魔法使い討伐!
「でっかい庭なのに、なんか殺風景だなあ。もう少し木とか花とか植えてもよさそうなもんだが」
そんな呑気なことを考えながら走っていたら、玄関の斜め上についた見張り台で誰かが大声を出しているのが見えた。
「敵襲だーっ!アルゴ・ロンドが来たぞー!」
俺は石畳の一部をはがして見張りにぶつけたんだが、手遅れだったようで、武器を持ったやつらが玄関の大きな扉から何人も出てきた。
「あいつか!」
「ああ、殺せば金貨七十枚だ!」
「どけ!俺がやる!」
ヒドロのやつ、傭兵まで雇ってるのか!数によってはなかなか面倒だぞ。
「うおおおおーっ!」
敵の槍やら剣やらを叩き折りつつ、パンチを喰らわせていく。皆胸や腹がへこみ倒れていく。そうして六人ほど倒したところで、扉の奥から火の玉が飛んでくる。
「魔法かっ!」
奥にいるのは魔法使いらしかった。それも複数。ラーの弟子なのか?
「今だ、押せ押せー!」
また新しく敵がやってくる。魔法使いの妨害を受けながらこいつらと戦うとなると、あまりに疲れてこの先戦えなくなる。
「よし、こうだ!」
周りで倒れていた敵を掴んで、魔法使い達に向けて投げつける。魔法でもその勢いを相殺しきれずに、大人一人分の質量が襲いかかる。
「うわあっ!」
「あいつ死体を投げつけやがった!」
効いているみたいだ。俺はそのまま周りの死体を投げまくり、それが足りなければ生きてるやつも掴んで投げまくり。ボールとは勝手が違うから、何回も外したけど、投げるものならいくらでもあった。そのうち敵がいなくなったので、俺は屋敷内へすたすた歩いていった。玄関では、鎧を着た兵士の下で、魔法使いの男が死体をどかそうとしていた。
「なあ」
声をかけると、男はひどく怯えた。
「は、な、なんだ」
「ラー・ヒドロは知ってるだろ?雇い主か師匠かは知らないが。あいつのいる部屋を教えてくれないか。そしたら見逃してやってもいい」
屋敷は広いからな。聞いておかないと、どこに隠れているのかわからない。
「い、言わないぞ!」
「言わない?そんなはずはないだろう、だって死んでしまうんだぞ?」
「だとしてもだ!」
「お前はもしかしたら、何か誇りなり恩なりがあるのかもしれない。でも、それは命をかけるほどのものなのか?俺は傷の手当てのための包帯と、薬も持ってる。教えてくれたならそれもつけてやる。金だって払うさ!確実に生き延びられるんだ。こんな状況から、生きて帰れるんだ。明日からは、うまい飯を食べてもいいし、サーカスを見に行ってもいい。お前は生きて、人生を楽しんだっていいんだ。そのほうがずっといいじゃないか、どのみち彼女は死ぬんだ。ほんの半日もないくらいだけあいつの寿命を延ばして、それでお前が人生を捨ててしまうことはない。あいつならきっと許してくれるさ、俺は一緒に旅してたからわかる。」
そこまで言うと、男の表情が少し変わった。どうやら迷っているらしい。うまくいくかと思ったが、この男、俺が思ったよりすげえやつだった。
「言うもんか、絶対に!何があったって、あの人を裏切ったりしない!」
俺はちょっと感動しちゃったんだよ。こんなに気合い入ったカッコいいやつだと思わなかったからさ。
「ああ、そうか…すまん、お前みたいな誠実を極めた男に、俺はとんでもない侮辱をした。どうか許してくれ。」
そう言って、俺は男の頭を握りつぶしてから廊下へ歩いていった。
「ああいう誘惑、駄目だよなあ。声かけた奴が、最高にカッコいいやつだったとき、あんまりにも惨めだし、申し訳なくなる。今度はシンプルに恫喝しよう」
反省しながらしらみつぶしにドアを破りラーを探していると、また魔法使いや剣士たちがドタドタと足音を立ててくる。
「やっぱり戦いってのは、気持ちよく、派手に、遠慮なく、気持ちよく暴れなきゃいけないよな!」
俺は敵に向けて走っていった。部屋から持ってきた椅子やタンスを投げつけていくと、一度に何人か倒せた。でもそれだけじゃあ効率が悪かったから、死体を盾にしつつ突っ込んで、腕を振り回して敵を倒した。
「しかし、一体何人いるんだ?こんなことをしている間に、ヒドロに逃げられるかもしれないぞ」
そんなことを考えていると、廊下にどこからか声が響いた。
「ごきげんよう、野蛮人さん」
「ヒドロ!どこだ!?どこからしゃべっている!」
「ここは私の屋敷よ?部屋越しに声を伝えるなんて簡単なこと」
「部屋越しってことは、逃げ出してはいないんだな。」
「逃げたりしないわよ、ここから迎え撃ってあげる」
「貧弱ヒドロにしては勇気を出したな」
「その貧弱の前であなたは死ぬのよ」
ヒドロが言い終えると、柱の上の方から電撃が飛んできた。
「なにっ」
俺は避けて、置いてあった壺を掴んで柱に投げつける。
「恐かった?屋敷のあちこちにこんな砲台があるのよ。」
すると、柱や壁、床から、火の玉や電撃が放たれる。これはかなり厄介だぞ。
「出てこい卑怯者!」
「卑怯卑劣も賢さのうちよ」
走り出して、攻撃を避けながら扉を開けていく。
「ここにもいないか!」
いるとしても、ヒドロの弟子とか、傭兵ばかりだ。
「くそーっ雑兵ばっかりだ!」
どれだけなぎ倒しても、また新しく敵が出てくる。それに部屋の繋がり方がよくわからない。大小さまざまの部屋が曲がりくねった通路で繋がって、通路から部屋に入って、部屋の中の扉を開けるとまた通路だったりするし、窓を見かけたと思ったら、中庭に出たりする。まるで迷路だ。
「迷っているようね。ここはまるで迷路のようにあなたを迷わせる!」
「まるで迷路だな」
このままじゃ、もしかすると出られなくなって、飢え死にしてしまうかもな。うまいやり方を考えないと。
「ふふふ、殺意のオリの中で死ぬがいいわ!」
「なにーっ」
魔法がそこかしこから飛んできて、時折敵の兵士も現れる。見かけたものを片っ端から壊してヒドロを探しても、なかなか見つからない。
「あなたはもう終わりよ!バカで野蛮で、立場もわきまえず、学問の価値もわからない、人間のクズ!」
「うるせー!死ぬのはお前だ!お前が済んだら、次は弟子を皆殺しだ!」
そう強がってみたはいいものの、どうすればいいのやら。
「この屋敷、複雑に部屋や中庭が繋がって、構造がわかりにくいな。外から見た印象よりもずっと広いだろうし、こんなときどうするか。」
通ったところはさんざんに荒らしてるから、同じところを何度も通るって心配はない。でもどれほどそうしていられるかな。ヒドロに逃げられる心配だってあるし、厄介だなあ。
「そうだ、思いついたぞ!」
俺は壁を殴りまくった。壁はあっさり砕けて、木や石の粉が舞った。空いた穴は、部屋に繋がっていた。
「俺って天才だぜ!このまま全部突っ切ってやれば、そのうちヒドロの奴も見つかるってわけよ!」
「…相変わらず荒っぽいのね」
「お、機嫌悪くなったか?つまり効いてるってことだ!」
それでいけると思って、その後も暴れ倒したんだが、ヒドロは見つからない。
「うーん、まだ壊せていないところがあるぞ。もっと一気にたくさん壊せたらいいんだけどな。建物を一気に壊す方法は…」
そう思った俺は、床を壊して一階に戻って、そして柱にしがみついた。
「何をしているの…?」
「まあ見てろよ」
柱は魔法を撃ってくるから、全身に魔法浴びて滅茶苦茶痛いんだけど、このくらい我慢できない俺じゃない。
「うおらーっ!」
俺は柱を掴んだまま、のけ反る。建物全体がきしんで音を立てる。
「正気!?やめなさい!そんなことをしたらあなたも死ぬわよ!」
「やってみりゃ分かるさ、そらーっ!」
柱がほんの少し傾いた。攻撃はどんどん激しくなるが、気にしない。
「あなたたち、早くあいつのところへ!さっさと止めて!」
ヒドロが部下に指示を出してるな。今邪魔されたら、さすがの俺でも耐えられない。急がないとな。
「おおおおおっ!」
柱が少しずつ、傾いていく。壁や天井が音を立てて歪み、時折バキバキと割れる。
「そんな…ここまでなんて…」
「ぶッ壊れろー!」
剥がれ落ちた壁や天井を浴びながら、俺は柱を倒しきった。しばらくは達成感でぼーっとしていたが、風に髪を撫でられて、そこで周りの様子に気付いたんだ。
「第6班は救援に、第8、9班は被害の確認!」
屋敷は、俺がいるところの周りだけ大きくえぐられたようになっていた。家具や建材が散乱して、そこだけ切り取って見れば廃墟のように見えるありさまだった。
「さっきの声からすると…まだヒドロは屋敷で戦うつもりらしいな」
俺はこのやり方が正しいと確信して、その後も柱を倒して行った。16本ほど倒したところで、壁の向こうから、聞きなれた声と、他に復数人の声を聞いた。
「動ける人員は!?あと何人いるの!?」
「わかりません、なにぶん滅茶苦茶に壊されて、連絡もろくにできないので…」
「…ここにいる人員は?」
「6人です。ヒドロ様を合わせれば7人ですが」
「…あなたたち、闘いに自信は?」
「俺とこいつは、剣と攻撃魔法をそれなりに使えます」
「闘いの経験はありませんが…治癒魔法を、ごくごく平凡なくらいに」
「残りは…」
「ええ、できません。元よりメイドとして雇われているもので…」
「そう…仕方ないわね…とりあえず、この部屋を守りなさい、全力で。でなければあいつは倒せない」
「全力なら倒せるみたいに言うじゃねえか」
「!?」
壁を蹴り破って、部屋に入る。スーパー虐殺マンの登場だっ!
「ロンド…」
「ヒドロォ…ずいぶん焦らしたな…?」
「この化物め!」
二人の男が、剣を振りかぶってやってくる。だがそれだけでどうにかなるわけでもなく、俺の両腕にあっさり粉砕される。
「!そこっ!」
ヒドロが手のひらを向けると、突如床から鎖が飛び出して、俺に巻き付く。
「あなたたち、今のうちにあいつを殺して!ナイフがあるでしょう、それで!」
「は、はい!」
なかなかきつい拘束で、あまり動けずにいたわけだが、向こうも闘いには慣れていないのか、もたついている。
「何をしているの、急いで!」
「い、いきますっ!」
メイド達が刃物を持って、俺の首を刺そうとする。だが軌道が安直な上に、速さも足りない。俺は刺そうとした刃を避けて、手首を噛みちぎる。
「えっ?」
一人が血を流しながらナイフを落とすと、他の三人は動揺して、動きが止まる。その隙を見逃さない俺は、敵の顔に飛び付き、またもや噛みちぎる。顔の肉を無惨に奪われた魔法使いは、奪われた部分を抑えながら倒れる。
「ひ…」
「いやぁぁ!」
一人は気絶した。そしてもう一人は、壁の割れたところから逃げていった。
「ちょっと、逃げないで!…はっ」
俺はヒドロを見つめ、そして口角を上げる。
「なあ…ヒドロ…」
「くっ…!」
「お前相当キツいだろ…?魔法を使っても俺を縛るだけで、それでも、このくらいなら、無理矢理お前のとこまで歩いていける…!」
「心配ご無用!救援が来るはず…」
「間に合えばいいな」
俺は一歩一歩、ヒドロに向けて進んでいく。ヒドロの選択肢は二つ。このまま俺の接近を許して噛み殺されるか、拘束に使うぶんの魔力を減らして、俺を攻撃するか。もっとも、今より拘束が弱ければ簡単に突破できるし、半端な攻撃じゃ俺を倒せないから、後者はほぼ不可能だけど。
「…あなたの考えていることはわかるわ、絶望的な二択を強いたつもりでしょう」
「すげー、お前頭いいんだな。今度官僚の昇格試験受けてみたらどうだ?」
「ええ、そうさせてもらうわ!」
突然拘束が外れる。同時にヒドロは拳を引く。
「何を!?」
「マジック・フィストォーッ!」
ヒドロの正拳突きが飛んでくる。まさかの第三択に、俺は防御も回避もできず、あばらに強烈な一撃を食らう。
「ぐっ…!」
「効いたわね?それではもう一発!」
今度は左手を引いて、また激強パンチ効きパンチ!さすがに二度は食らわず、腕で受けたけど、細腕から放たれたとは思えない重い一撃だ。
「魔法使ってるなお前!」
「魔法使いが魔法使うの当たり前でしょう!」
俺は意外な格闘能力に驚きながらも、落ち着いて一つ一つ対応していく。
「反撃しないの?なら一方的にやらせてもらうわ!マジックフィスト!マジックキック!マジックハンマ!」
(こいつ…威力は強化してあるが、耐久力のほうはどうなんだ?)
俺は試しに、ヒドロの正拳突きに、正拳突きをぶつけてみる。
「あっ…?」
ヒドロの右手は変な形になった。思った通り、耐久力はそんなに伸びてない。攻撃同士でぶつかり合うことは想定してなかったみたいだぜ!
「やってくれたわねマジック…。けれどそれでも勝負は決まっていないマジック。正義は勝つのよマジック!」
「うるせー!暗殺試みといて正義気取ってんじゃねーマジック!俺は最強マジック使いが本物の正義を見せてやる!」
俺はヒドロに連続でパンチを叩き込む。ヒドロの身体が音を立てて壊れていく。人間がこんなに簡単に壊れるなんて、マジックってすげえ。
「ぐふっ…」
「オリャアーッ!」
ヒドロの体勢がついに崩れる。
「ヒドロ、お前に人生最後の魔法を味わってもらうぜ!」
俺は口の上下に手を掛ける。
「あ、あっ」
そして、口を、上下に、思い切り、無理矢理、限界を遥かに超えて開かせる。
「暴力!」
「ああああああああああっ!」
ヒドロは、口を裂かれ、顎の関節を引き離されながらも叫ぶ。しばらく涙を流して叫びながら、回復魔法を使っていたけど、出血が激しすぎたらしく、そのまま倒れて、ピクリとも動かなくなった。かつての仲間の無残な亡骸を見て、俺は自然と涙が出てきちゃったんだよね。
「ヒドロ…お前はこんなことで死ぬべき奴じゃなかった。偉大な魔法使いヒドロ、賢いヒドロ、強いヒドロ、美しい…まあ今は美しくないんだけど…ヒドロ、生きてればもっと活躍できたはずなのに。」
どんなに泣いても、壊れきった関係(あと肉体)は元に戻らないって、そのとき実感したぜ。俺は悲しみをその場に置いて、立ち去った。帰り道、俺はあることが気にかかって立ち止まった。
「ヒドロの死体ちゃんと殺したっけ」
殴りまくったし口を滅茶苦茶な開きかたさせたから、たぶん殺せてたと思うんだけど、でも万一殺してなかったら危ないし、いやもちろんここまでちょっと歩いたから、確認のためだけに戻るってのはだいぶ億劫なんだけれども、でも確認しないと危ないかもしれないし。
「うーん、一応もう一回見とくか」
俺は戻って、ヒドロに呼ばれてたらしき兵士達を殺して、さっきズタボロにしたヒドロのそばに来た。
「ちゃんと殺しとかなきゃ、不安でしょうがないしな」
俺は倒れていたヒドロを思い切り蹴飛ばした。
「あっ」
ヒドロはずっと遠くまで飛んでいった。後を追いかけると、ヒドロは川を流れていた。
「ヒドロの川流れってわけか。」
それから俺は、これでよしと思って、全速力で都の外にあるラッセル提供の隠れ家まで逃げたぜ!




