「ここは農場なのか」
「すっとぼけても無駄だ!おーいみんな、来てくれ!牛泥棒だ!」
あっという間に俺は囲まれた。そのへんの軍隊より統率が取れてるかもな。
「こいつか?」
「ああ、俺の農場で、寝っ転がって隠れてたんだ!」
「泥棒め、考えが甘かったな。トゥラーキカは村で一番目がいいんだ」
俺、このままじゃ泥棒扱いで処刑ルートだ!こいつら殺して逃げてもいいけど、それじゃ気分悪いな。よし、言い訳タイムの始まりだぜ!
「俺は夜中に盗賊に追いかけられて、ここまで逃げたんだよ。そこで疲れて、ひとねむりしたというわけだ。泥棒なんかじゃあないぞ」
「嘘をつくな!どうせ牛を狙ったんだろ?顔からもれ出てるぜ、他人のものを盗んで生きてきた、そんな浅ましい骨の形だ!」
「ホントなのに。」
ちょっとは嘘ついてるけど大体ほんとだ。信じてくれよ!これまで善良に生きてきたのに、こんな疑われ方なんてあんまりだ!
そういうわけで、俺は両手を縛られたまま歩かされ、垢にまみれたような汚らしい村の広場に行き、そこで村長と会うことになった。俺の処遇は村長が決めるらしい。俺がどうなるか決めていいのは俺だけなのに!
「村長!」
「おお、お前たちどうしたんだ、こんなに集まって」
妙に凝った装飾がされた大きめの家から出てきたのは、一人の老人だった。着ている服も、他の村人より少しいい布でできている気がする。
「こいつが私の牧場から牛を盗もうとしてたんです」
「ちげーよ!」
「お前は黙ってろ!」
「ふむ、それは厳しく…いや、あなたは…」
老人は俺の顔をまじまじと見つめる。いくらイケメンとはいえ照れくさいぜ。
「この者を放しなさい」
「ええっ」
ざわざわと声がする。急に言われて納得できないんだな。
「この者に、私は大事な用がある。だから頼む、放してやってくれないか」
老人は頭を下げる。
「村長がそんなに言うなら…」
「でも村長、そいつが悪さしないよう、誰かに見張らせといてくださいよ」
そんなことを言いながら、村人の一人が手の縄を解く。朝以来の自由だ!
「ありがとう村長」
「礼などよいのです。これからする話に比べれば、こんなものは大したものではない」
「どういうことだ?」
「まあ、まずは家で話しましょう」
俺は部屋へと案内された。応接室らしく、椅子が四つに、大きい机が一つあって、ゴブリンの頭がたくさん繋げて飾ってある。
「それで、何か話があるようだったが」
「…あなたは、アルゴ・ロンドで間違いありませんな?」
「ああ、そうだ」
ここは都にも近いし、俺のこと知ってる人がいてもおかしくないな。
「よかった。私はヤツクゥス。この村の村長です。早速ですが、あなたは大商人ラッセルと知り合いでしょう」
「そうだ。色々と取引もしてる。」
「ラッセルは、今捕まっています。これから数日のうちに処刑されるでしょう」
「何だって!?」
「あなたを支援したことがあなたのいたギルドに知られて、そのためにあれこれと罪を着せられ、殺されかかっているのです」
「どこだ?どこで処刑される?」
「そこまでは知りません。しかし都の中であるということまでは聞いています」
「わかった。だが支援のことがバレたのは妙だな。ラッセルは慎重に痕跡を誤魔化してたはずだが」
「『征制屍地』…あなたがいたパーティですね…そこのヨーゼフ・クロークという男が探り当てたのです。彼の擁するスパイ組織の情報収集能力は非常に高いものですから」
スパイか。たしかクロークがそんなことを話してた覚があるぞ。いかにも陰気で、あいつらしいや。
「情報、本当に感謝する。それにしても、なんでそんなに俺に親切なんだ?」
「私はラッセル氏に大きな恩があります。それを返したくても、私の力では及びません。せめてあなたを助けることだけしかできないのです。」
「いや、十分だ。ラッセルは絶対に助けるし、お前のことは本人に伝えておく」
「それに…」
「それに?」
村長は恥ずかしそうに続けた。
「昔から、あなたは私の憧れなのです。私の父を殺した竜の首を持って踊るあなたの姿は、今でも忘れられません。」
「竜…」
竜ならたくさん狩ってきたけど、首を持って踊ったことなんてあったっけ。
「この村の近く、草原を赤く染め、あなたは竜をバラバラにして、首を掲げて、楽しそうに、誇らしげに…」
ああ、思い出したぞ。ギルドの仕事をサボって草原で散歩してたら、珍しくドラゴンが現れて、そのまま倒したんだ。それで調子に乗ってそいつの頭を被ってふざけてたら取れなくなって、暴れてどうにか脱ごうとしてたんだ。村長は遠くから見てたから、踊ってるように見えたんだな。
「そんなこともあったな。あったあった。さて、来てすぐで悪いが俺は都に戻らせてもらうぜ。友達が殺されかけてるときに、のんびりしてられないからな。」
「ええ、きっと、きっと助けてください。」
俺は家を飛び出して、都へと走っていく。待ってろよラッセル!




